Attack On Titan


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ラブソングをキミに


信じるバカ 5


両瞼が腫れ上がり、包帯をグルグルに巻かれた、暗い暗い、闇のような世界で、左手が、誰かの手に触れていることに気がついた。


「だ、れ…?」
「………」


その手の主は、話さない。
……だからこそ、誰か、なんて……。


「………」


握るわけでもなく、掴むわけでもない。
ただ、緩く、柔らかく、私の左手に触れているその手。
左腕は、ウトガルドで怪我したことプラス今回のことで、動かそうと思っても、今すぐ自分の意志ではどうすることも出来なくて…。
辛うじて動く左手の指先で、その手に弱く、触れた。
そしたら、


「………」


その手の主は、今度はしっかりと、触れていた右手で私の左手を握りしめた。
手のひらから温かい、温もりが広がる。
もう1度、誰?と、聞いても、この手の主は決して答えないだろう。
バレないとでも、思っているんだろうか…。


「………」


何年、あなたと一緒にいたと思っているんですか。
何度、この手を握りしめたと思っているんですか。


「………」


私も、この手の主も、一言も話さない。
ただお互いの手のひらから伝わるお互いの温もりを感じるだけの時間。


−もうっ、嫌なんですっ!−


傷つける言葉を投げつけたのは私。
でも何故か傷ついた自分に涙が零れた。


−これ以上、傍にいたくないんですっ、−


あの日、この人の涙を見ることが出来ていたら…。
あの時、ナナバさん、ゲルガーさんと共に戦えていたら…。
あの場所で、リーネさん、ヘニングさんと共に、…死ぬことができていたら…。
あの瞬間、トーマさんと伝令に向かうという選択を、…そもそもストヘスに残り、ハンジさんたちと行動を共にしていたら…。
過去のあの時間に、…パパとママと共に、ラガコ村に戻り、お見合いをすると言う術を選んでいたら…。


「………」


何が正しかったのか、結果は誰にもわからない。
だけど…。
8年前のあの日、この人と、出逢わなければ…。
…それだけはどうしても、思うことが、出来なかった…。


「………」


この残酷な世界に、神様がいるだなんて、到底思えない。
だけどもし、いると言うなら、聞いてください。
ただ黙って、私の手を握りしめているこの人が、愛しくて仕方ないんです。
8年前のあの日、この人と出逢えたことが、私の世界を大きく変えてくれたんです。
この人が、この世界での生きる術を、教えてくれたんです。
この人が、この残酷な世界の美しさを、教えてくれたんです。
…そんな優しい人の、負担にしかならない自分が、昔以上に嫌で嫌で、堪らないんです。


「………」


今後、この世界がどうなろうと…。
人類が、兵団が、どうなろうと、私はきっと、この人が信じる道を、ついていくんだろう。


「………」


両目を包帯で巻かれていて良かった。
お陰で目を閉じていても溢れ出る涙は、包帯やガーゼに吸い上げられて、きっとこの人には見えないだろう。
こんな状況で泣く姿を見せらた、きっとまた、この人を煩わせてしまうだろうから…。


「………」


どのくらい、長い長い時をそうしていたのかわからない。
世界が静寂に包まれている中響いた、鳥の鳴き声の直後、私の手を握りしめていたその手は、ゆっくりと離れていった。


「………」


そして、その手の主は1度も口を開かないまま、私のいるこの部屋を後にした。



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bkm

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