Attack On Titan


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ラブソングをキミに


条件と期限 3


「…ん…。」


明け方、体に何か重みを感じ目を開けたら、


「…っ、」


誰かの右腕が私の体の上に乗っているのが見えた。
今現在、この右腕の人物に背を向けて寝ている私からは、右腕の主の顔は見えない。
ただ、この右腕の主の心地好い鼓動と寝息で、それが誰かなのか、考えるまでもなかった。


「……………」


気持ち良さそうに聞こえる寝息に、心が擽られるような、そんな気分。
その心を隠すかのように、私の目の前にダラリ、と下ろされている右手の平を、ちょん、ちょん、と突っついてみた。


「…!…」
「……………」


手のひら中央を2回ほど突っついた直後、バッ、と右手は私の手を捕まえた。
背中のリヴァイさんは、相変わらず規則正しい寝息をたてている。
……少し、胸をドキドキとさせながら、その手を握るように私も手を開くと、


「……………」


相変わらず寝息をたてたまま、それでも右手は私の手を、しっかりと握り返してくれていた。
それは「嬉しい」と言う感情とは、ちょっと違う…。
でもこの行動にすごく、心が温まった。


「お、はよう、ござい、ます。」
「………………ん…。」


夜明けまでもう少し寝よう、なんて思っていても、なんだかドキドキしてなかなか眠れなかった私。
起きた時には、いつもより少しだけ、遅い時間だった。
…でも昨夜遅かったらしいリヴァイさんは、


「…ね、」
「え?」
「みぃ…」
「っ!?」


いつもなら、気だるそうに息を吐いて起きるのに、今朝は少し掠れた声を発して、右腕に力を入れて…枕や布団を抱き寄せ寝直す、かのような仕草を見せた。
もちろんこの時のリヴァイさんの右腕の下には枕も布団もなかったわけで。
抱き寄せられたのは、枕替わりな私。
そして寝ぼけてるらしいリヴァイさんは思いきり抱き寄せたものだから、


「……………」


背を向けて寝ていた私の項には、優しい、人の温もりと息づかいが伝わっていた。


「リ、ヴァイ、さん…?」
「…んー………っ!?」


たぶん、本当に眠いんだろうリヴァイさんの息づかいを項に感じながら、それでも仕事があると、声をかけた。
一瞬、気だるそうな声をあげたけど、その直後、リヴァイさんは飛び起きた。


「…お、はよう、ございま、す?」
「……あぁ…。」


なんとなく、リヴァイさんと顔を会わせづらい私は背を向けたまま挨拶をした。
それにリヴァイさんはいつものように、短く返事をした。
その後、


「…………」
「…………」


お互い黙々と仕事に行く準備を始めた。
…元々、私たちはあまり喋る方ではなかったけど…、それでも今この空間が気まずいのは私だけなんだろうか…?


「「…」」


それぞれ黙々と準備をしていた私たちは、ジャケットを羽織る直前、首に巻くためのスカーフを取り出すところで、お互い同じタイミングでチェストに手を伸ばしてしまった。


「…ど、どうぞ…。」


私は伸ばしかけた手を、リヴァイさんに先を促す仕草に変えた。


「…………」


それを受けて無言でチェストの引き出しを開け、


「あ、りが、とう、ございます。」


使え、とでも言うように、無言で私にスカーフを差し出してきたリヴァイさん。
それを目を合わせないまま、受け取った。


「……お前、」
「え?」
「巻き方変えたのか?」


鏡を見ながらスカーフを巻き終えると同時に、リヴァイさんが声をかけてきた(鏡が1つしかないため、リヴァイさんは待っていた)


「だ、だめ、です、か?」
「…いや。」


リヴァイさんのアスコットタイ風な巻き方だと、どうしてもヒラヒラして汚れるんじゃないかと気になって仕方がない。
だからコンパクトに首に巻きつけヒラヒラを隠すコリエを詰めたような巻き方か…、時間がない場合は最悪カウボーイ風な巻き方に変えた。


「……………」


リヴァイさんはチラリ、と私の首元を見てすぐに鏡に向き直った。
…だいたいにして、兵団宿舎内において、ハンジさんの話だと、私とリヴァイさんが、つまり男女が同じ部屋と言うのは特例中の特例で、知っているのはシガンシナ陥落以前から調査兵団にいる兵士のみ、らしい。
エルドさんやグンタさん始めとする新兵には当然秘密なため、この部屋自体、宿舎建物の兵団幹部の部屋がある階の1番隅の部屋に設けられていた。
…そこまで配慮されているのに、毎朝同じスカーフで同じ巻き方して部屋から出ていくなんてあまりにも無神経なんじゃないかと、スカーフを巻かないという選択肢がない私には付け焼き刃だろうけどせめてリヴァイさんとは違う巻き方にすることにした。
…なんて説明を、わざわざリヴァイさんにするのもどうかと思うし、上手く話しが流れたようで小さく息を吐いた。


「行くぞ。」
「はい。」


そして2人、部屋を出てそれぞれ今日の雑務に取りかかるべく、各々の仕事場所へ向かった。


「ミケさん、おはようございます。」
「……………」
「……ミケさん?」
「あ、あぁ。エルヴィンはいるか?」
「はい、エルヴィンさんなら、」


私の班は、調査兵団団長の班なだけあり、班単位の雑務処理の最中でも様々な人がやってきた。
ミケさんをエルヴィンさんのところに案内し、私は自分の仕事に戻った。




「ミケ。昨日リヴァイが頼んだ資料、持ってきてくれたか?」
「あぁ、これだ。」
「すまないな。」
「………ところでリヴァイは?」
「今日はディータの班の方に行ってるはずだが?どうかしたのか?」
「…エルヴィンにこんな話するのもなんだが、」
「うん?」
「リヴァイとフィーナ、何かあったのか?」
「え?」
「どうもフィーナの臭いが違う気がするんだが、何がどう違うのかイマイチわからん。フィーナに何かあったのだけは間違いないと思うんだが…。」
「…お前の鼻はなんでもわかるんだな…。」
「その『何か』がリヴァイが原因なのか…、まぁほんの好奇心だな。」
「ハンジと違ってメガネがない分、深入りしたら髭を抜かれるんじゃないか?」
「…それは遠慮願いたいな。」
「まぁ…、事実がどうであれ良い方に変化しているようならいいんじゃないか?」
「…エルヴィン。」
「なんだ?」
「お前まるでオヤジのような言い方だぞ…。」
「ははっ。あんなデカい息子も娘もいらんよ。」




首に巻いたスカーフのせいなのかそれとも…。
昨日の出来事といい、今朝項に感じた、リヴァイさんの吐息といい…。
体がどこか、いつもよりも熱を発しているような…、そんな気がした。

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bkm

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