Attack On Titan


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ラブソングをキミに


変化した日常の定着 4


「今後我々はウォール・マリアの奪還に、」


エルヴィンさんの説明は、とてもわかりやすかった。
巨人に奪われた土地を、再び取り戻すこと。
そのためには、


「これらは全て巨人の生け捕りを目的とする。」


巨人の生態をより詳細に知るため、生け捕り作戦が慣行される。
その生態調査責任者はもちろん、ハンジさん。


「巨人を生け捕り…。出来るのか、そんなこと…。」


そう呟いたのは、隣にいるグンタさんだった。
私が新兵だった頃と違う点。
それは基本新兵は2ヶ月の訓練期間を経てから、班を振り分け、壁外(と言っても現在の「壁外」はウォール・マリアにあたるから完全な壁外ではないけど)遠征に挑む。
でも今年は、…ううん、今年からは、早ければ2週間、長くても1ヶ月で班分け、遠征に臨むこととなった。
…それはつまり、今すぐではなくとも食糧危機諸々が必ず逼迫して来ているということ。
少しでも早いウォール・マリア奪還と食料の確保が、調査兵団に課せられた。


「フィーナは壁外経験は?」


会議が終わり、幹部以外は解散、となった時、エルドさんが声をかけてきた。


「1度だけなら…。」
「へぇ!どうだった?外の世界は?」


結局、私が「外の世界」に行ったのは、たった1度だけだったけど…。


「『籠の中の空では狭すぎる』」
「え?」
「…以前リヴァイさんが私に言った言葉です。本当にそう、思いますよ?」


いつかまた、籠の外に出る日が、人類に来るのかはわからないけど…。
でも必ずまた、あの大地を、


−炎の水や氷の大地、砂の雪原があるって本当?−


どこまでも広がるあの空を思い出した直後、かつての記憶が蘇った。


「フィーナ?行かないのかい?」
「あ、は、はい。」


その後エルドさんたちと別れ、今日の雑務を終らせ、宿舎に戻った。
途中、リヴァイさんと会って、今日は遅くなるから先に寝てろと言われた。
…嫌な予感はしていた。
あぁ、たぶん「見てしまう」と言う予感。



「お姉さん、お姉さん!」
「…あなたはシガンシナの、」
「壁外はどうだった?」
「…うん、綺麗、だったよ?」
「炎の水や氷の大地、砂の雪原はあった?」
「それ、は、」
「俺もいつか行くんだっ!この『籠の中』から、」
「…あなたは、」
「おい、お前たちも逃げろっ!!巨人だっ!!」
「…あ、あぁ、」
「っ、逃げてっ!!早くっ!!」
「た、たす、」
「早くっ!!シガンシナはもうっ、」
「…お姉さん、助けっ」
「手をっ!早くっ!!」
「う、ぎぁぁぁぁぁ!?」



「…ハァ…ハァ…!」


嫌な予感は、していた。
昼間、シガンシナの少年のことを思い出した。
…そして今日は、リヴァイさんがいない。
そんな夜は未だに、


「…っ…」


体が、震える。
助けられなかった命。
あの少年がその後どうなったのかわからない。
コニーと同じくらいだったあの子の名前は確か…。


「まだ起きてるのか?」


私がベッドの上で踞り、震える体を押さえるように抱きしめていると、リヴァイさんが帰ってきた。
月明かりだけだった部屋に、リヴァイさんが持ってきたランプの灯りが仄かに灯っていた。
リヴァイさんがジャケットを脱いだ衣擦れの音が聞こえた。


「おい?どうし、」
「…っ、」


ベッドの上で踞って動かない私に、さすがにおかしいと感じたのか私の腕を掴んだリヴァイさん。
その反動で顔をあげた私は、リヴァイさんが本当に驚いた顔をしているのがわかった。


