Attack On Titan


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ラブソングをキミに


新生調査兵団 5


翌朝目が覚めると、


「お、はよう、ござい、ます…。」
「あぁ…。」


リヴァイさんは既に起きて、仕事へ行くための支度(主に書類整理)をしていた。
……………普通だ。
本当に、普通だ。
いつもと変わらない(いつもより若干忙しそうかも、しれないけど)リヴァイさんだ。
…こういう、もの、なの、か、な?
なんかこう…、具体的にどう、とは、言えないけど…、自分がイメージしてた「それ」とはちょっと、違う気がして、どこか、寂しいような…、そんな気持ちになった。
恐らく、今日必要な書類の振り分けを黙々としているリヴァイさんを横目に、私も支度を始めようとベッドから出た。
その間、リヴァイさんは1度もこちらを向かず、ただひたすら書類を振り分けていた。
…やっぱり、私が知らないだけで、こういうもの、なんだろう、な…。
そう思いながら、私もいつものように、支度を始めた。


「……………」
「……………」


元々お互い喋る方じゃなかったけど、この沈黙が、ちくん、と胸に刺さったような、そんな気分になった。
自分の身支度を終えリヴァイさんの方を見ると、まだ書類を振り分けていた。


「…先に、出ます、ね。」


邪魔しないように、早々に部屋から出ようと、ドアに向かおうとした時、


「フィーナ。」


今日初めて、リヴァイさんが私の名前を呼んだ。


「は、っ!?」


振り返った直後、腕を引っ張られたと思ったら、クチビルに、昨夜と同じ温もりを感じた。


「…………」


クチビルを離し、それでも鼻の先と鼻の先がくっつくくらいの距離にいるリヴァイさんは、相変わらずの無表情で、


「…朝から物欲しそうな顔してんじゃねぇよ。」


そう囁いた。


「わ、たし、は、別に、」


リヴァイさんが言う「物欲しそうな顔」がどんな顔を指すのかわからない。
でもその言葉が指す意味は理解でき、目を泳がせながら俯きかけた時、


「…っ…」
「……………」


リヴァイさんに両頬を包み込むように触れられ、そのまま数回、啄むようなキスをされた。


「…時間だな。行け。」


頬に感じた手の温もりが離れたことで、ゆっくり目を開けると、リヴァイさんはもう、私に背を向けていた。


「…いっ、て、きます。」
「あぁ…。」


ドアを閉める直前に見たリヴァイさんはやっぱり、私に背を向けたまま書類を振り分けていた。
…なんだか不思議な気分だ。
「こういうものなんだ」と言う思いの中に、どこか寂しく思ってしまったような部分があったのは確か。
けどたったあれだけのことなのに…。
一瞬でその寂しさが消えたような…。
上手く言葉には出来ないけど、空いてしまった穴が埋められたような…そんな気分だった。


「おはようございます。」
「あぁ、おはよう。」


私の挨拶に、穏やかな笑顔で返してくれるエルヴィンさんに、壁内に戻ってきたんだと言う実感が沸いた。


「エルヴィン、昨日の話だが、と、フィーナもいたのか。」
「おはようございます、ミケさん。」
「…………」
「…どうした?ミケ。」
「あ、あぁ、いや…。昨日の話だが、この書類に、」


エルヴィンさんの班員の私は、エルヴィンさんから今日の職務の指示を仰がなければならない。
ミケさん、エルヴィンさんの話が終わるまで一旦離れて待機しようと思った時、


「フィーナ、すまないな。もう終わった。」


ミケさんに声をかけられた。
ミケさんは、ぽん、と私の頭に軽く手を乗せ去っていった。


「さて、フィーナ。」
「はい。」
「帰還早々で悪いが、今回の調査報告を『上』にあげなければならない。今日からしばらくはその仕事になる。」
「はい、わかりました。」


エルヴィンさんの言う「上」とは政府であったり、ダリス・ザックレー総統であったり…。
今現在の調査兵団を動かすトップのエルヴィンさん以上の権限を持つ…リヴァイさん風に言うなら「内情を知らない平和ボケした内地のお偉方」のことを指す。
その人たちに今回の調査報告を出し、早い話が、税金の無駄使いではないのだからもっと予算を回すように、と訴えを出すことも、帰還後の仕事の1つだった。
しばらくは通常訓練と平行して、その報告書作成作業に追われることになる。




