Attack On Titan


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ラブソングをキミに


乖離 7


「大騒ぎしてた割りに、髪で隠れてるじゃねぇか。」
「…そう、なんです、けど、ね…。」


翌朝、部屋に差し込んだ陽射しの下まじまじと傷痕を見てきたリヴァイさんが言った。
…確かに髪で隠そうと思えば隠れるんだけど、なんと言うか…、もっとこうデリケートな問題なのだから、こう…、デリケートに取り扱ってほしいと言うか、いや、そんなこと今さら期待しないけど…。


「おい。」
「はい、っ!」


無意識に、右手で傷痕のあるあたりの髪を引っ張り隠そう、隠そうとしていた私を見抜いたのか、リヴァイさんは私の右手首を掴み昨夜のように傷痕にクチビルをそっと落とした。


「エルヴィンのところに行くんだろ?」
「…はい。」
「ついでにコレも持って行ってくれ。」


そう言いながらリヴァイさんは私に書類を手渡し部屋から出て行った。


「…」


なんとなく、さっきとは違う意味で、傷痕のあるあたりの髪を引っ張り私も部屋から出た。


「フィーナ!もういいのかい?」


エルヴィンさんの執務室に行くと、少し驚いたような顔をしたエルヴィンさんがいた。


「はい。…折れた足はまだですが、…他は包帯も、取れたので。」
「そうか…。元気そうで良かった。」


エルヴィンさんは柔らかく笑った。
その後エルヴィンさんと今後について話し合ったんだけど…。


「負傷した時点での医師からの報告によると完治には早くて3ヶ月、長ければ半年。その後リハビリ兼現場復帰の訓練期間を考慮したとしてもどんなに早くても半年は遠征は無理だろうな。」
「…すみません…。」
「いや、それはいいんだが…。そうなってくると、キミの普段の作業についてもかなり制限されてしまう。」
「…はい。」
「そこで、だ。」


エルヴィンさんが、机の引き出しから1通の封書を出した。


「キース団長を覚えているね?」
「はい。」
「彼が今どこにいるかは知ってるかい?」
「…訓練兵団の教官になったと聞きましたが…。」
「そう。そのキース教官から、『今年は粋の良い訓練兵が多くて手を焼いている』とぼやく内容の手紙が来た。」
「…はぁ…。」
「『1人で構わないから、手を貸してくれないか』と言う内容だ。」


封書を持ってにっこり笑っているエルヴィンさん。


「………………それはつまり、」
「あぁ。」
「私に訓練兵団教官の手伝いを…?」
「そうなる。」


にっこりと、微笑みながらも、どこか目は真剣そのものなエルヴィンさんに、あぁ、これは命令なんだ、と感じた。


「わかり、ました。」
「すまないね。…それでこの話を受けるに当たって、まさかここから訓練兵団の施設まで毎日通うわけにはいかないからしばらくは訓練兵と共にそちらで生活、と言うことになるがいいかな?」


エルヴィンさんは申し訳なさそうにしているけど、これが決定事項であるなら、「いいかな?」と言うフリではなく「いいんだよな?」と言う確定された疑問文が正しいんじゃないかと思った。


「は、い。大丈夫、です。」


エルヴィンさんからはもう1度すまない、と言われた。
異動は週末で良いそうだけど、何かと準備をしないといけないので、やっぱり早いに越したことはないだろう。
…怪我をした時点で完治まで早くて3ヶ月、という事はどんなに早くても2ヶ月…。


「リヴァイさん、」
「なんだ?」
「今日、エルヴィンさんに会ってきて、しばらく訓練兵団教官の手伝いをすることになりました。」


その日の夜、リヴァイさんが帰ってきてから昼間の出来事を話し始めた。


「ここから毎日、訓練兵の施設まで通うわけにはいかないので、しばらくは訓練兵団の宿舎に行くことになりました。」
「そうか。」
「…………はい、そうです。」


これはつまり「上官命令」であり、決定事項は覆すことなど出来ない。
だからここで仮に「行くな」なんて言われてもすごく困ることだと思う。
……………でもこうもあっさり受け入れられるのも、なんて言うかすごく…。
いや、うん、すごくリヴァイさんらしいんだけど…。
もっとこう…、ないんですよね、きっと……。


「心配か?」
「え?」
「『俺』が心配か?それとも『自分』が心配か?」


リヴァイさんがチラリとこちらを見ながら問う。
…………「心配」?
これは、心配、なんだろう、か…。
心配、と言うよりこれは…。


「帰ってくりゃいいじゃねぇか。休み、あるだろ?訓練兵にも。」


お前もその時休みなんじゃないか、とリヴァイさんは言う。


「『ここ』に、帰ってきて、いいんです、か?」
「…はぁ?」


私がフッと疑問に思ったことを口にすると、リヴァイさんが…明らかにお前馬鹿か?って顔をしながら今度ははっきりとこっちを見た。


「だ、って、本来兵団宿舎では私たちのような状態は、特例中の特例、って、ハンジさんが、」
「だから?」
「だ、から、って…。」


ハンジさんが以前言っていた。
私たちが同室なのは、特例中の特例だと。
それが「上官命令」で一時的とは言え他の宿舎に行く、つまりこの部屋から出る、と言うことは、それはそのまま、その「特例」が解消される、ってことなんじゃ、ない、の…?


「何考えてんのか知らねぇが、お前の部屋はここだ。」
「…」
「あのクソメガネがごちゃごちゃ言ってきてたら俺が黙らせる。」


………それはどうやって「黙らせる」つもりなんだろうか…。
なんて、聞くつもりもないけど(きっと知ってしまったら全力で止めなければいけないような気がするから)


「じゃあ、」
「あ?」
「荷物、全部持って行かなくても、いい、です、ね…?」
「は?お前調査兵団を辞めるつもりだったのか?」
「…そう、いう、わけ、じゃ、」
「じゃあなんで荷物全部持ってく必要がある?」
「………そう、です、ね…。」


本当に、やれやれ、みたいな呆れ顔をしてため息を吐いたリヴァイさん。


「………おい、フィーナ。」
「…」
「何泣いてんだ?お前。」


どんなに早くても2ヶ月は、ここを離れる。
リヴァイさんは「心配か?」と言ったけど、それは心配なんじゃなく、不安なんだ。
今この場所を離れてしまったら、再び同じ場所に戻って来れるなんて、わからないんだから…。


「………なんででしょう、ね。」


自然と溢れてきた涙を、グィッ、と拭っていたらリヴァイさんはまた盛大にため息を吐いた。


「別に、死にに行くわけじゃねぇだろ。」
「…」
「ガキ共の相手に飽きたら帰ってくりゃいいじゃねぇか。」


目元を擦ってる私の頭をぐしゃぐしゃっと撫でてリヴァイさんは部屋から出て行った。
…この場所に私がいることは、当たり前なことなんだ…。
私がここに帰ってくることが、当たり前なんだ…リヴァイさんにとっては…。
リヴァイさんがいなくなった部屋で大きく1つ息を吐いて、異動先に持っていく荷物に手を伸ばした。

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bkm

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