Attack On Titan


≫Clap ≫Top

ラブソングをキミに


心の距離 5


今現在やっと「夕方」に差し掛かったところなんだから当たり前と言えば当たり前だけど…。


「…誰もいない…。」


兵士たちはまだ職務中なわけで…。
部屋はもぬけの殻だった。


「………」


久しぶりに戻ってきたこの部屋は、相変わらずで。
…何と言うか、空気すらも綺麗に感じるくらい整理整頓された部屋だった…。
ベッドもピッ!とシワ1つなく整えられていて、…あぁ、うん、リヴァイさんの部屋だな、と思った。
…そんな塵1つ落ちていないであろう部屋の中で身の置き場がなく…。
しばらくボーっとソファに座っていたけど、とりあえずお風呂にでも行こう、と、部屋から出た。


「…ふぅ…。」


そろそろみんなもお風呂に来るかなぁ、とか。
ご飯が先かなぁ、とか。
…リヴァイさんは、何時頃戻ってくるのかな、とか。
そんなこと考えていたら、すっかり長風呂になってしまった。
じゃああがるか、と、お風呂を出て鏡を覗き込んだら、だいぶ長湯をしたせいか顔が赤くなっていた。
コツコツと松葉杖をつきながら自室に向かう最中で、また同じようなことが、頭を過ぎる。
…リヴァイさん、いつも帰り遅かったしまだ来てないだろうな…。
…と、いうか、「今日帰る」って言うことは昨日いきなり決まったんであって、当然知らないだろうし、お酒飲みに行って帰ってこない、とか…。
そもそも「帰る」って言ってるけど、私の居場所、ない、とか…。
あぁ、どんどん暗い方向に考えが…。
でもだって、「いってらっしゃい」もなく「あぁ」だけで終わった人が、何度も手紙出したのに、1度も返事をくれない人が、私なんかのスペースを、本当に残してるなんて、思えない、し…(私の荷物はあったけど、やたら部屋の隅に追いやられてた気が…)
そんなことを思いながらカチャ、っと部屋のドアを開けたら、


「あぁ、イルゼ。悪いがそっちの、」


誰もいないと思っていた部屋に、リヴァイさんと、…女の人が立っていた。


「…………」
「…………」
「…………」


少し、驚いた顔をしたリヴァイさんと、あ、って顔をした女の人と、顔を少し赤くして明らかに湯上りでラフな格好をしている私の3人の間に一瞬の沈黙が訪れた。


「あ、あのっ、」
「す、すみません、間違えました!」


バタン、と、思わず開けたドアを閉めた。
…………今の子知ってる!
新兵のイルゼ・ラングナーさん。
え、なんで?
なんでイルゼさんが部屋にいるの?
私がリヴァイさんの部屋で暮らすようになってから、今の今まで、「女の人」が部屋に来るなんてなかった(遠征中のお掃除してくれる人は別)
それなのになんでよりにもよって「今日」いるの!?
……………もしかして私、部屋の隅に追いやられた荷物のように、本当にスペースがないんじゃ…?


「あっれ?フィーナか?」
「え?あ!ほんとだ、何帰ってきたの?」
「…ゲルガーさん、ナナバさん…。」
「今からナナバと俺の部屋で飲むか、って話してんだけどお前も来るよな?」


なんとなく、部屋から離れてみたものの行くあてなんて、本当にエルヴィンさんの部屋くらいしかない私に、ゲルガーさんの拒否権のないお誘いは、ありがたいもので…。
そのままゲルガーさんの部屋にお邪魔することにした。




「…フィーナさん行っちゃいましたよ?」
「部屋間違えたんだろ。それよりイルゼ、その書類を、」
「差し出がましいようですが、」
「あ?」
「追いかけた方がいいんじゃないですか?」
「…なんで俺が。」
「久しぶりに恋人の部屋に来たのに、他の女がいたら、私だって逃げます。」
「…『恋人』だったら、の話だろ。そっちの書類から必要な資料を、」
「兵長は隠しているつもりなのかもしれませんが、」
「あ゛?」
「兵長だけじゃなく、先輩兵士たちも隠してるつもりかもしれませんが…、前回のフィーナさんが怪我した遠征の時の兵長を見たら、兵団内で気づいていない人間の方が少ないですよ。」
「………」
「追わなくて、いいんですか?」
「…今は職務中だ。さっさと仕事しろ。」
「…あの格好、たぶんお風呂あがりですよね?もしかしてここは『恋人の部屋』じゃなくて、」
「喋ってねぇで手動かせ。そっちの書類から必要な資料を探して、」
「兵長。」
「なんだ?」
「隠したいならせめて、そこの可愛らしいスノードーム、片付けた方がいいですよ。この部屋に来て、1番最初に目につくから…。」
「あれは俺のだ。どこに飾ろうがお前には関係ねぇだろ。」
「(仮にそれが本当だったらいろんな意味で怖いって言うことに気づいてないのかな…)早く仕事終わらせましょうか…。」