「よぉ、リヴァイ。大変そうだな。」
「ミケ、暇ならお前も手伝え。あのクソバカ、全部俺に押しつけやがって…!」
「…でも悪い気はしないだろう?」
「は?何言ってやがる。悪い気『しか』しねぇ。退院してきたらあのクソメガネ今度こそ息の根止めてやる。」
「…スコッチ1本でどうだ?」
「あ?」
「そのクソメガネその他に黙っててやるぞ?」
「…何の話だ?」
「随分『楽しい夜』になったんじゃないか?」
「……」
「なんだ、意外か?その顔は。わからないとでも思ったか?俺の自慢の鼻は『ガキ』と『女』の区別くらいつくぜ?」
「………………」
「おいおい、そう睨むなよ。今日の兵士長殿があるのは、俺の助言も少なからず、役に立ったからだと自負してるんだが?」
「……………スコッチ1本だな?」
「内地でしか手に入らないような上等な奴を期待してるからな。」
「チッ!クソが…!」




その日の夜、いつものようにベッドに入り眠りにつく。
…実は昨日の今日で何かあるのかもしれないって、そんなこと思って少しだけどきどきしていたのは否めない。
でもそれは私だけなようで、リヴァイさんは何をすることもなく、眠りについた。
……………こういう、ものなの、かな?
そりゃあ毎日そんな昨日のようなことがあるなんて思っているわけじゃないけど、それでもこう…、やっぱり上手く言えないけど、もっとこう何かあってもいいような気がしたんだけど、それは私が知らなすぎているだけで、実際はこういうものなのかも、しれない…。
でも…。


「……………」


いつもと変わらず、ただ隣で寝てるだけ、って言うのは、ちょっとどこか、寂しいような気がして…。
隣で仰向けに寝ているリヴァイさんの方を向いて、右手の人差し指でリヴァイさんの左手の小指辺りをちょん、と突っついてみた。


「……………」


それに全く反応を示さないリヴァイさん。
………私はたった一晩で、欲張りになってしまったようだ。
何もしないこと、何もされないことが、こんなにも心に穴を開けるだなんて、昨日までは、思いもしなかったのに。
少し、ほんの少しだけ、リヴァイさんの手を摘むように、小指球をぷにっと掴んだ。
ほんのそれだけなんだけど、それでもどこか心がホッとしたような安堵感のようなものを感じた。
直後、


「…お前は何がしたいんだ?」


寝ているはずのリヴァイさんの声が聞こえた。
ハッとしてリヴァイさんを見ると、仰向けのまま目だけ私の方を見ているリヴァイさんと目が合った。


「…すっ、すみませんっ、寝てください…!」


そう言って勢いよくリヴァイさんに背を向けた。
…だってまさか反応なかったのに起きてるなんて思わないじゃない!
いつから起きてたの!?
私今かなり恥ずかしいことしなかった!?
自分のした行動に恥ずかしくなると共に、顔から血の気が引いていくような相反する自分にパニックになりかけていた時、


「…っ!?」


にゅっ、と横を向いて寝ている私を後ろから抱きしめるように手が伸びてきた。


「……………」


リヴァイさんは何も言わないず、ただ、後ろから私を両手で抱きしめてくれていた。


「…あ、の、」
「なんだ?」
「手、」
「あ?」
「…に、握って、いい、です、か?」
「……………」


リヴァイさんは無言で、ほら、とでも言うように手のひらを私に向けてくれた。


「あ、ありがとうございます。」


その手を軽く掴むと、しっかりと握り返してくれた。


「寝ろ。」
「…はい。」


…結局、ずっと思っていた「好き」と「尊敬」の違いはわからないまま。
だけどたぶん、リヴァイさんに対する思いは「尊敬」だけじゃ、ない。
「尊敬」の先には…。
…でも、こういうことになってしまったから、私はこんなにもリヴァイさんを望むのだろうか…。
そもそもリヴァイさんはどう、思っているんだろう…。
リヴァイさんは、何も、言葉にはしない。
そう言う、もの、なの、か、な…。
ぐるぐると、考え始めた私の後頭部に顔をつけていたリヴァイの心地良さそうな寝息を感じて、瞳を閉じた。




小指球:小指のつけ根から手首にかけてぷくっと膨らんでる部分のこと.

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bkm

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