「…お前のせいじゃない。」
「っ、リヴァイさん…!」


リヴァイさんがお酒の臭いをさせて帰ってくる時、大体一緒に女物の香水の臭いをさせてくる。
それは私にとってはとても…。
いつも私が「こう」なりそしてリヴァイさんも同じタイミングでお酒と香水の臭いをさせてる時、リヴァイさんは私を抱きしめ落ち着かせようとしてくれる。
私はそれにされるがままなだけだった。
でも今日は…。
お酒の臭いしかしないリヴァイさんに、どこか安心して…、


「…っ、うっあぁぁ!」
「誰もお前を恨んでなどいない。」


初めて、自分からリヴァイさんにまるですがりつくように抱きついた。


「…っ…」


あぁ、私、あのまま泣きつかれて寝たんだ。
…珍しく、リヴァイさんからお酒の臭いしか、しなかった。
それに安心した…?


−フィーナはそれでいいのか?−
−いい、って?−
−だってお前の話聞く限りだと、あのチビ他の女と−
−リコちゃん!…止めてよ、そういう言い方。私は別にそんなんじゃ…−
−…私の前でそんな顔するくらいなら、あのチビに言ってやればいいだろ?−


リヴァイさんを好きか?って聞かれたら、正直困る。
尊敬は、してる。
それはきっと、兵団内の誰よりも。
だからってそれがイコール男の人として好きか?と聞かれたら…。
ずっと、他人と関わるのが苦手で、苦手な人、嫌いな人はいても、「誰かを好きになる」なんてこと、なかったわけで…。
「男の人を好きになる」って感情がどういうものなのか…わからない。
リコちゃんが言いたいことも、わからなくもない。
だけど私は…。
そんなこと思いながらゆっくりと目を開けると、


「っ!?」


目の前は明らかに「誰か」の体なわけで。
誰か?なんて、そんなの明白。
私があのまま寝てしまったのは理解出来る。
…でもリヴァイさんもなんで私を抱きしめたまま寝てるのっ!?


「…」


チラッと顔を覗き見るとリヴァイさんはやっぱり寝ていて。
…ど、どうしよう!
だってなんでこんな体勢!?
い、今私が下手に動くとリヴァイさん絶対起きちゃうよね!?
でっ、でもだからってそんなこんな状態っ…!


「…っ…」


私がどうしようどうしようと悩んでいると、私を抱きしめているリヴァイさんの手がピクリと動いたのがわかった。
チラッ、ともう1度顔を覗き込むと、


「………」


元々パッチリお目々なハンジさんやリコちゃんと違って目つきが悪いところはあったけど、寝起きなためさらに目つきが鋭くなったリヴァイさんがいた。


「お、おはよう、ございます…?」
「………」


私の声に反応を示さずボーッと焦点の合わない目でこちらを見ているリヴァイさん。
直後、


「…っ!?」


さっきよりも、よりしっかりと私を抱き寄せて


「………」


再び動かなくなった…。
…………う、嘘!
寝直したの、リヴァイさん!?
この状況でっ!?
どうしようどうしよう、なんて思った時、よく見たらリヴァイさんが制服のジャケットを脱いだだけの状態なのがわかった。


−おい、フィーナよ−
−はい?−
−俺のベッドで寝るのは構わねぇが、外に出た服で入るな、横になるな−
−え?−
−制服なんてもっての他だ。制服で寝た日にはテメェをこの部屋から閉め出す。わかったな?−


リヴァイさんは神経質なほどの綺麗好きだ。
そのリヴァイさんが。
制服で寝るなと言っていたリヴァイさんが。


「………」


お酒の臭いしか、しなかったことと、ベッドで寝ているリヴァイさんが制服を着ていたことが…。
嬉しい、と、言うまでの感情では、ないかもしれないけど、どこか心がくすぐったいような気がして…。


「…」


寝ているリヴァイさんの服を握りしめた。
そしたら、


「…」


またピクリ、と動いたリヴァイさんが、少しだけ、腕に力を入れたのがわかった。
その行為に少しだけ、でもはっきりと、喜びが生まれた。

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