Attack On Titan


≫Clap ≫Top

ラブソングをキミに


心の距離 2


思えばウォール・マリア奪還作戦以降、こんなにもリヴァイさんと離れるなんてこと、なかった。
遠征中負傷した時も会わなかったけど、でもそれは5分以内ですぐ会いに行ける距離だったわけで。
こうも距離的にも、時間的にも離れることはなかった。
だからなのか…、


「…眠れない…。」


なかなか寝つけなかった。
けどそれは、怖い夢を見て眠れなかったあの頃とは全く違う。
夢を見る怯えじゃなくて…、それはやっぱり、「不安」なんだろうと思った。
具体的に何に対して、とかじゃなく、漠然とした不安。
…ううん、「リヴァイさんがいないことに対する不安」で、解決するのかも、しれない。


−「俺」が心配か?それとも「自分」が心配か?−


「…両方、です。…たぶん。」


誰に言うでもなく漏れたその言葉は、冷たい部屋に消えていった。


「姉ちゃーん!」
「コニー、おはよう。」


寝ても寝ていなくても夜は明ける。
翌朝、食堂に向かったらコニーがそれはもう朝から元気よくこっちこっち、と呼んでくれた。


「姉ちゃん!紹介する!俺と同じ部屋のライナーとベルトルト、よく班行動で一緒になるサシャとユミル。それからクリスタね!で、こっちがさっき言ってた俺の姉ちゃん!!」


私を呼んでくれた勢いのまま、ワーッ、と近くにいた友人を紹介してくれたコニー。
…覚えられるか不安…。
とりあえず1人1人に挨拶した。
あとでこっそり、ライナーはオッサン顔のリーダー格、ベルトルトはライナーにべったりで滅多に自分から話してこない私と似た臭いがするタイプ、ユミルはズバ!と物言うタイプでクリスタは訓練兵仲間から天使って言われてる人気者。


「じゃあサシャは?」
「アイツは大食いバカ!」


って、コニーが教えてくれた。
…コニーにバカ扱いされる女の子って一体…。
そして本日の訓練が開始されるわけだけど、キース教官が期間限定で調査兵団から出向した、と私を簡単に紹介した。
…ためなのか、訓練兵の中の一部で私に向ける眼差しが変わった気がした。


「お姉さん!」
「エレン!それから…アルミンと、ミカサ、だよ、ね?」
「はい。」


訓練の合間、エレンが声をかけてきてくれた。
松葉杖をつきながら教官補佐をしてて疲れないか、と心配してくれた。
本当に、弟が1人増えたような気分。
…を、


「…………」


快く思わないのが、ミカサだった。
この…、無表情で他人を威圧、威嚇するって…、かなりな高等技術でリヴァイさんの専売特許だと思っていたけど、実際は意外と誰でもするのかもしれない、なんて思った。
ペラリ、とキース教官から渡された書類に目を落とす。
ミカサ・アッカーマン、12歳。
訓練兵団へ入団して間もないものの、その身体能力は未知数。
トップ10入り最有力候補、と書かれていた。
…無表情で身体能力がずば抜けているなんて、ますますリヴァイさんを彷彿とさせる…。
貰った書類のミカサのページの最後に、現段階において全兵団が情報を欲しがっている訓練兵であると走り書きがされていた。
本当に、優秀な子なんだ…。
…私がミカサを注視したのは、リヴァイさんに似た部分があることと、そう言った前情報があったからなのかもしれない。
そんなある日、1日の訓練を終え、書類整理も終えた後、1人遅い夕飯をとろうと食堂に向かうと、


「ミカサ…。」


1人、食堂でご飯を食べていたミカサを見つけた。
…あんまり、知らない人と共に食事、なんて。
本当は避けたいところなんだけど…。


−現段階において全兵団が情報を欲しがっている訓練兵である−


それはつまり「うち」も例外ではない、と言うこと。
…本当はいけないことなんだろうけど、訓練終了後の自由時間に、ミカサの個人情報の取得と、少しでも「うち」を売り込んでおこうかと話しかけてみた。


「ここ、いい?」
「…………」


…昔の私なら、話しかけた相手がこうも無言、無表情だったら、絶対近寄らなかったと思う。
だけどなんか…、そういうのが当たり前な人と一緒にいたせいか、それが普通だと思ってしまってる自分がいた。
慣れって怖い…。


「何?」
「え?」
「…今笑った。」


ミカサがやっと話しかけてくれた、と思ったら、どうも好意的な会話をするためではなく、自分が笑われたとでも思ったような、イラついたような声色で言葉を投げ掛けられた。


「あ、ごめん…。」
「…」
「ちょっと…、知り合いに似てて…。」


…でも成人前の女の子に対して「あの」リヴァイさんに似てるってのは、ちょっと可哀想な気もしてきたからこの事はもう考えるのはよそう。


「今日は1人なの?」
「…」
「エレンとアルミンは?」
「あなたには関係ない。」


なんとか共通の話題を探そうと必死な私をバッサリ切り捨てるミカサ。
…………うん、本当に関係ないんだけどね…。


「…………」
「…………」


あぁ、どうしよう。
何か話さなきゃなんだけど、何を話したらいいのか…。
共通の話題、共通の話題、共通の…。
…………ダメだ、私に共通の話題を出せるほどのコミュニケーション能力なんてあるわけない。
あぁどうしよう、どうしよう。
その時、カチャン、と音がして音の元に目を向けると、ミカサが食器を片付けて立ち上がろうとしてるところだった。


「そ、そのマフラー!」
「え?」
「いつも、してる、よ、ね?」


改めてミカサを見ると、今日もまた、赤いマフラーを首に巻いていた。


「だから何?」
「…大切な、もの?」
「あなたに関係ない。」
「私も、巻いてる。」
「え?」
「とても、大切なスカーフ。」


−何枚か持ってっていいって言ってんだろ?だからその薄汚ぇスカーフ置いていけ−
−べ、別に、薄汚くないです、し、今回はこれだけで十分です、って、−
−その汚ぇ布が俺がやった物だと思われても迷惑だ。置いていけ−
−…置いてったらリヴァイさんに捨てられるんで、絶対持って行きます−


荷造りをしている私の横で、リヴァイさんがものすっっっっごい嫌そうな顔をしたのが、昨日のことのようだった。


「『温められる』って、不思議じゃない?」
「…」
「ただの布なのに、とても大事なものになって、…巻いてくれた人が、とても大切な人に、なる。」
「………これは、」
「え?」


私の言葉に、ミカサは立ち上がりかけていた腰を下ろし、マフラーを触りながら口を開いた。


「エレンがくれたもの。」
「…そうなんだ!じゃあ、すごく大切なんだね。そのマフラーも…エレンも。」
「………ので、」
「うん?」
「エレンに近づく女は許さない。」
「………………そう、だね…。」


やっと喋ってくれた!と思ったら、ミカサははっきりと私に敵意をむき出しにして去って行った。
…ねぇリコちゃん、私どうやってリコちゃんと仲良くなったんだっけ…?
スタスタと去っていくミカサの後姿を、ため息を吐きながら見送った。

.

prev next


bkm

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -