■条件と期限 2
翌朝以降、
「おはようございます。」
「……あぁ。」
私がリヴァイさんの腕の中で目覚めることはなかった。
それがきっと、当たり前のことなんだ。
けど…。
「リヴァイさん、これ、」
「あ?…あぁ、お前の好きにしろ。」
私はきっと、呆れられたんだと思った。
私の行動で、リヴァイさんを怒らせたんだ。
「…お帰り、なさい…。」
「あぁ。」
リヴァイさんはまた、お酒と、そして女物の香水の臭いをさせて帰ってくるようになった。
何を、どう、思ったのか、自分でもはっきりとはわからない。
ただ、わかっているのは…。
「お帰りなさい。早かった、です、ね?」
その日、リヴァイさんは私が部屋に戻ってきた直後に戻ってきた。
「いや、すぐ出る。」
そう言いながらチェストの引き出しの中をゴソコソとしていた。
一拍後で、目当ての物が見つかったのか、引き出しを戻してリヴァイさんは私を見ることなく、無言でドアに向かった。
「どこに、」
「あ?」
いつもリヴァイさんは帰りが遅く、部屋に戻ってくるのは「出掛けた後」だった。
例え忘れ物を取りにきただけとは言え、こんな時間に部屋にいることはない。
…だから、部屋から無言で出ていこうとするリヴァイさんを、無意識で呼び止めてしまったのかもしれない。
私の言葉に、足を止めこちらを振り返ったリヴァイさんに言葉を続けた。
「どこに、行くんです、か?」
私の問いに、
「お前には関係ない。」
リヴァイさんはそれだけ言うと、私に再び背を向けた。
「私には関係ない」
確かにそうだろう。
私に問いつめる権利もなければ、リヴァイさんに答える義務もない。
…けど。
「い、嫌ですっ…!」
今、このまま見送ったら、またリヴァイさんは、誰か知らない女の人の香水の臭いをさせて、帰ってくるかもしれない…。
「何がだ?」
私の言葉に、リヴァイさんが再び足を止めた。
「っ、い、行かないでくださいっ…!」
どうして私はこんなことを言うのか、どうしてこんなこと、言ってしまっているのか…。
自分でも自分の抑えが利かなかった。
「…俺は、」
「リヴァイさんっ、『また』女の人のところに行くんじゃないんですかっ…?」
「……………」
「私が、こんなこと言うのはおかしいってわかってます!でもっ…、行ってほしく、ないんです!」
視界が滲む。
心が震える。
言ってしまったことはもう、取り消すことなんて出来ない。
リヴァイさんはきっとまた、
「…え、…っ!?」
そう思った瞬間、床に物が落ちる音が聞こえ直後、腕を引っ張られドサリ、と、ベッドの上に倒された。
「……………」
「……………」
ベッドの上に倒された私の上に、覆い被さる様にリヴァイさんがいた。
ほんの一瞬の出来事に、脳が全く、ついていかない。
頭の中を真っ白にさせた私に、リヴァイさんが顔を近づけてきた。
「っ、」
その行動にビクリ、と体が反応してしまい、思わずキツく目を閉じた。
…………それからしばらくしても、何も起こらない。
恐る恐る目を開けると、
「っ!」
「………………」
いつかも、そんな状況に陥ったように、あと2〜3センチ、と言うところに伏し目がちのリヴァイさんの顔があった。
「……………」
「……………」
なぜそうしたのか、本当に、わからない。
だけど…。
「……………」
「……………」
その至近距離にいるリヴァイさんに抵抗することなく、目を閉じた。
直後、
「……………」
本当に、ふわり、と、優しく柔らかく、クチビルに何かが触れた。
「……………」
本当に、ただ柔らかく、微かに触れるだけ。
長くて短い、その時間は、…まるで名残惜しむかのようにゆっくりと終わりを告げた。
「…今日はエルヴィンの書類整理の手伝いに行くだけだ。ただかなり量があるから帰りは遅くなる。先に寝てろ。」
クチビルに触れた感触と、体の上に感じていた重みが離れたことに、ゆっくりと目を開けると、リヴァイさんはもう、ドアの前に立っていた。
「いって、らっ、しゃい…。」
「…行ってくる。」
リヴァイさんはそれだけ言うと、バタン、とドアを閉めて足音をたてながら廊下の向こうに歩き去っていた。
「……………」
指先で、今「何か」を感じたクチビルに、微かに触れた。
「それ」がどういうことなのか、どういう意味を指すのか…。
私の思考は、あの瞬間で止まったようで、何も考えられなかった…。
「……………」
ただなんとなく。
今起こった出来事に顔をあげていられなく、小さく踞っていた。
「おや?この書類の確認に必要な資料を取りに行ったんじゃないのか?」
「(あのまま置いてきちまった…)あぁ、俺の勘違いだ。部屋には無かった。」
「そうか…。ミケあたりが持ってるか、な?」
「(許せ、エルヴィン)俺が聞いてくる。」
「あぁ。…すまないな、リヴァイ。お前に雑務を手伝わせて。」
「問題ない。」
「…あ、れ?これ…、リヴァイさん取りにきたヤツじゃ…?」
ドアの隅に落ちていた書類は、所謂調査報告書作成にあたる裏づけ資料で。
きっと必要なものだろうと、テーブルの上にあげ、その日は1人、眠りについた。
.
bkm