Attack On Titan


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ラブソングをキミに


あの日の少年 1


結局のところ、


「お、はよう、ござい、ます。」
「………あぁ…。」


あのリヴァイさんの行動の後、何が変わったって、何も変わっていないと言う事実…。
その後リヴァイさんが無理矢理、キスとか…。
してくることもなければ、女の人の影を感じさせるようなことも、なかった。
ただ…。


「…んっ…。」
「フィーナ…。」
「お、かえり、なさい…?」
「お前の項も俺が削いでやろうか?」


お酒の臭いをさせて上機嫌に帰ってくるリヴァイさんに、やたら絡まれるようには、なった。


「それただの酔っ払いのオッサンじゃないか。」
「リコちゃん…。」


845年のシガンシナ陥落、そして846年のウォール・マリア奪還作戦後からの調査兵団の立て直し。
今は壁外活動よりもまず壁内での活動をメインにやっているわけだが、それだとたまに時間を持て余す時もあり…。
そういう時はこうやって駐屯兵団の手伝いに駆り出されるわけだけど、…「あの」巨人侵攻が嘘だったかのように穏やかに流れる日々に、駐屯兵団での作業もそんなにあるわけじゃなく…。
言ってしまえば職務中なわけだけど、こうしてリコちゃんと話している時間があるくらいは、余裕が出来るほど、世界は日常を取り戻しかけていた。


「だってお前、酔って絡むだけ絡んで爆睡ってたちの悪いオッサンだぞ。」
「…リコちゃんて、ほんとリヴァイさん嫌いだよね…。」
「別に嫌いなわけじゃないよ。嫌いになれるほどつきあいがあるわけじゃないし。」
「…けど、」
「ただどうしても好きになれるような人間じゃないだけだ。」


相変わらず歯に衣着せないリコちゃんに、苦笑いしか出なかった。


「ところでさ、」
「うん?」
「その1年て言うリミットはなんなんだ?」
「…キリが良かった、から?」
「…そうかぁ?」


正直、あの時リヴァイさんが言った「1年」て言う意味は本当によくわかってない(基本的にわからないことばかりだけど)
でも、リヴァイさんは、あの言葉通り動いているような、そんな気がした。


「おにーちゃーん、まってーーー!」
「やなこったー!こっこまっでおいでー!」
「…嘘みたいだな、この1〜2年の出来事全てが。」
「うん…。」


通りを駆ける子供たちの元気な声がする。
それは、シガンシナが陥落する以前の活気のようだった。


「このまま、続くといいね…。」
「だからこそ、ワシらがいるんじゃがな。」


ポツリ、と呟いて言葉に、返事したのはリコちゃんじゃなかった。
え?と思って振り返った瞬間、


「ピ、ピクシス司令っ!!」


バッ!とリコちゃんが敬礼をした。
………ピクシス司令って、「あの」ドット・ピクシス!!?
リコちゃんから遅れること一拍後、私もその人に敬礼をした。


「良い、良い。堅苦しいのは嫌いじゃ。」
「…では、失礼します!」
「………んー……?」


リコちゃんの言葉に敬礼を解いた私たち。
の、顔を覗き込むようにみる人。
…この人が、南側領土を束ねる最高責任者の、……てゆうか、お酒臭ぁ…。


「お前さんは以前内地のパーティで、」
「はっ!ご一緒させていただきました!」
「おぅおぅ。美女の顔は覚えておる。」


…ねぇ、リコちゃん。
「酔っ払いのただのオッサン」って、こういう人のこと言うんじゃないの…?
それくらい、ピクシス司令は昼間っからお酒くさい人だった…。


「それでそっちのお前さんは、」
「はっ!調査兵団所属フィーナ・スプリンガーです。」
「…スプリンガー?はてどこかで…、あぁ、そうかお前さんは確か、」
「はい?」
「エルヴィン・スミスの秘蔵っ子じゃな。」


うんうん、と言いながらピクシス司令はポケットに入っていた水筒を口に含んだ。


「先日内地のパーティで会った際に、ほれ、兵士長をしとる、」
「リヴァイ兵士長、です、か?」
「そうじゃそうじゃ。お前さんの噂はかねてから聞いておってな。エルヴィンと話している時にもその話題になって、美女の独占はいかんとワシが言ったら『お前ら酒飲み兵団に誰がくれてやるか』とあの若造いきなり会話に入ってきて、親の仇でも見るような目でワシに食ってかかってきおった。」


はっはっはっ、と笑うピクシス司令。
その直後、ピクシス司令は私にチラリと視線を投げた。


「お主はむしろ血の気の多いあの若造の寵児、かな?」
「え…?」
「…それがわかっただけでも、あやつを引き抜きやすくなったわい。」


ピクシス司令は笑いながら言う。
…でも、決して目元は笑っていなかった。


「調査兵団は間もなく壁外調査がはじまるんじゃなかったかな?」
「え、あ、はい。2週間後、トロスト壁門より出発します。」
「んん、結構結構。帰還したらそこの美女も交えて3人で飲もうや。」


ピクシス司令はサッと片手を挙げ、それを合図に私とリコちゃんはもう1度敬礼をした。
目の端でそれを捕らえたらしい司令は、そのまままた1人ふらりと去っていった。


「き、」
「うん?」
「緊張したぁ…!」


エルヴィンさんは確かに調査兵団のトップだ。
でも同じ班に配属されて見慣れているからなのか、ここまで緊張することはない。
けどあの人は…。
あんなに飄々としてるのに、威圧感と言うか存在感と言うか…。


「まさかこんなところに、1人で歩いてくるなんて思いもしなかった…!」
「あの人はよく1人歩きをしてるよ。…で、『美女』を見つけては次のパーティのお供にしよう、って魂胆!」
「は、ははっ…。」


それほんとに酔っ払ったたちの悪いおじさんじゃない、とは、さすがに他兵団の曲がりなりにも「司令」に対して口が裂けても言えなかった。


「けど、」
「うん?」
「なん、か、怖い、人だね。ピクシス司令…。」
「あぁ…。あの人がいるから、南部防衛は鉄壁だ。…そう思わせるほど、底知れないジィサンだ。」


普段はあんなだけだな、と、リコちゃんが口の端を持ち上げて言う。


「でも、」
「うん?」
「あの言い方、リヴァイさんを駐屯兵団に入れたい、の、かな?」
「いらない。」
「…リコちゃん…。」


リコちゃんの即答に苦笑いしながら、所狭しと通りを駆け回る子供たちを、ただ眺めていた。

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bkm

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