Attack On Titan


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ラブソングをキミに


乖離 4


「…っ、」
「あ!動かないでっ!」


どのくらい、意識がなかったのかわからない。
でも徐々に増してくる痛みに目を開けると、


「…気がついた?ここがわかるかい?」


救護班として同行していた医師が私の顔を覗き込んでいた。


「ここは救護班のテント。…キミは負傷して担ぎ込まれてきたんだ。」


痛み止めを打つから動かないで、と言われた。
「動かないで」と言うけど、実際は自分の体なのに全く「動けない」が正しかった。
片目も包帯が巻かれているのか開かなくなっているようで、先生の顔も、よく見えなかった。


「…わ、たし、」
「うん?」
「食、べられ、たん、じゃ、」


やっとのことで出た言葉は、自分でも驚くほど掠れていた。


「私も実際に見てたわけじゃないけど、…一瞬のことだった、って話だ。」
「…え?」


カチャ、と注射器を用意しながら先生が言った。


「救援に向かった班員の話だと、ね。キミが巨人の口の中に放り込まれた、と思った瞬間、自らその口の中に飛び込んだらしい。」
「誰、が?」
「リヴァイ兵長さ。」


少しチクッとするから、と言いながら、先生は私の腕に針を刺した。


「兵長が口の中に飛び込んだ直後キミと…、ほら、キミの隣で寝ている彼がまるで噴水か何かのように勢いよく巨人の口から飛び出てきて、最後に出てきた兵長が、キミと彼を空中キャッチして見事生還。」
「…」
「その現場、見てみたかったよ。」


不謹慎だけどね、と先生は針を抜きながら言った。


「リヴァイさん、は?」
「あぁ、あの人は無事さ。今頃風呂にでも入ってるんじゃないかな?巨人の唾液まみれになって汚いってぼやいてたし。」


先生はそう言うと少し笑っていた。


「…キミは全身に打撲と裂傷、何より右足は骨折してる。熱も出始めてるようだし、当分はこのテント暮らしだ。」


先生の声を聞きながら、痛みが少しずつ引いてきてるからなのか、うとうととしてきたのが自分でもわかる。


「とにかく今はゆっくり休みなさい。」


…私たちを助けにきたのは、リヴァイさんの班だったんだ…。
痛いとか、痛くないとか、思う前に巨人の口の中に放り込まれていて、なんて言うか…、人間の最期ってこんなにいきなりで、こんなに呆気ないものなんだ、って。
そんなこと思った気がする…。
…リヴァイさん、先生の言った通りお風呂に入ってそう…。
あの綺麗好きなリヴァイさんが、自分から巨人の、口の、中、に、はいる、なん、て…。




「あぁ、やっぱりさっぱりとしてきましたね。」
「あ?」
「…さっき目が覚めてあなたのことを聞かれたんで、風呂にでも入ってると思うと答えたところです。」
「…」
「今また痛み止めを打ったので寝てますよ。…ですが先ほども言った通り、」
「当面は戦線離脱、か。」
「えぇ。完治には早くても3ヶ月、長ければ半年は無理です。」
「…了解だ。エルヴィンには俺からも伝えておく。」
「会っていかれないんですか?」
「寝てる顔見て何になる?」
「…素直じゃないですね、あなたは。」
「あ?」
「彼女には来たことだけは伝えておきますよ。」
「…好きにしろ。」




どのくらいそうしていたのかわからないけど、幾度となく痛みに目が覚め、幾度となく眠りについた。
意識が混濁しているような最中でフッと目を開けた時、


「これから壁内へ向かいます。」


担架で馬車の荷台に運び込まれようとしていた。
相変わらず体が重く、自由が利かない。
辛うじて荷台の横に目を向けると、


「リヴァイさん…。」


なんだかすごく久しぶりな気がするリヴァイさんがいた。


「リヴァイさん、お願いが、あります。」
「なんだ?」
「…もし、巨人に、追いつかれそうになったら、躊躇わず、荷台を、切り離してください。」
「……………」


荷台を切り離すということはつまり、…巨人の餌として自分を見殺しにしてくれということ。
それを今まで共に訓練をしてきた「同志」に強いることは酷なことだ。
だけど、自分1人のために、隊列の速度が遅れ、帰還できるはずの人が帰還できなくなるなんて事態だけは、絶対に避けたい。
そういう思いがあるのはきっと、私だけじゃないはずだ。
眩しいくらい光輝く太陽の下で、今だ瞼の上に包帯をしている私からは、リヴァイさんの表情はよく見えなかった。
だけど…。


