Attack On Titan


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ラブソングをキミに


心の距離 4


「…元々のセンスのある奴だったが…、」
「はい。」
「圧倒的、だな…。」


ミカサへの指導はほんの10日ほどで終わった。
わずか10日、されど10日。
キース教官も言ったように、元々センスがあったミカサは、あっという間に私の言うことを…リヴァイさんが私に教え込んだことを理解し、より自由に立体機動を扱える存在へとなった。


「やはりミカサ・アッカーマンがトップだな。」


小さく呟くようにキース教官が言った。
教官やその補佐をしている私が個人的に訓練兵に目をかけることはやはり良い風には取られない。
たった10日ではあったけど、極秘で行われた訓練のことを知らないキース教官はミカサのその才能に純粋に脱帽していた。


「もっともこのまま訓練修了できるとも限らんがな。」
「はい。」
「とりあえず、だ。」
「はい?」
「この報告書、エルヴィンのところに届けてくれないか?」
「…え?」


届けてくれないか、と言う言葉と共に、訓練兵の評価報告書を私に差し出したキース教官。


「調査兵団の次の遠征日程が決まった。」
「え?」
「10日後出発だそうだ。その前にエルヴィンがお前に確認しておきたいことがあるようで1度戻ってきてもらいたいらしい。」
「…はい。」
「ついでにその足の様子も診てもらって来い。」


そう言ったキース教官に一礼し、部屋から出た。
…………突然家に帰れ、的に言われても…。
こっちに来て1ヶ月弱。
慌しい毎日、眠れない日だってあった。
でもそんな弱音を吐いてる場合じゃなかった、と言うか…、それ以上に日々に追われていた。
そんな毎日の中でも忘れてたわけじゃないどころか、今もはっきり思い出せる。
ここに来る当日の朝、いつもと変わらず「あぁ」とだけしか言わなかった人のことを…!
それどころか、一応現状の報告も兼ねて手紙だって何度か出したのに、ただの1度も返事をくれなかったことも…!
…そんな人のところに、私帰っても本当にいいんだろうか…?
と言うかそもそも本当にまだ、あそこに私の居場所ってあるんだろうか…。
あの朝のリヴァイさんの態度と言い、手紙の返事もないことと言い…、私の居場所、なくなってたらどうしよう…。


「…はぁ…。」


帰りたいような、帰らない方がいいような、そんな気持ちの中、大きなため息が出た。
…とりあえず、明日行く前にもう1度キース教官のところに行って挨拶して、それから本部兼宿舎に向かう、ってなると、馬車だとここから2時間とちょっとだからお昼過ぎ?
だったらきっとエルヴィンさんは執務室だろうし、リヴァイさんは…、


「なにしてるか、わかんないよ…。」


ポツリ、と呟いた言葉は夜の闇にかき消された。
そして翌日、


「では、」
「うむ。2日間だけだが、古巣でゆっくりして来い。」
「はっ!」


キース団長から2日間の休暇を貰い、馬車に乗って調査兵団宿舎へと向かった。
………なん、か…、やっぱり若干緊張してきてる自分がいる…。
休みになったら帰ってくればいいじゃないか、って言われたことはあっても、実際問題今の今まで「休暇」なんてものはあってないようなもので(書類整理に忙しくて調査兵団宿舎に戻るほどの時間なんてなかった)
だから思っていた以上に、リヴァイさんに会うということがなくなってしまって…。
それまで毎日一緒にいた人とそういう状況になって、なんて言うか…。


「着きましたよ。」
「あ、す、すみません!」


そうこう考えているうちに、馬車はあっという間に調査兵団本部兼宿舎にたどり着いて…。
気が重……。
少し、出発が遅かったため、辺りを見ても、午後の職務もしくは訓練のため建物はとても静かだった。


