Attack On Titan


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ラブソングをキミに


乖離 6


「兵長、いいですか?」
「なんだ?」
「…フィーナの怪我のことですが…、」
「………何故それを俺に言う?」
「あなたに言うのが1番かと思いまして。」
「……………」
「一応、伝えましたよ。」




自室に戻ってきて数日が過ぎた日の夜。
今現在、容態が落ち着くまでは、と休暇扱いになっているわけだけど、さすがにそろそろ動かないといけないんじゃないかって気になっていた(怪我をした日から数えるともう数週間経ってるわけだし)
明日朝一でエルヴィンさんのところに行こう、と思っていた時、


「お帰りなさい。」
「…あぁ…。」


リヴァイさんが帰ってきた。
…あぁ、もうそんな時間なのか…。
きちんと仕事をしていないと、時間の感覚が曖昧になって仕方ない。
やっぱり明日、エルヴィンさんのところに、行こう。


「…どうか、しました?」


いつもなら帰ってきたらリヴァイさんはすぐにソファに腰を下ろしブーツを脱ぎ始める。
だけど今日は、部屋の入り口のドアにもたれかかるように背を預け黙って立っているだけだった。


「フィーナ。」
「はい?」
「お前、怪我の具合はどうだ?」
「あ、はい。少しずつは、よくなってると、思い、ます。」
「…………」


リヴァイさんはドアに背を預け腕を組んだまま、動こうとしなかった。


「その大層な包帯はいつ取れる?」
「……さぁ?いつ、でしょう、ね…。」
「…………」


私の全身には依然、ぐるぐると包帯が巻かれていた。
腕を組み、床を睨みつけるかのように見ているリヴァイさんに、何かあったのかも、と、自分から言う(ような人じゃないけど、)まで聞かない方がいいかも、と、自然と目を逸らした。


「フィーナ。」
「は、…ぃやっ!!」


コツコツと、私の名前を呼びながら近づいてくるリヴァイさんを振り返った直後、リヴァイさんは私の頭部に巻かれていた包帯に手をかけた。
その一拍後で、半ば髪をむしるような形で、呆気なく頭部の包帯はその役目を終え、床に落ちた。


「…さっき医者から聞いた。」
「…」
「もう傷口は塞がってるそうじゃねぇか。」


リヴァイさんに取られた包帯の代わりになるよう、咄嗟に右手で傷口を覆った。
カタン、と、松葉杖が床に倒れた音が辺りに響いた。


「おいフィーナ、」
「こ、来ないでくださいっ!」
「あ?」


片足でなんとか後ずさりながら言った私に、明らかにリヴァイさんはイラッとした返事をした。
…今は夜中で、「この世界」には電気がない。
だけど、ランプの灯でも…。


「それ以上っ、来ないでください…!」
「…おい、どういう意味だ?」
「言葉通りの、意味、です。」
「…………」


私は幸いにも全身の打撲と裂傷、そして右足の骨折だけと言う怪我で済んだ。
…だけど。


「テメェ、何言って、」
「傷がっ、」
「あ?」
「…傷痕が、残ってるんですっ…!」


全身に無数の裂傷の痕と、何より、額から眉尻にかけて、はっきりとわかる傷痕が残った。


「顔にっ、傷痕が残って、」
「それがどうした?」
「…え?」


すぐそこまで来ていたリヴァイさんに目を向けると、相変わらずの無表情のままで、私を見つめていた。


「顔に、傷痕が、残って、」
「それは聞いた。それがどうした?」
「…体にも、痕が、」
「だからそれがなんだ?」


顔色1つ変えずに、リヴァイさんは言う。


「傷痕がなんだ?うちの兵士で体に傷がねぇ奴なんかいねぇんじゃねぇか?」
「…それは、皆さん男の人だからっ、」
「ハンジやナナバだって自力で帰って来れなかった遠征もあったんだ。アイツらにだって傷くらいあるだろ。」
「でもっ、それは顔じゃないじゃないですか、」
「……お前が見た目を気にする女だったとはな。」
「…」
「なら背が低い俺ともいたくねぇだろ?」
「なっ!?」


リヴァイさんは、ため息を吐きながら目を逸らした。


「わ、私は別にっ、」
「…」
「だ、って、リヴァイさんはリヴァイさんじゃないですかっ!そん、な、別に外見なんて、」
「じゃあいいじゃねぇか。」
「え?」
「俺もお前に傷があろうがなかろうが別に関係ない。お前はお前だ。いつまでも隠してないで、見せてみろ。」
「ちょ、やめっ、…いやぁっ!」
「…おいっ、暴れるな!」
「っ、」


リヴァイさんは傷口を隠していた私の右手首を掴み、あっさり後ろに腕を回した。
なんとか反対の左手で抵抗を試みるものの、その手もあっさりと捕まり右腕同様後ろに回され、リヴァイさんの右手で両手首を押さえつけられた。
傷口を覆い隠すものを失った私は、咄嗟に傷口を見せないように顔を背け俯いた。


「こっち向け。」
「っ!?」


そんなささやかな抵抗も、あっさりと無駄な行為となる。
リヴァイさんは私の両手首を押さえていない左手で私の顎をつかみ、上を向かせた。


「……傷が傷がと喚くからどんなに汚ぇ傷痕なのかと思ったら、遠征前と大して変わらねぇじゃねぇか。」


つまんねぇな、と言いながらリヴァイさんは私の額の傷口にクチビルを落とした。
その行為に、リヴァイさんから目を逸らしていながらも、視界が滲んできたのがはっきりとわかった。


「リヴァイさん、目が、悪いんですよ…。」
「普通だ。俺にはこの程度の傷無いに等しい。」
「…体にも、あるんです…。」
「たかが1回怪我して帰ってきたくらいでガタガタ喚くな煩ぇ。」


リヴァイさんはそう言いながら私の両手首を解放してくれた。
けど、自由になった私の腕はすぐにまた、リヴァイさんを捕まえた。


「リヴァイさん、」
「なんだ?」
「…なんでも、ありません…。」
「…………」


言いたかったのは、ありがとう、なのか、ごめんなさい、なのか、自分でもわからない。
ただ、泣きながら抱きついた私を、リヴァイさんは何も聞かずに優しく抱きとめてくれた。
この日、骨折した右足を残して、私の全身を包んでいた包帯が外された。

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bkm

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