Attack On Titan


≫Clap ≫Top

ラブソングをキミに


the sorrow of parting 1


「…っ…」
「あ、気がつきました?」


私が目を覚ましたのは、ウトガルドでの攻防から半日以上経過してからだった。
今回の巨人発生時に負傷した兵士は、兵団問わず、一箇所に収容された。
私に声をかけてきたのは、調査兵団の兵士ではなく、駐屯兵団の兵士だった。


「…どう、なりました、か?」
「…」


その兵士は、酷く言いにくそうに顔を歪めていた。


「あなたはウトガルドで負傷されたんで、その後超大型巨人や鎧の巨人が現れたことは知らないんですよね?」
「…超大型や鎧の巨人が現れたんですか!?」
「はい。それも…104期調査兵の中からだと聞いています。」
「え?」
「その2体によって囚われたエレン・イェーガーを奪還するため、調査兵、駐屯兵、そして憲兵が一丸となり、壁外へ向かいました。我々はその帰還を待っているところです。」
「ち、ちょっと待ってください!」


淡々と、起こった出来事を語るこの兵士の話を遮った。


「104期の中から壁を破った巨人が出たんですか!?それもエレンを捕らえ連れ去ったんですか!?一体誰が、」
「私はよくは聞いてませんが、ウトガルドにいた2名だと伺ってます。」
「え…?」


ウトガルドには、コニー、ライナー、ベルトルト、ユミル、そしてクリスタがいた。
…女型の巨人は、巨人として現れてもどこか、アニに似ていた。
それは巨人化したエレンにも言えることで…。


「ま、さか…、」
「…」
「ライナーと、ベルトルト…?」


壁が突破された過去2回。
私が直接、2体の巨人を見たわけじゃない。
でも「コニーのわけがない」と言う思いから、消去法で、この2人しか、あり得ないと思った。


「私は名前までは…。」
「…他の、他の調査兵は!?」
「動ける兵士は全て壁外に出ています。が、負傷していたリヴァイ兵士長とハンジ分隊長なら恐らく、」
「ハンジさんが負傷したんですか!?」
「…超大型巨人が現れた時に。」


私は、ほんの半日、寝ていただけだ。
でもそれはなんだか1年も、2年も寝ていたような、そんな錯覚を与えた。
当たり前と思っていたことが、新しい事実になって跳ね返ってきたような感覚。


「あ!まだ無理しない方が、」
「…無理くらい、しないと、駄目なんです。」


無能な私は、無理でもしないと、駄目なんです。
私を止めようとした駐屯兵は、私を静止するのを止めた。
体が傷まない、と言ったら嘘になる。
でも、立ち止まっている場合ではない。
先ほどの駐屯兵に言われた場所(壁の上)に行っても、リヴァイさんも、ハンジさんも、姿が見えなかった。
その代わり、


「リコちゃん、」
「フィーナ!」


見張りをしていたリコちゃんに会うことが出来た。


「ねぇ、どういうこと?何があったの!?」
「…フィーナが倒れてから、」


そしてリコちゃんは、さきほどの駐屯兵よりも、より詳しく、私に現状を伝えてくれた。
104期の中から超大型巨人と鎧の巨人が現れ、エレンとユミルを連れ壁外に向かった。


「なんでユミルも?」
「…ソイツも巨人だったんだよ。」
「え?」
「『だから』お前たちがウトガルドで助かったと聞いている。」


その時脳裏に蘇ったのは、ウトガルドで意識を失う前に見た、コニーの姿…。
あの時コニーは、巨人に捕まっていた。
ならばあれは、ユミル…。


「なら、」
「…」
「『あの場』にいた5人の新兵のうち、3人が巨人だったってこと?」
「…そうなるな。」


−新兵を他人の立体機動装置を用いてこの人数の巨人の群れの中に放り込めるほど、非情じゃない−


何それ、それじゃあナナバさんもゲルガーさんも……。


「それから、」
「…」
「私が言うことじゃないと思うけど、変に歪曲されて伝わる前に言っておく。」
「…」
「…ラガコ村が襲われたのは、知ってるよな?」
「……うん。でも逃げたらしい、って、」
「そう報告は上がってるが、巨人が現れてから丸1日経過したが、……逃げたはずの村人が、どこにもいない。1人もね。」
「………え?」


知らず知らず俯いていた顔をあげリコちゃんを見るけど、リコちゃんは真っ直ぐと…、壁の向こうを見据えていた。


「私はここの見張り担当にされたから詳しいことは聞いていない。」
「…」
「でも、そういう報告を受けている。」


逃げたはずの、ラガコ村の人間が、どこにも見当たらない…。
それは…。
それは、つまり……。


「遅かれ早かれお前の耳に入るなら、私から伝えておきたかったんだけど…、」
「…うん、大丈夫。ありがとう。」


次の言葉が出てこない私を心配そうに見てくるリコちゃん。


「リヴァイさんとハンジさんは?」
「……さぁね。エレン・イェーガーを必ず奪還してくること前提で、何かしら企んでるようではあったけど、今どこで何をしているのかまでは私にはわからない。」
「…そう…。」
「ただお前宛に『リヴァイ兵長』から伝言を預かっている。」
「え?」
「エルヴィン団長が戻ってくる前にフィーナがここに来たら『お前は兵団宿舎に行け』と伝えろと言われた。」
「…兵舎?」
「あぁ。なんでかまでは知らないけど、そうしてほしいようだったよ。」


リコちゃんの話を聞く限り、今、壁内は大混乱に陥っている。
調査兵はもちろん、駐屯兵、憲兵、全ての兵団兵士がこの混乱を沈静化させようと動いているはずだ。
…なのに兵舎?


「…行くの?」


納得はいかない。
いくら怪我をしていても、出来ることはあるはずだ。
だけど…。


「『それ』が命令みたいだから。」


今はその言葉に従うしかない。
リコちゃんと別れ、陽が落ち始めたトロストの街並の中1人、兵舎に向けて馬を走らせた。





********
章タイトル:the sorrow of parting(別れの悲しみ)

prev next


bkm

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -