Attack On Titan


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ラブソングをキミに


変化した日常の定着 6


リヴァイさんに、所謂膝枕をされ目覚めた休暇の日以来、


「お、おはよう、ございます?」
「………………あぁ…。」


夜、眠る時は確かに離れて寝ているはずなのに、目が覚めると何故か毎朝、リヴァイさんの腕の中にいた。
それはまるで、抱き枕か何かのように緩く絡められていて…。
リヴァイさんの鎖骨あたりに額が来ている私は、この時リヴァイさんがどういう表情をしているのかわからない。
だけど…。


「………」


毎朝、気だるそうに息を吐いてからムクリ、とリヴァイさんが起き上がるまでなるべく身動きしないようにと、ただの抱き枕と化していた。
…なんで突然、こんなことになったのか、本当にわからない。
リヴァイさんが、何を考えているのかわからない。
ただあの日を境に、遅くに帰宅することはあっても、リヴァイさんが女物の香水の臭いをさせて帰ってくることはなくなった。
…だからなのか、


「おはよう、ございます。」
「………ん…。」


何の抵抗もなく、本当にただの抱き枕と化し、過ごしていた。
でも…。


「さすがに、ちょっとおかしい、かな、って…。」
「…お前の『ちょっとおかしい』は世間じゃ『すごくおかしい』ってことだからな?」


誰に言ってみる、と、いうか、誰に言えるわけでもないこの現状にさすがに違和感を覚えた私は、無理を言ってリコちゃんを呼び出し話を聞いてもらった。
…結果が「世間じゃすごくおかしい」ってことだった…。


「…そこまでおかしいってわけじゃ、」
「おかしい!絶対変だ!」


リコちゃんは前回の私の近況報告から、このことに関して頑として譲らない。


「普通その状況なら、もっとどうこうなってるもんだろ!」
「そんなこと言われても…、」
「ただ添い寝だけって変だろ!あのチビ何考えてんだよ!?」


リコちゃんがリヴァイさんの名前を出さないのは不幸中の幸い。
…こんな人の目があるカフェでこんな会話すごく困る…。


「…けど、」
「うん?」
「アイツが他の女の臭いをさせなくなった、ってのは評価出来るよな。」
「…」
「でも結局、その女が誰だったかわからないままなんだろ?」
「それは、だって、聞くつもりない、し。」
「なんで?」
「え?なんで?」
「相手によってはフィーナが逆恨みされておかしくない状況なんだ。誰とどうだったのかくらい、知る権利あるだろ!」


トン、と小さく机を叩きながらリコちゃんは言う。


「…知る権利なんてないと思う。」
「はぁ!?あるだろ!フィーナに許可なく、毎日毎日勝手に触って来てるんだろう!?」
「リコちゃん、もう少しボリューム落とそうよ…。」


私の言葉にリコちゃんは、ハッとして体を前のめりにした。


「でも実際問題、間違っちゃいないだろ?」


ボソボソと小声で話すリコちゃん。


「別に体触るとかじゃなくて、」
「でも抱きつかれてるんだろ?」
「…抱きつかれてるわけじゃ、」
「は?枕替わりに抱きつかれてるじゃないか!」
「枕替わり、ってのは、否定しない、けど…。」


そこに他意があるか?と聞かれた時、答えに困るのは、リヴァイさんが本当に、私を「抱き枕」としてしか、触れてこないからなんだと思う。


「でもそこからどうなる、ってわけじゃない、し、」
「だから変だ、って言ってるんだろ!?」


バン!と再びテーブルを叩いたリコちゃん。


「だいたいお前も、好きな男から何もされないって嫌じゃないのか?」


リコちゃんが納得いってないんだろうな、と言う顔で言った。


「…………好き、って、」
「うん?」
「私がリヴァイさんを?」
「…はぁぁ!?」


私の問いにリコちゃんは心底驚いた顔をした。
リコちゃんは何かを言いかけてはやめる、金魚みたいに口をパクパクさせていた。


「確かにね。リヴァイさんのことは、」
「うん?」
「誰より尊敬してる。」
「だからそれを、」
「でも、」
「…でも?」
「…それが、『男の人』として好きかって、聞かれたら、」
「わからないとか言わないよな?」
「……」
「お前ねぇ、わかるだろ!自分があのチビを男として見てるか見てないかくらい!」


