■信じるバカ 2
「コニー、」
「姉ちゃん…。」
コニーは、明日の行動のため、リヴァイさん曰く「隠れ家」から兵舎へ戻ってきていた。
「あの日」以降、コニーと話すのは、初めてだった。
「明日、私もラガコ村に行くよ。」
「…そっか…。」
いつも元気に騒いでいたコニーの姿は、もう、どこにもなかった…。
「俺さぁ、」
「うん?」
「今でも信じらんねぇ…。」
「…何が?」
「なんで俺、生きてんだろうな…。」
あれだけの人数が死んだのに。
コニーの口から、そんな言葉を聞く日が来るなんて、思わなかった…。
「…コニーには、黙ってたけど、」
私がポツリ、と呟いた言葉に、コニーがゆっくりと、私の方を見たのがわかった。
「少し前に、パパとママに兵士を辞めて村に帰って来ないか、って、言われた時あったんだ…。」
「え?」
「帰って来て…お見合いしないか、って。」
−もう人類のためじゃなく、お前のため、…母さんのためにも、帰ってきてくれないか−
「あの時は、調査兵を辞めない、って、答えを出したけど…、もし、」
「…」
「…もし、あの時兵士を辞めて、村に帰っていたら、こんな思いは」
「やめろよっ!!」
私の言葉に、コニーが大声を出した。
「やめてくれよ…。なんだよそれ…。姉ちゃんがそんなこと言うなよ…。」
「…ごめん。」
「………」
コニーは、ラガコ村にいる、現在拘束されている巨人をその目で見たそうだ。
その巨人はもしかしたら…。
「…もう、」
「うん?」
「俺たちに『帰る場所』なんて、ないんだから…。」
「…」
「今さら姉ちゃんがそんなこと、言わないでくれよ…。」
「…うん、ごめん。ごめんね、コニー…。」
今にも泣き出しそうなコニーの背中をただ黙って、摩っていた。
「分隊長!お疲れ様ですっ!!」
「ご苦労様。」
翌日、誰1人、一言も話さないまま、ラガコ村へと向かった。
村周辺を立ち入り禁止にしている、と言っていただけあり、村の入口に兵士が立っていて、私たちの到着を見るや、ハンジさんに敬礼をした。
「…じゃあ、当初の予定通り、他の家屋はモブリットたちに任せるから、フィーナとコニーは私と来て。」
「はい。」
ハンジさんの言葉に、馬から降りて、村の中を歩いた。
「………」
誰も、何も喋らない。
破壊された家々が、ただただ、広がっていた…。
「あそこが、あなたたちの家?」
しばらく歩いていると、ハンジさんが指をさしながら聞いてきた。
そこには、仰向けに倒れ、拘束されている巨人がいた。
「「はい。」」
「そう…。コニーの話だと、お母さんに似ている、ってことだけど…、何か…、肖像画か何かないかな?」
ハンジさんの言葉に、巨人が横たわる家の中に目を向けた。
姉ちゃんは怪我してんだからここにいて、と、コニーが1人、家の中に入っていった。
その間に、拘束されている巨人の顔を見た。
「………」
仰向けにこそ、なっているけど、その顔は、コニーが「そう」と言うだけあって…。
「…ここに来るまでの建物も、あなたの家も、…報告通り、内側から破壊されているね…。」
ポツリ、と、ハンジさんが呟いた言葉が、耳を掠めた。
「あった…。これが両親の肖像画です。」
その時、コニーが家からパパとママの肖像画を持って出てきた。
「あぁ…、そうだったね。以前1度だけ見たことある、あなたたちのお母さんは、こんな人だったね…。」
ハンジさんはそう言いながら肖像画を持って、巨人の前にやってきた。
「…なんてことだ…。」
それは、赤の他人のハンジさんですら、「そうだ」と思った、と言うこと…。
「この巨人、俺に話しかけたことがあったんです。『お帰り』って…。」
それはウトガルドで、コニーが言っていたこと。
「あの時そう聞こえたって言ったら、ライナーの奴必死に『そんなわけねぇだろ』って言って…。そういやユミルもだ…。」
コニーの言葉に、ハッとした。
「そうか…、アイツ等は知ってたんだ…。何がどうなったのか、知ってたんだ。そして…、それがバレねぇように誤魔化した…。俺が感づいたから、アイツ等は…。」
「………体に刺した杭を全て抜くんだ。もう…、ロープで十分、拘束出来る。」
コニーの言葉のあとで、ハンジさんが周囲にいた兵士にそう告げた。
「…ありがとう。返すよ…。」
そう言って、ハンジさんはコニーに肖像画を手渡した。
「誰だよ…、俺たちをこんな目に合わせる奴は…。絶対に許せねぇ…。」
震える手で肖像画を受け取り、目の前の巨人を…ママを、泣きながら見るコニーの背中に手を回し、寄り添うことしか、出来なかった…。
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bkm