Attack On Titan


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ラブソングをキミに


焦燥 5


「調査兵団が帰還したぞー!」


それから数週間後、訓練兵団宿舎に、調査兵団帰還の声が響いた。
…わーっと、通りまで駆けていく子たちの中にはもちろん、エレンだったりミカサだったりアルミンだったり、…リヴァイさんのファンの子たちだったりがいた。


「姉ちゃん!」
「うん?」
「小さいお兄さんが帰ってきたけど!!」
「…コニー、いい加減名前覚えた方がいいと思うよ?」


コニーはリヴァイさんを「ちっさいオッサン」から「小さいお兄さん」と認識したようだけど、はっきり言ってあの人を目の前にして「小さい」なんて言ったらコニーくらいの兵士(しかも訓練兵)瞬殺されると思う…。
…あぁ、でもそうか。
リヴァイさん、ちゃんと帰ってきてくれたんだ…。




「リーヴァイ!」
「来んな、クソメガネ。」
「え!?そういうこと言っちゃうの!?せーっかく壁内に帰ってきた、って言うのにさ!」
「喋ってる暇あんなら、さっさとその薄汚ぇ体洗って来い、それまで俺に近づくな。」
「機嫌悪いなぁ、せっかく帰還したって言うのに!」
「………」
「あ!…あーあ、行っちゃったよ…。」
「リヴァイ!…って、あれ?今いなかった?」
「あ、ナナバ。さっきまでいたんだけどねぇ…。」
「…何、アイツまだ機嫌悪いの?今回の遠征中ずっとじゃない?」
「そりゃあ仕方ないよー。だってフィーナのあの性格からして出発前はお見送りしてもらえるものだと思っていたのにいなかっただろう?じゃあお出迎えは、と期待してたのにこれまたいないんじゃリヴァイも拗ねぐはっ!?」
「…おい、クソメガネ。誰がいつそんなこと言った?臆測でテキトーなこと言ってんじゃねぇぞ、クソが。俺が遠征中機嫌悪かったのは事あるごとにテメェが絡んで来たからだろうが、あぁ?聞いてんのかクソメガネ。返事くらいしろよ、おい。」
「(訓練以外で飛び蹴りされた奴初めて見た…)いや、リヴァイ。あんたがハンジの顔踏んでるから返事出来ないんだろ…。」
「で?」
「え?」
「テメェは俺に何の用だ?」
「あ、あぁ…、さっきエルヴィンがあっちで、」
「それを早く言わねぇかグズが。」
「(フィーナいつ帰って来るんだろ…)」



「おい、モブリットッ!」
「はい?」
「あっちで寝てるクソメガネを水に沈めて洗い流して来い。」
「(出た、不条理な『上官命令』)はいはい。水に沈めりゃいいんですね?」
「あのクソ汚ぇツラを俺の前に晒すんじゃねぇ。」
「わかってます、わかってます(この人の機嫌管理する『部下』はいつ帰って来んだよ…)」



「…ぶはぁっ!!!?」
「あ、気づきました?」
「モ、モブリット、なんだいこの水攻めはっ!」
「そうしろ、って命令なんで。」
「命令!?さてはリヴァイだな!?なんだよフィーナがいないからって拗ねて私たちに当たらなくてもいいじゃないか!そう思わないかい、モブリット!」
「…あんた本当にいい加減にしないと、俺だって面倒見きれませんよ?」
「あはは!モブリットなんだかお母さんみたいだね!」
「(こんな娘やだ…)…はぁ…」




「調査兵団、帰還しましたね。」


その日の夕飯時、エレンが私に話しかけてきた。


「うん、そうだね。」
「今回は犠牲者数が少なかった、って言ってました。」


私とエレンの会話にアルミンが加わった。


「と、いうか、」
「はい?」
「…エルヴィン団長が考案した長距離用索敵陣形での遠征になってから、死傷者数はぐっと減ったんだ。」
「「へー…」」


理解したのかしていないのかはわからないけど、エレンとアルミンは感嘆の声をあげた。


「エルヴィン・スミス団長。…かなりの凄腕って話ですよね?」


アルミンが私を見ながら言う。


「そう、だね…。…昔、先輩兵士から言われたんだけど、」
「はい?」
「…エルヴィン団長は『誰より優しくて、誰より非情』って。…たぶん、一緒にいたら、それが理解できる人、か、な?」
「優しいのに、非情、です、か…?」


私の言葉にエレンが「?」を飛ばしているような、そんな顔をしていた。


「た、ぶん、」
「はい。」
「エルヴィンさんは、『何かを変えることが出来る人』だと思う。」
「はい。」
「…エレン、は、『何かを変える』ために、『何が必要』か、わかる?」
「え?」


私の言葉に、エレンは腕を組み、うーん、と上を見上げ唸った。


「意志、とか…?」
「…うん、それも必要。…でもね、」
「はい。」
「1番必要なのは、たぶん『何かを捨てること』だと思う。」
「…捨てる、です、か?」
「そう。…エルヴィンさんは確かに優しい。だけど、『何かを変える』ために、躊躇い無く『何かを捨てる』ことが出来る人だと、私は思う。」


だからこそ、とても怖い人。
…けどきっと、調査兵団、ひいては人類のためには、必要な人なんだと、思う。


「お姉さんも、」
「うん?」
「何かを捨てることが出来ますか?」
「え…?」


エレンの瞳は、いつ見ても真っ直ぐだ。
シガンシナの、あの悲劇を目の当たりにしたはずなのに…。


「…私は『今』を守ることに必死で、何かを変える、なんて、出来ないよ…。」


最も、その「今」すらも確立出来ていない怪しい感じだけど…。
私の言葉にエレンは、そういうものですかね、なんて言った。
私に何かを捨てる、なんてことが出来れば、それは確かに変わるだろうけど…。
今あるもの、作り上げたものを守ることで精一杯で、変えよう、なんてところまで、まだ頭が回らない。


「何も巨人に対してだけじゃなく、日常生活においても変えようって思えたらまた違ってくるのかもしれないけど、」
「フィーナ、……さん。」


私がポツリ、と呟いた言葉に反応したのはそれまで黙っていたミカサだった。


「っと、ごめんごめん。…私これから書類整理しなきゃだから、」
「え?あ、はい。頑張ってください。」
「ありがとう。エレンたちはごゆっくり!」


そう言って、食堂を後にする。
…弱いところを見せない、って、大変なことだと思う。
……なのに、弱いところ「も」見せてもらえない、って…。


「休暇申請、出そうかなぁ…。」


誰に言うわけでもなく、漏れた本音は闇夜に消えた。

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bkm

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