■the sorrow of parting 7
「もう、終わりにしましょう。」
「……なんのことだ?」
私の言葉に、眉間にくっきり、2本のシワを寄せたリヴァイさん。
怒っている時、機嫌が悪い時、意にそぐわぬことをされた時…。
何度も見てきた、その表情…。
「言葉通りの意味です。」
「あ?」
「『ただの』上官と部下になりましょう。3年前、…ううん、私がこの部屋に来る以前の私たちに戻るだけです。」
「…」
私の言葉に、リヴァイさんは一言も言葉を発さなかった。
それがひどく、リヴァイさんらしく感じて…。
私は再びリヴァイさんに背を向けた。
「私はこの部屋を出ます。今の私の『任務』は、ニックさんの世話だけなので、日中、荷物を取りに来ます。」
「……おい、」
「今までお世話になりました。」
「おいっ、お前何言っ」
「っ、」
出て行こうとする私の右腕を、グィ、とリヴァイさんが掴んだことで、私の体はもう1度、リヴァイさんと向き直った。
正面にその姿を捉えてしまったら…。
1度堰を切った想いは溢れて、鋭利な凶器となり、深く深く、突き刺さる。
「嫌なんですっ!」
−お前はわかってないねぇ…−
兵士として、私なんかが、この人の力になど、なれるわけがない。
ならばせめて、1人の人間として、女として、この人が安らげる場所になっていれば、また違うのかもしれない。
だけど私は、この人が泣ける場所にすら、なることが出来ない。
兵士としても、1人の人間としても、この人の力になることが出来ない、自分が嫌で嫌で堪らない。
「これ以上、傍にいたくないんですっ、」
−あのチビ、お前のためならなんだってすると思うよ?−
力になるどころか、私はこの人にとって「お荷物」でしかない。
こんな非常時ですら、私はこの人から「守られる」立場にしか、なり得ない。
そんな無能な私なんかが、あなたの傍にいていいわけ、ない。
「もうっ、限界なんですっ…、」
もし、私がペトラのような人間だったら…。
兵士としても、1人の女性としても、強く、凛としているペトラのようであったなら…。
きっと、答えは違っていたんだと、思う。
だけど…。
「…俺は…、」
リヴァイさんは何かを言いかけた。
けど…。
その続きが音になることはなかった。
「終わりに、してください。」
「…」
「リヴァイさん…。」
私は今、この人を傷つけただろう。
今のこの非常時に、追い打ちをかけたかもしれない。
いや…「追い打ち」をかけられるほど、この人に深い傷は、私には、残せない…。
なぜなら…。
「………」
あるいはこの人が、今この場で泣いてくれたのなら…。
…泣くまでいかずとも、あの壁外調査で、遺体を遺棄した時に見せた、痛々しいほどの悲しみに歪めたあの表情を、今ここで、見せてくれたのなら…。
また、何かが変わっていたのかも、しれない。
だけど…。
「………」
リヴァイさんは何も言わず、…表情を変えることもなく、ただ、私の腕を掴んでいた手を離すだけだった。
「………」
腕が解放されたことで、1度リヴァイさんに深く頭を下げ、部屋を後にした。
今のこの非常事態に、余計、煩わせた。
傷つけるような言葉を、投げつけたのは、他の誰でもなく、私自身。
でも…。
「…っ…」
リヴァイさんの、いつもと変わらないあの態度に、酷く傷つけられたような気がして、ナナバさんの部屋に入った瞬間、それまで我慢していた涙が止めどなく、流れ落ちた。
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bkm