Attack On Titan


≫Clap ≫Top

ラブソングをキミに


平穏の終わり 6


「もう間もなく、シガンシナ区の壁が見えてくるはずです。」


今回の壁外遠征での拠点地を離れてから5日目の夕方、団長の班の1人がそう伝えた。


「わかった…。全員もう1度装備の確認をしておけ。」


ここにたどり着くまでの間、確実に北での巨人出現率が増していた。
それは先輩兵士たちの口数からもわかる。
壁に向かうにつれ、みんな口数が減ってきていた。
みんながきっと、考えてしまっている。
…もし、壁門が、壊されてしまっていたら、と…。
そしてその思いは、


「団長!シガンシナが、シガンシナが…!」
「…なんてことだ…!」


現実のものとなる。


「おい、どういうことだ!?門が壊されたどころか、壁に大穴が、」
「あの壁をぶっ壊せる巨人がいたってことか!?」
「そんなバカな!どれだけ分厚いと思ってんだ!!仮に30メートル級がいたとしても無理に決まって、」
「黙れっ!!!」


騒然となる場に、エルヴィンさんが一喝が響いた。


「起こった出来事の憶測をしている場合じゃない。現状を受け入れろ!…団長、」
「あぁ…。全員よく聞け。…この距離から目視出来るほど、壁に穴が開き、そこから巨人がシガンシナに侵攻したと考えられる。我々は一旦ここで待機、巨人の活動が鈍る夜間一気に北上しシガンシナに入る。」


団長が青ざめた顔で淡々と語る。


「いつ穴が開き、そして今シガンシナの人々がどうなっているかはわからんが…、我々が出来ることは1人でも多くの生存者を救うことだ。シガンシナに入り次第、左右壁沿いを行く隊、中央からウォール・マリアに向かう隊の計3つに別れ生存者を救出しつつウォール・マリアへ向かう。馬で向かうか立体機動で向かうかは各自の判断に委ねる。」


団長の言葉の後、つかの間の休息に入る。
…最も、壁のあの大穴を見て、休める人なんて、いないだろうけど…。




「エルヴィン。」
「どうした、ミケ?」
「…血の臭いだ。かなり時間が経過しているような気もするが、ここにいてもはっきり臭う。」
「…」
「それも…、かなりの量が流れている可能性がある。」
「…そうか…。…死んだ人間は、『音』を立てないな…。」
「あぁ…。」




目視でもわかる大穴を横目に、待機時間中、それぞれがそれぞれの装備の確認を黙々としていた。
…シガンシナが陥落した。


−約束だぜ!!−


遠征前にほんの数言、言葉を交わしたあの、コニーくらいの歳の…名前は確か、エレン。
彼は、無事だろうか…。
ちゃんと、逃げれただろうか…。


「フィーナ?」
「え?」
「大丈夫かい?…シガンシナに、知り合いでもいるの?」


そう言ってきたのはハンジさん。


「…シガンシナの人は、どう、なったんでしょう、か?」
「…きっと、逃げ延びた人もいるよ。」


ハンジさんは、嘘を吐かない人だ。
逃げ延びた人「も」いる。
つまり…、逃げ遅れた人もいる、ということだ…。
逃げ遅れた人の中に、あの少年がいないといい。
それだけを、思っていた。


「これより一斉に北上する。」


そして数時間ののち辺りは闇に包まれ、キース団長の号令がかかった。


「目的地はシガンシナ区の大穴。ここからなら夜明けには到着しているはずだ。夜明けと共に一気に壁内に入りウォール・マリアを目指す。これより先は班単位の行動だが、危機回避において各自の判断に委ねる。壁の中と言えど巨人が溢れていると思い決して気を抜くな。…進めっ!!」


団長の合図に、それぞれが松明の灯を頼りに前進を始める。
夜間巨人の活動が鈍るとは言え、遭遇率がゼロになるわけではない。


「右前方、1体いますっ!」
「右翼前列注意しろっ!!」


だからいつも以上に、全神経を耳に集中させていた。


「あぁ…、なんと言うことだ…。」


だからなのか、シガンシナの壁につく頃には、いつもよりも疲労がある気がした。
団長の呟きに、夜明けの、瑠璃色に染まった空の下、大きな大きな穴が開いたシガンシナの門、…門が、あった場所で全兵士が止まった。


「…予定通り、これよりシガンシナに入りウォール・マリアを目指す。全員、装備はいいな?」
「「「はっ!!」」」
「進めっ!!!」


そしてこの日、朝焼けの空の下私たち調査兵団実行部隊はこの世の絶望を目にした。

.

prev next


bkm

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -