Attack On Titan


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ラブソングをキミに


the sorrow of parting 5


「フィーナ!」
「…リコちゃん?ど、どうしたの?」


ニックさんに会いに行く以外、何をするでもなく、兵舎で1人、ただ時間が流れていくのをぼんやりと見ていたら、突然リコちゃんが現れた。


「時間が出来たからね。」
「時間、て、だって今駐屯兵も大変で、」
「お前、言ったじゃないか。今度時間作って必ず会おう、って。」
「え?」
「ゆっくり話そう。…ウトガルドまでの道のりで…。」


そう言ってリコちゃんはどこか、困ったように笑っていた。


「なんだかんだで『アイツ』…お前には甘いよ。」


リコちゃんがそう言ったのは、ウトガルドへ向かうため、壁の上を馬で走行中の時だった。
怪我をしている私は、リコちゃんの後ろに乗せてもらっていた。
リコちゃんの背中で聞いたその言葉がどこか、胸に重くのしかかってきた。


「ついたよ。」


その後、何を話すわけでもなく、黙々と馬を走らせていたリコちゃんは、あっという間にウトガルド城へと到着した。


「…下りれる?」
「そう言うと思った。」


私の言葉に、リコちゃんは近くにあったリフトを指さした。


「あれで下りよう。」


リフトを使い、馬ごと下に降りている最中、あの日以降、…いや、初めて、陽の光に照らし出されているウトガルド城を目の当たりにしていた。


「随分、塔が傾いてるな…。て、おい!フィーナ!」


ウトガルド城内は、立ち入り禁止のテープが貼られていたけど、そのまま中に進んだ。


「危ないって!ここら辺いつ崩れてくるか」
「ここ。」
「うん?」
「……ここにあるこげ茶色っぽい染み…、きっと、ナナバさんか、ゲルガーさんの血痕だよ。」
「…………」


瓦礫の中で、一際濃い色がついてる部分の前までやってくる。
少し、日が経っているからすぐに「血」と判別出来るほどはっきりとはしていないけど、でも、変色したそれはまさに大量の……。


「ここにたどり着く前に、ミケさんのジャケットの切れ端を見つけたの。」
「ミケ…って、行方不明の調査兵団の分隊長のこと?」
「…ミケさんのジャケットはボロボロに引きちぎられて、その周囲には、ここみたいに、大量の血の痕があった。」
「………」


−俺も聞いてるぜ?ずいぶん『個性的』な耳をしてるらしいな?−


「ここに来て、ナナバさんたちと合流して、ホッとしたのも束の間。…巨人が現れた。」
「…」
「リーネさん、ヘニングさんが獣の巨人が投げた岩にぶつかって即死して…、」
「……」
「ナナバさんとゲルガーさんが…」


−おいフィーナ!リヴァイに会ったら、テメェ、いつ俺に酒寄越すんだ、もう2年も経ってんだからな1番高くて美味ぇ酒持って来い、って言っとけよ!−
−…ねぇ、フィーナ。兵舎戻ったら、私の部屋のチェストの1番下の引き出しに入ってる奴見てよ。アレ、全部あなたにあげる−


「ねぇ、リコちゃん。」
「うん?」
「今回現れた巨人の正体について、何か聞いた?」


ポツリ、ポツリ、と廃墟を見るわけでもなくただ瞳に映し出し語る私の背中に、リコちゃんは言葉を返してくる。


「あぁ。…『リヴァイ兵長』から、チラッ、とな…。」
「…そう…」


あぁ、やっぱり。
「だから」リコちゃんは、来たのか、と。
先ほど食堂で見たリヴァイさんの顔が脳裏を掠めた。


「笑っちゃうでしょ?ラガコ村の人が巨人かもしれない、なんて…。」
「…フィーナ…」
「だって、そんなこと言ったらそれは…、」


−………お前良い奴だなぁ…−


「…ねぇ、リコちゃん。私一昨日、無我夢中で、討伐数なんて、数えてなかったけど、少なくともここで2体は討伐したんだ。」


−やっぱり女の子だねー!−


「ねぇ、リコちゃん。」
「うん?」
「私が討伐した2体の巨人は、ラガコ村の人だったの?」
「…フィーナ、」


−リヴァイに会ったら、テメェ、いつ俺に酒寄越すんだ、もう2年も経ってんだからな1番高くて美味ぇ酒持って来い、って言っとけよ!−


「ナナバさんとゲルガーさんを、私の目の前で食いちぎったあの巨人は、ラガコ村の人たちだったの?」
「…っ…」


−兵舎戻ったら、私の部屋のチェストの1番下の引き出しに入ってる奴見てよ。アレ、全部あなたにあげる−


「ねぇ、リコちゃん。」


−新兵を他人の立体機動装置を用いてこの人数の巨人の群れの中に放り込めるほど、非情じゃない。私ら2人でやった方がいい。…だろう、ゲルガー?−


「ナナバさんとゲルガーさんを食いちぎったのは、パパやママじゃ、ないよね?」


−…あぁ。俺たち2人で少しでも減らしてやるよ!−


「私が項を削ぎ落として殺したあの2体は、」


−あの日も言ったと思うけど、『何度壁外へ行ったとしても、必ずちゃんと、帰ってくるんだよ』?−


「パパとママじゃ、ないよね?」


−『調査兵団の兵士』と言う、人類のために戦う人たちは素晴らしいと思うし、その兵士になったフィーナを誇りに思う。…だからもう人類のためじゃなく、お前のため、…母さんのためにも、帰ってきてくれないか?−


そこまで言った私の右腕を、リコちゃんが掴んだ。


「…ディータさんが、亡くなる前に言ったの。」
「え?」
「兵士が泣いちゃいけない、って。…リヴァイさんも、きっとそう。」
「…」
「ずっと同じ班で行動していたエルドさんたちの遺体を見た日ですら、…ぺトラとオルオの遺体を連れて帰って来れなかった日ですら、泣かなかった。」
「……」
「泣けない人の前で、私だけ、わーわー泣けるわけ、ないじゃない。」


リヴァイさんは、泣かない。
それが嫌とか、そういうわけなじゃない。
…ただ私は、兵士として、あの人の役に立つことなど、到底出来ないのに、1人の人間として、…女として、あの人が泣くことの出来る場所にすら、なれないなんて…。
それを考えたくないから、私は殉死した仲間たちを見ても、悲しんではいけないんだ、って、自分で良いようにすり替えていたんじゃないかと思う。
だって、リヴァイさんにとって私は泣くことの出来る場所ですらないって、それはつまり……。


「ねぇ、リコちゃん。」
「うん?」
「兵士が泣いちゃいけない、って。…リコちゃんもそうだよね?」
「…」
「泣けない人の前で、泣けるわけ、ないじゃない。」
「…フィーナ、私は、」
「でももう限界。」
「え?」
「ねぇ、リコちゃん。……今だけ、泣いてもいいかな?」


瞬く間に滲む視界は、リコちゃんに抱き寄せられたことで、大きく揺れた。


「…馬鹿だよ、お前は…。私の前でまで、強がるんじゃないよ…。」
「…っ、」


57回壁外調査で亡くなったみんな…。
そしてみんなを殺し、…私を殺さなかった、アニ…。
団服の、ほんの小さな切れ端と、…大量の血痕だけしか残さず、姿を消したミケさん…。
一緒に死んでいてもおかしくなかったのに、私1人だけ、助かってしまった、リーネさん、ヘニングさん…。
怪我をして、共に戦うことすら出来なかったばかりに、目の前で食い殺されたナナバさん、ゲルガーさん…。
彼らを食い殺した可能性のある、ラガコ村の人々…。
何より…、その村人の1人でもある、両親を、もしかしたらこの手にかけてしまったのかもしれないと言う事実…。
どちらから先に泣き出したのか、ほんとのところはわからない。
ただリコちゃんと2人、私たち以外は誰もいないこの廃墟で、声を出して、気が済むまで泣いていた。

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bkm

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