「入れ。」
「失礼します!」


とりあえず、今日の目的、と言うことでエルヴィンさんのところにまずやってきた。


「フィーナ!元気だったかい?」
「はい。…あの、これをキース教官から、」
「あぁ、すまないね、わざわざ。」


座ってくれ、と促され、エルヴィンさんの執務室のソファに腰を下ろす。


「次の遠征日程が決まってね。」
「はい。」
「行く前にどうしてもキミに確認しておきたいことがあって…。」


そういうエルヴィンさんと前回の遠征時のことで少し話しをした。


「…そうか、ではやはりここの辺りに、」
「はい。この地点あたりから巨人の出現が増えたと思います。」


こういう話をする時、やっぱりエルヴィンさんは「団長」であり、私なんかが気安く話せるような人じゃない、…そういう雰囲気を纏うと言うか…。
「威厳」と言う言葉がぴたりと当てはまるような空気が部屋に張り詰める。
エルヴィンさんは、そういうメリハリを出せる人だと思う。


「今日は泊まっていくんだろう?」
「あ、はい。そのつもりです。」


必要な確認も終わり、15時だしお茶でも一緒にどうだい?なんて「団長」に誘われたら断れるわけもなく、そのまま一緒にお茶をいただくことになった(と、言ってもエルヴィンさんはコーヒー、私は紅茶だ)


「怪我の具合はどうだい?」
「あ、それは、明日戻る前に診てもらおうかと、」
「よくなっているといいね。」


エルヴィンさんは穏やかに笑う。
…本当、今のこの雰囲気からは、さっきのあの張り詰めたような雰囲気は想像できない。


「コニーもなかなかな成績を収めているようだね。やはり憲兵団を目指すのかな?」
「…はい。」
「残念だな…、彼のような『おもしろい』人材はきっとうちの連中と上手くやるだろうに。」
「…そう、です、ね。………でも、」
「うん?」
「私は、コニーに、…『うち』にだけは、入ってほしく、ありません。」
「…そうか。」
「…すみません…。」
「いや…。それは至極当然のことだろうな…。」


コニーに調査兵団にだけは、入ってほしくない理由なんて、1つしかない。
…姉ちゃん、姉ちゃん、て私を慕ってくれるあの子だけは、絶対に、死んでほしくないから…。
3兵団の中で、最も死亡確率の高い調査兵団になんて、入ってほしく、ない。
…最も、コニーのあの様子じゃ、入る気なんて、毛頭ないだろうけど…。


「この後は特に予定もないのかな?」
「はい。…キース教官からはエルヴィンさんへ書類を届けることと、足を診てもらうことを言い付かっているだけなので。」
「そうか。ならば久しぶりの『自室』でゆっくりしたらいい。」


にっこり、とエルヴィンさんは笑った。
…………そう言われてみたら、エルヴィンさんだってシガンシナ陥落前からうちにいるし、何より「団長」って言う立場なのだから知らないわけない。
でも、こういう風に言われるのは、初めてで、なんとなく、羞恥、と言うか…。
それを誤魔化すように、何か話さなきゃ、と、咄嗟に口を開いた。


「で、でも、」
「うん?」
「自室、なん、て、あるんです、か、ね?」
「…え?」


だからって何もこのネタじゃなくてもいいじゃない、と後になって思ったけど…。
ここに来る前、馬車の中で悶々と思っていたことがうっかり口から零れてしまった。


「どういうことだい?」
「あ、い、いえ…、深い、意味はなく、て、」
「…」
「『あの部屋』に、わ、たし、の、『自室』なんて言うスペース、あ、あるのかなぁ、って、思った、と、言う、か…。」


あぁ、なんで今私はこの話題を口にしてしまったんだろうか…。
なんてすでに後悔しはじめた時、


「はははっ!」


エルヴィンさんが声をあげて笑った。


「いや、失礼。」
「は、あ…?」


くっくっ、と今だ喉を鳴らしているエルヴィンさん。


「そうだね。もし『自室』がなかったら私の部屋にでも来るかい?」
「…え!?」


にこにこと笑うエルヴィンさんからは、どこまでが冗談かわからなかった…。


「まぁ、1度部屋に戻ってみるといい。それで無いようなら私の部屋にでもおいで。」


笑うエルヴィンさんに背中を押され、久しぶりの自室に向かった。

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bkm

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