Attack On Titan


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ラブソングをキミに


焦燥 4


「フィーナ、……さん。」


調査兵団が長期遠征に出てしばらく経った頃。


「別に『さん』つけなくて良いんだよ?」
「つけないと、エレンが怒るから。」
「そっか…。」


ミカサが私に話しかけてきた。
…あの10日間の訓練があったからか、ミカサは私をそれなりに評価してくれているようで、当初の態度からはだいぶ軟化したと思う。


「それで?どうかした?」
「立体機動のことで聞きたいことがある、…です。」
「…だから無理に敬語にしなくても、」
「エレンが怒るから。」
「…大変だね。」


そして立体機動装置について、何かある度に素直に聞きに来てくれるようになった。


「こうした時に、ここが、」
「あぁ…。その時はきっと、」


私がこの子に教えてる知識は、「死なないため」の知識。
だけど、裏を返せば、「死の危険性を伴うことへの誘い」なのではないか、って。
どんどんと立体機動の扱いが、…そう、まるでリヴァイさんのそれのようになっていくミカサを見ていて思う。


「…って、やればいいんじゃないかな?」
「……………」
「…なに?わからなかった?」


聞かれたことに対して、一通り答えると、ミカサはそれに対して返事はなく、ジーッと私を見ていた。


「…どう、か、した?」
「…なにかあった?」
「え?」


ようやく口を開いたミカサから、思いがけない言葉が返ってきた。


「ちょっと、違う。」
「…どこが違う?」
「………なにか、違う。」


ちょっと「何か」違う、と言われても、違う自覚がない場合、どう答えたらいいんだろう…。


「エレンが、」
「うん?」


私がどう答えようか考えていたら、ミカサが口を開いた。


「エレンが、調査兵団いつ頃帰還するのか、って。」
「え?」


ミカサは、自分の立体機動装置に手をかけながら、私の方を見ずに言った。
…あぁ、私が「ちょっと違う」理由が、それだと思って…。
でもきっと、私と同じで、他人に自分から話しかけるような子じゃないから、他の話題を振りようもなく、不器用に話しかけてくれている。


「…実は私も、今回の遠征、どのくらい行ってるのか聞かされてないんだ。」


遠征は、臨機応変に期間が変わり、いつ帰還、とはっきり言えるものじゃない、ってわかってはいるけど。
それでもどくらい行ってるか全く誰も教えてくれなかった、って、ちょっとそれも、なぁ…。


「調査兵団は、」
「うん?」
「死傷者ゼロの遠征は、ないの?……ですか?」
「…うん、残念だけど…。少なくとも、私が入団してからは、ない。」
「…」
「それを失くすためにも、入団してからも『強く』ならなきゃ、いけないんだけど、ね…。」


その理屈は、自分でもよく理解しているつもりだ。
でも…、だからって、みんながみんなリヴァイさんのように強くなれるわけでもないことも、理解している。
努力はしなければ、実を結ばない。
だけど全員に平等に、努力の分だけ、力が宿るわけでも、ない。



「フィーナ、…さんは、」
「うん?」
「弱い?」
「…そうだね。だから『ここ』にいるんだと、思う。」


「だから」みんなが行った遠征に、行けないんだと、思う。


「エレンが、」
「うん?」
「『お姉さんは強い』と言った。」
「…え?」
「壁外から、帰還してきている。何度も、何度も。」
「そ、れは、」
「あなたは強い。…ので、エレンは憧れている。」
「…エレンのあれは、」
「エレンだけじゃない。」
「え?」
「アルミンも、…私も。」
「…え、」


ミカサは私を見ないまま、ぎゅっ、とマフラーを掴んで話続けた。


「ので、私たちの前では、強いままでいてほしい。」
「…はい。気を、つけ、ます…。」


それだけ言うと、ミカサは去っていった。
強いままでいてほしい、つまり、弱さを見せないでほしい、ってことで。
…憧れているから、弱さを見せないでほしい、か…。
それは、わかる気が、する。
もし、仮に、リヴァイさんが突然弱音を吐いたら、幻滅はしないけど、驚きはする、と、思う。
だけど…。


「言ってほしい時も、あるんだけど…。」


兵士としての私は、


−お前程度の兵士が俺の班にいたら俺が仕事出来ねぇだろうが−


リヴァイさんの役に立つことは、きっとないと思う。
だからこそ、兵士じゃない私は…。


−帰って来い。ここに−


あの部屋でくらい、リヴァイさんが弱さを見せれるような、そういう存在に、なれたらいいなと、思っている。
どんなに強くても、リヴァイさんだって痛みを感じることもあれば、悲しむことだって、あるんだから。
…だけど…。


「きっとそこでも、役立たずなんだろうなぁ…。」


置いていかれたことへの焦燥が、どんどん自己否定に繋がり、深みにはまっていくような、そんな感覚。
深くため息を吐いて、ランプの灯を吹き消した。

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bkm

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