「あぁ、遠慮なくそうさせてもらう。」


しばらくの沈黙の後言われた言葉があまりにもリヴァイさんらしくて、…おかしな話だけど、なんだかすごくホッとした。
ガタン、と荷台が動き出す。
その揺れと共にゆっくり瞼を下ろした。




「おい、エルドッ!ガスの補給だっ!!」
「はっ!」
「リヴァイ、張り切ってるねぇ。」
「ハンジ、テメェも手伝え。」
「…誰かさんにあばらにヒビ入れられてから、まだ大笑い出来ないってのにコキ使わないでくれるかい?」
「手伝う気がねぇなら邪魔だ、前に行け。」
「…邪魔にならない距離で手伝おうと思ってるから後列にいるんじゃないか。」
「…」
「兵士長自ら殿を勤めているって言うのに、呑気に自分だけ安全に帰還しようなんて思う奴、うちの兵団にはいないよ。」
「………」
「先頭はミケとエルヴィン。…救護班の馬車にはナナバとゲルガーそれにディータもいる。なら私は後ろから追いつかれないようにするだけだろ?」
「兵長!ガスとそれからブレードの補給も出来ます!」
「わかった。…おい、ハンジ。」
「うん?」
「お前より前に侵入させんじゃねぇぞ。」
「努力はする。」
「…おい、お前ら!休憩が終わったら、」
「…………ハンジ分隊長も、補給しときますか?」
「あぁ、ありがと。…エルドも大変だね。」
「…いえ、俺はどこか安心しましたから。」
「え?」
「…『巨人に追いつかれそうになったら荷台を切り離してくれ』なんて『部下』に言われたら、意地でも追いつかれまいとするものでしょ。」
「…」
「兵長のそういうところが見れて、どこか安心しました(…けど、)」
「…そだね…(でも、)」
「「(ただの『部下』相手だったら、あそこまで鬼気迫るものにはならないだろうけど…)」」




「エルヴィン。」
「どうした?ミケ。」
「…今回ばかりはお前の作戦ミスだな。」
「そうでもないぞ。『必要なもの』は失っていない。何一つな。」
「…だがな、フィーナの経験値で初列索敵は荷が重すぎだろう。」
「だがいつかはやらなければいけない。」
「…助かったから良かったものの、もしあのまま見失っていたらリヴァイだって、」
「それも今回である程度把握出来た。」
「え?」
「何か有事が起こった際、リヴァイはどこまで冷静でいられるか…。」
「…お前まさか、」
「元々集団での討伐より個人プレイの方が遥かに優れてる奴だからある程度は考えられはしたが…。それでも予想以上の働きだな。」
「そのためにフィーナを…。」
「人聞きの悪い言い方をしないでくれ。あくまで偶然の収穫だ。」
「…全て『お前が作り上げた』偶然、なんだろ?」
「それは買い被りすぎだ。」
「団長!移動準備終わりました!」
「わかった。…ミケ。」
「なんだ?」
「今の俺たちの最優先事項はなんだ?」
「壁内に帰還すること、だろ?」
「…いいや。『負傷者を迅速に』帰還させることだ。お前も気を抜くなよ。」
「…リヴァイほどじゃないが、お前もわかりづらい性格だよな、相変わらず。」
「あの部下にしてこの上司あり、だろう。………全員、出発の準備をしろ!」




幾度となく目を開けると、ガラガラと揺れる荷台の上に、どこまでも続く青い青い空が輝いていた。




殿(しんがり):後退する部隊の中で最後尾の箇所を担当する部隊を指す。隊列の最後尾の人や、順番が最後の人に対して使う場合もある。

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