リコちゃんが盛大にため息を吐いた。
…どうしよう、ほんとにわからないんだけど…。


「私、」
「んー?」


リコちゃんは呆れてしまったようで、すっかり会話にいつもの気力を感じられなくなった。


「男の人に限らず、『誰か』を好きになること自体が、あまり、なかったから…。」


そこまで深く、「誰か」とつきあえなかったから…。


「リコちゃんは好きだよ?尊敬もしてる。」
「…どーも。」
「エルヴィンさんも、ハンジさんも、ミケさんも。調査兵団の先輩兵士はもちろんみんな尊敬してるし、良い人だと思う。」
「うん。」
「…その中でリヴァイさんは、やっぱり…『人類最強』って言われるだけあって、兵士としての強さはもちろん判断力とか指導力、とか?そういうの全て含めて、他の誰より尊敬してるし、信頼してる。」
「…うん。」
「でも、じゃあ『男の人』として好きかって、…今まで『男の人』として『誰か』を好きになったことなかったから…、よく、わからない。」


リヴァイさんが、私を気にかけてくれることは、素直にありがたいと思うし嬉しい。
だけどそれは、自分が尊敬してる人から、ってことであって、『男の人』だからなのか、ってことかは、…わからない。


「フィーナはおかしなところで難しく考えるよな?」
「え?」
「もっと単純に考えろって!例えば私がアイツを好きだとして、」
「それはないよね?」
「だから例え話。」
「でもリコちゃん、リヴァイさんのこと良く思ってないから現実味がない…。」
「……まぁ、そうなんだけどな。」


リコちゃんが困ったように笑った。


「んー…、じゃああの人は?分隊長のメガネかけた、」
「ハンジさん?」
「そうそう!あの分隊長が、今のフィーナのようにあのチビと『添い寝』するようになったら、お前はどう思う?」


リコちゃんは、メガネをキラッと光らせ聞いてきた。


「…どう思うも何も、」
「うん。」
「3日お風呂に入らなくても平気なハンジさんと、あの綺麗好きなリヴァイさんが同じ布団に入るなんて思えない。」
「…だから例え話だろ?」


リコちゃんの言いたいことは、さすがにわかる。
つまりは、「リヴァイさんが今の私にしてるようなことを他の女性にしたら?」ってことだろう。
確かにリヴァイさんが、私と同じことを「誰か」にしてたら嫌。
…だけど…。
それは「男の人」として好きだから、とかじゃなく、「親しい人が、他の人と親しくすることに対する喪失感のような感情」と、どう、違う、の…?


「ほら、その顔。」
「え?」


リコちゃんの言葉にいつの間にか俯いていた顔をあげ、正面に座ってたリコちゃんを見たら、ツン、と頬を突っつかれた。


「…お前その顔、他の男にはしないよ?」


困ったように、呆れたように。
リコちゃんは私を突っつく。


「…どういう顔かわかんないよ。」
「ははっ!だからそういう顔だって!」


リコちゃんが鮮やかに笑った顔は、なんだか久しぶりな気がした。
…リヴァイさん、の、ことでしか、しない表情…。
そんな自覚、ない、し。


「もし、」
「あ?」
「ハンジさんと同じ布団に入ることになったら、リヴァイさんはどうします?」
「…何の罰ゲームだ?誰があの汚ぇクソメガネと一緒の布団に入るか、冗談じゃねぇ。」
「…そう、ですよ、ね。」


ベッドで横になる直前、昼間の会話を思い出し口にした私に、リヴァイさんは眉間にシワを寄せ、心底嫌そうな顔をした。
まぁ…、そうだろうな、って思う。


「もし、」
「今度はなんだ?」
「エルヴィンさんやミケさんとか…、リヴァイさん以外の人と同じ布団に入ることになったら、」
「くだらねぇ…。」


そこまで口にして、わかったこと。


「いつまで喋ってんだ?さっさと寝ろ。」


…私、リヴァイさん以外の人とこうやって一緒に眠るってこと、想像出来ないや…。


「おやすみ、なさい。」
「…」


返事をしないリヴァイさん。
その隣でただ、眠ること。
それが、今の私の日常。

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