「で?で?可愛い子いた!?訓練兵!」


まぁ飲めよ、とゲルガーさんに薦められるまま、お酒を飲み始めた。
表面とは別に、ざわりざわり、と心が揺れていた。


「『天使』ってみんなから呼ばれてる金髪の子が1人、」
「おぉ!天使!いいねー!」
「ゲルガー、あんたいくつだよ?訓練兵ってことはその子、」
「12歳のはずです。」
「ロリコン確定おめでとう。」
「バカ野郎!将来の美女候補は今から目つけとかなきゃだろ!」


ゲルガーさんとナナバさんのやり取りを、どこか遠くで見ているような、そんな感覚だった。




「ハンジ、いるか?」
「…いるか?って聞きながら返事を待たずに人の部屋のドア開けないでくれる?」
「フィーナは…来てねぇな…。」
「(聞いてないし…)フィーナって?帰ってきたのかい?」
「あぁ…。お前の部屋かと思ったんだが…。」
「いや、私の部屋にはいないけど?ナナバのところは?」
「さっき行ったが誰もいなかった。」
「ふぅん?…じゃあお風呂とか?」
「…………見かけたら俺が探してると伝えてくれ。」
「ん、わかった(…てゆうか、リヴァイ何慌ててんだろ…?)」




「つまり俺が聞きたいのは!『人類最強』は下半身も『人類最強』なのか、ってことだ!」


すっかりお酒に飲まれた(フリなのかはわからないけど)ゲルガーさんに、大いに絡まれながら、ナナバさんとグラスを傾けていた。


「ゲルガー、止めなって。」
「同じ男としては気になるところだろ?なぁ、どうなんだよ?」
「し、知りません、よ、そんなこと、」
「またまたぁ!じゃあ3択で答えてくれ!」
「3択?」
「アイツの下半身は巨人か?大型巨人か?それとも超大型巨人か?」
「………………」
「お前!そんな目で先輩を見るんじゃねぇよっ!!!」
「ゲルガー、ほんとに止めなって。」
「ナナバはコイツに甘ぇよなぁ…。…でもまぁ、アイツが弱いイメージねぇんだけどなぁ。」
「そうかい?私は逆に強いイメージがないけど?」
「え!?マジで!?」
「うん。…他で強さを誇示出来る分、そっちは逆に淡白そうなイメージだけどね。」
「あー、そのパターンも、なきにしもあらずだな!」


すっかり(他人の)下ネタトークに火がついたゲルガーさんに、呆れながらもつきあうナナバさん。
…ナナバさんさすがだなぁ…。
人付き合いが上手い、と言うか…。
…私、は…。


「ちょっとゲルガー、煙い!」
「あ、じゃあ窓開けます、ね。」


松葉杖をつきながら、ふわふわっ、とする足取りで窓際に行くと、窓ガラスが若干汚れて、外が少し黄ばんで見えた。
…普通男の人の部屋の窓ガラスって、こんななんだろうな…、なんて思いながら窓を開けると、心地よい夜風が入り込んできた。
窓の外には、きらきら星が瞬いている。


「…〜♪」


あぁ、この部屋、街側じゃなく山側に窓があるから、すごく眺めがいい。


「〜♪〜…」
「お前、歌上手ぇんだな。何言ってんのかわかんねぇけど。」


ゲルガーさんがそう言った直後、部屋のドアがバタン、と開いた。


「お!リヴァイ、お前も飲」
「テメェ、ここで何してる?」


ドアを開けたのは、明らかに機嫌が斜めどころか直角に折れたんじゃないか、ってくらい不機嫌そうな顔を隠しもしないリヴァイさんだった。

.

prev next


bkm

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -