Attack On Titan


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ラブソングをキミに


条件と期限 4


「…と、言うことがありまして、」
「ほんと、聞けば聞くほどわからない奴だな、あのチビ」


あの日、リヴァイさんとベッドの上で、キス、したのは確か。
でも本当にそれだけ。
あれ以降、だから何がある?と言うわけではない。
ただ、あの日からリヴァイさんから香水の臭いがすることはなくなったし、朝目が覚めた時また、リヴァイさんの腕の中にいるようになった。
それをリコちゃんに話していたら、よくわからないと一刀両断されたわけだ。


「な、なん、か、」
「うん?」
「ごめん、ね…。」
「は?何が?」
「…た、ぶん、」
「うん。」
「こういうことって、普通、学校に行ってる時、とか。そういう時に、経験するんだよ、ね?」
「…」
「私、…リコちゃんとこういう風に話すようになるまで、男の人に限らず、『人』とあんまり関わりがなかった、って言うか…。だから、こういうことも、本当に初めてで、お前この歳で何言ってんだ、って思うだろうけど、でも、」
「そんなこと誰も思ってないだろう?」


隣のベンチに座るリコちゃんは、呆れたような顔をしていた。


「お前が人よりワンテンポずれてるのはいつものことだし。」
「…リコちゃん、それって、」
「私はフィーナと普通に、…こういう話、出来て嬉しいけど?」
「…」
「まぁ、相手があのチビじゃなかったらもっと嬉しいんだけどな!」
「…リコちゃん、声が大きい。」


リコちゃんは、鮮やかに笑う。
本音を言うと、未だに尊敬と好きの違いがわからない。
リヴァイさんを尊敬してる。
それは間違いない。
でもそれが=好きかはわからない。
だけど…。
仮にエルヴィンさんやミケさんが女物の香水を臭わせてても、きっとあぁはならない。
それはつまり…。
そこまで思い至った時、リコちゃんが小さく息を吐いた。


「でもまぁ、『人類最強』殿も、苦労されてるようだけど、な。」
「え?」
「…予算配分決定の前に内地でパーティがあったんだ。」
「あぁ、うん…。知ってる。」


そのパーティの夜に、リヴァイさんすごく酔って帰ってきたんだもん。


「私もそれに出席したんだけどね。」
「…え!?リコちゃん、パーティに出たの?」
「ピクシス司令と、うちの隊長のキッツ・ヴェールマンが行く予定だったんけど、司令がね…。」
「…司令が?」
「『パーティになんでムサイ男と行かないといけない?若い美女とが良いに決まってるだろう!内地のお偉方的にも、何よりワシ的にも!』って言ってさ。」
「…ピクシス司令って遠目でしか見たことないけど、そんな人なんだ…。」
「それでキッツ隊長の部下の『若い美女』の中で1番無駄口を叩かなそうな私にお鉢が回ってきた、と。」


リコちゃんがそこで大きく、息を吐いた。


「…で、そのお貴族様方が列席される場で『人類最強』ってのは格好の見世物でね。」
「…うん。」
「貴族たちのいい餌食。これは時間の問題だ、って思ってたら案の定、会場に轟音が響いて、見てみたらあの男がその中心にいてさ。」
「ご、轟音?」
「『おい、1度しか言わねぇから耳の穴かっぽじって良く聞きやがれ豚野郎共。テメェらがおもしろおかしく肥えていくために力になってやるって言ってんだ。くだらねぇことに頭使ってねぇでちゃんと、』」
「…ちゃんと?」
「ここで終わった。」
「え?」
「同伴してたエルヴィン・スミスとピクシス司令が間に入ってまぁ…、なんとか場は収まったけど。気がついたらあのチビはさっさと退席した後で、アイツが轟音立てた壁には穴が開いてた、と。」
「…そんなことがあったんだ…。」


あぁ…。
「だから」あの日、物凄くお酒臭くなって帰って来たのかもしれない…。


「アレを見たら…アイツも苦労してるんだろうなぁ、とは思った。」
「…そう。」
「けど、」
「うん?」
「あの口の悪さと性格の悪さはいただけない。」
「…」
「お前、あの男に何かされたらすぐに言うんだよ?」


リコちゃんがベンチから立ち上がって、私を見下ろしながら言った。


「…ごめんね、忙しい時に。」
「いいやー、立て直し中の調査兵団よりは暇さ。それより来るんだろ?そろそ」
「いたーーーーっ!!!!!」


リコちゃんが言いかけた時、懐かしい声が当たりに響いた。


「姉ちゃん!!」
「コニー!」


時は、西暦847年。
コニーが、兵士を目指すためラガコ村から出てきた。


「…なに、この人姉ちゃんの部下?」
「は?なんだお前の弟、馬鹿そうな字を書くだけじゃなく真正の馬鹿か?」
「ちょっとリコちゃん…。コニー、ほら手紙にも書いたでしょ?同期のリコちゃん。」
「リコ…あぁっ!うちで取れた野菜がすげぇ美味いって言ってくれた良い人だ!!姉ちゃんがいつもお世話になってますっ!!」
「…どーも。」
「しかも姉ちゃんの話だとトップ10に入った人ですよね!!なのに駐屯兵団に行ったとかもったいねー!俺なら絶対憲兵団一直線!!……それでトップ10に入るコツとかあるんですか?あるんでしょ?そこはほら、未来ある若者に伝えておかなきゃ!!」


それまで元気に騒いでいたコニーがいきなりヒソヒソと「裏技教えろ」的にリコちゃんに聞いてきた…。


「…ほんとにただの馬鹿なんだな、お前の弟…。」
「ははっ…。」


にこやかに笑うコニーを引きつった顔で見るリコちゃんに苦笑いが出た。


「本当に兵士になるの?」


リコちゃんと別れて、コニーを訓練兵の宿舎に送る途中で、何度も聞いたことを、改めて聞いた。


「言っただろ!俺は絶対トップ10で卒業して憲兵団に入ってやる、って!」


どうしてだろう。
自分が、「あの」現実を見てきたからなのか、コニーに兵士になってほしいとは、どうしても思えなかった。


「俺が憲兵団に入ったら、姉ちゃんを救い出してやるから待っててくれよ!」
「…………『救い出す』?」
「おぅ!最初は姉ちゃんを内地の医者に診せる、って思ってたけど、」
「うん?」
「今は俺が内地勤務になったら姉ちゃん呼んで、調査兵団の変人共と縁切らせてやるって思ってっから!!」


待ってろよ!とグッ、と拳を握り締め言うコニー。
………………いやいやいやいや。


「私、縁切りたいとか思ってないよ?」
「何言ってんだよ!今年で20歳だろ!?姉ちゃんのんびりしてんだから、そんなん言ってるとあっという間に行き遅れるじゃねぇか!!」
「…別にお嫁に行きたいわけじゃ、」
「大丈夫!うちの家系でちょっと小さいのが玉に瑕だけど、女はそれくらいが可愛いって!!内地に行けば結婚相手はゴロゴロいるっ!!」
「……だから私、結婚したいわけじゃ、」
「あ!あれだよな、訓練兵の宿舎!じゃあ姉ちゃん、俺行くから!まぁ俺の出世に期待しててくれよな!!」
「コニー!…………行っちゃった…。」


騒がしく去っていったコニーは、訓練兵の宿舎の中へと姿を消した。


「…コニーの出世を待つって、あと3年は確実に調査兵団てことじゃない…。」


相変わらず、どこかが抜けているような弟に苦笑いしながら、兵団宿舎へと戻った。

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bkm

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