Attack On Titan


≫Clap ≫Top

ラブソングをキミに


あの日の少年 3


「あ、あのっ、本当に弟が、失礼なことを…、」
「………………………」


コニーの襲来に何が1番困るかって、コニーの言動で機嫌を損ねたリヴァイさんと同じ部屋で寝起きしなければいけない私は、正直なところ「なんで私が」と思いつつも、リヴァイさんにひたすら謝罪しなければいけない、と言うところにある。


「で、でも、弟に悪気はないんです!本当に!…ただなんて言うか、」
「頭が悪い。」
「…………そう、です、ね…。」


部屋に戻ってリヴァイさんに謝罪を始めてからずっと無言だったけど、やっと一言口にしたと思ったら「頭が悪い」の一言で…。
もうそこは認めるしかないんだろう、と同意した。


「お前の弟、」
「はい?」
「本当に憲兵団を目指すつもりなのか?」


食堂での出来事から、リヴァイさんが部屋に戻って来るまで、一応通常の職務があったわけで。
食堂から出て行った時よりは、機嫌が直ってきているように思えた。


「本人は、そう言ってます。」
「…内地にはロクな人間がいねぇぞ。」
「え?」


ドカッ、とソファに横になり天井を見上げたリヴァイさん。


「テメェが肥えるためにしか頭使わねぇ奴らしかいねぇし、…いたとしても『真っ当な』仕事してるような奴はいねぇ。」
「…ウォール・シーナのこと、よく知ってるんです、か?」
「…」


その質問には、リヴァイさんは答えなかった。


「…でも、」
「あ?」
「コニーが内地にあこがれるのは、なんとなくわかります。」
「…」
「ラガコ村は本当にのどかな村だから…。内地の…、『貴族』なんて呼ばれる人たちってどんな人でどんな生活してるんだろうって、想像もつかない。」
「安心しろ。」
「え?」
「人間のクズみてぇな生活してるような奴らだ。」


なんだかその答えは、とてもリヴァイさんらしいと思った。
「自由」を求めるリヴァイさんに、内地はつまり、籠の1番奥にいる自由とはかけ離れた世界なんだろうから…。


「けど1度でいいんで、ウォール・シーナに行ってみたいです。」
「…行くか?」
「え?」


ソファに寝そべったまま、リヴァイさんは顔だけ私の方へと向けて言った。


「ただの内地観光でいいなら連れてってやる。」
「…」
「…別に必要ねぇなら行か」
「いいんですかっ!?」
「…………休暇が合えばな。」


壁内での移動において、内部から、外部へと移動するのは簡単だけど、外部から内部、つまりウォール・ローゼの人間がウォール・シーナへ移動するにはそれ相応の手順が必要だ。
手っ取り早い方法は多額のお金を払い所謂「通行証」を買うこと。
でもその通行証も期限付きのもので、庶民にはそうそう購入など出来ない。
だけどそれは一般人の話で、上位階級の兵士となれば、話は別だ。
会議等でウォール・シーナに召集される可能性のある各兵団の上層部には無条件で兵役中は無期限の通行証が渡される。
それは職務中はもちろんのこと、休暇時でも有効になるもので。
1枚の通行証につき2人まで、通行証を持たない人間の同行を許されている。
それを、リヴァイさんは使ってくれる、と言っている。


「あ、ありがとうございます…!」
「………」


今はもう、だいぶおぼろげになってきた「記憶の中の世界」でも、「貴族」なんて言う人たちに会うこともなければ、そんな階層の人たちが暮らすような場所に行ったこともなかった。
リヴァイさんはただ、「休暇が合えば」と言っただけで、いつ行くかなんて、一言も言っていない。
だけどそれでも、今の私には十分だった。


「お!フィーナ聞いたぞ、勇敢な弟の話!」


翌日、食堂に行くとディータさん、ナナバさんたち先輩兵士に会った。


「勇敢、て、」
「あのリヴァイ目の前にして『ちっさいオッサン』って言ったんだって?」


ナナバさんがさもおかしそうに笑いながら言う。


「そうなのか!?俺はエルヴィンに『ヅラ野郎』って言ったって聞いたぞ!?」
「…もう忘れてください…、本当に…。」


コニー…。
本当に、当分ここに来ちゃだめだよ…。


「いやでもフィーナの弟、イイ度胸してるじゃねぇか!まさかリヴァイ目の前にして『ちっさいオッサン』だなんて」


ディータさんがそう言いかけた時、ドン!とディータさんの背中に誰かの足が乗ったのが見えた。
…………『誰か』なんてそんなの、


「よぉ、薄汚ぇオッサン。おもしろそうな話してんじゃねぇか。」


1人しかいない…。


「なんだなんだ、話に入りてぇのか?ちっさいオッサン!」
「その薄汚ぇツラの皮剥いだらちったぁ綺麗になるんじゃねぇか?」
「まぁまぁ、12〜13歳の少年から見たらリヴァイがオッサンなのは仕方ないことだろ?」
「ナナバ、テメェまで話に入ってくんじゃねぇよ!」
「リヴァイがオッサンならナナバも十分オバサンだよな。」
「…あんた本当にその薄汚い皮剥いでやろうか?」


…ここ数日、食堂が珍しく活気づいている。
遠征前は、いつもそうだ。
今この瞬間、笑っている人も、「それ」が最後の笑顔になるかもしれない。
だから笑う。
みんなで会話する。
どんなに残酷な最期を迎えようとも、その人の1番良い笑顔を思い出せるように…。
もう間もなく、エルヴィン団長の下、初の壁外遠征が行われる。

.

prev next


bkm

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -