Attack On Titan


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ラブソングをキミに


Snow White 9


「う、あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


エレンの叫び声と共に、「それ」特有の閃光と、爆風が辺りを覆った。
咄嗟に目の前を腕で隠した。
視界が晴れてくると、エレンが…巨人化したエレンが、アニに向かい駆け出していったのがわかった。


「……あとは、3次捕獲担当のハンジさんたちに任せれば、いいんだよ、ね…。」


「それ」自体がどう、決着がつくのかわからないけど、今現在、服が避け、肌が露出したところからは血が噴き出し、動かすたびに痛みを伴う状態の私が今更駆けつけたところでお荷物なのは目に見えていた。
大人しく、自分で止血をし、現在もみんながいるであろう場所へ向かうことにした。


「ハンジさんっ!!」
「フィーナ!って、その足大丈夫?」
「止血はしたんでなんとか…、これは…?」
「………」


今回の作戦は、東の壁にアニを、女型を追い詰める、と計画された。
だからすぐにみんながいそうな場所は特定することが出来た。
そこにたどり着き、第3次捕獲作戦の指揮官であるハンジさんに声をかけたら、右手人差し指でスッと、兵士たちが集まっている中央…巨人が蒸発する際に発する特有の蒸気を指さした。
その指の先には大きな塊にブレードを突き立てているジャンと、リヴァイさんがいた。


「…巨人化したエレンがアニを押さえ込むところまで上手くいったけど、逃げられた。」
「え?」
「…自分自身を硬い殻で覆った。ブレードを突き立ててもそのブレードが折れる状態じゃ、手の出しようがない。」
「…情報を引き出せない、ってことです、か?」
「………あぁ、そうだね。これだけの犠牲を払ったにも関わらず、敵の方が1枚上手だったんだ…。」


ハンジさんの視線の先には、硬く大きな、水晶体があり、目を凝らすと、その中にはまるで眠るようなアニの姿があった。


「調査兵どもに告ぐ!エルヴィン・スミス筆頭に、貴様らは1人残らず我々憲兵団より聴取される。刃向かう者にはその場で拘束の許可が出ている。取り押さえられたくなければ、この場の指揮権を憲兵団に委ねろ!」


ハンジさんの指示の元、ワイヤーでネットを作り、アニを拘束している時、憲兵の1人がそう叫んだ。


「……今さらノコノコ来て偉そうに…」


ジャンがぼやいた声が聞こえた。
ハンジさんが出した指示を引き継ぎ、憲兵が指示を出す(と言っても、実際にアニを拘束しているのは調査兵)


「まるで、」
「あ?」
「…まるで、白雪姫…」


地下へと運ばれゆくアニ。
憲兵に銃を向けられながら連れて行かれるエレン。
それを目の端に映しながらポツリと呟いた言葉に、いつの間にか隣に来ていたリヴァイさんが反応した。


「シラユキヒメ?なんだそれ?」
「子供の童話ですよ、知りません?」
「知らん。」
「毒りんごを食べて死んだと思われたお姫様は、仮死状態のまま7人の小人に硬いガラスの柩に入れられ、王子様が助けに来てくれるのをずっと待っているって話です。」


眩い金髪に、肌の白いアニは、本当に、童話のお姫様のようだ…。


「はっ!」


私の言葉に、リヴァイさんが鼻で笑った。


「随分良い例えをしたな。」
「え?」
「女型捕獲を指示したエルヴィン、捕獲失敗時の現地での総指揮を任されたハンジ、女型と戦うために必要なエレン、そのエレンに知恵を与えるアルミン、エレンのサポートに必須なミカサ、エレンの替え玉をしたジャン、そして女型を誘き寄せたお前。ちょうど7人だ。」
「………」
「クソ女型は『7人の小人』にガラスの柩に追い込まれた。生きたままな。」


苦々しく、リヴァイさんはアニが去っていった方を睨みつけた。


「でも、」
「あ?」
「白雪姫は、仮死状態で柩の中に入り、最後は、王子様のキスで目覚め、幸せに暮らす、っていうお話なんです。」
「………」
「あの中でアニは、何を思っているんでしょうか…。」
「…さぁな。」


そう。
この物語は最後、王子様のキスで目を覚ますけど…。


−大して強くもないくせに、こんな私を『可愛い女の子』だなんて言う馬鹿な兵士、後にも先にも、あんたしかいないからだよ−


「可愛い女の子」
「あ?」
「…て、言ったから、私を殺さなかった、って、言われました。」


ズキズキと、擦れた足が痛む。
それはアニとの戦いで負った傷。
だけど…。


「リヴァイさん、」
「なんだ?」
「アニは、」
「…」
「…アニは、本当に『悪い人』なんでしょうか?」


ディータさんを投げ飛ばし、エルドさんを噛みちぎり、グンタさんを削ぎ落とし、ぺトラを踏み潰し、オルオを叩き潰したアニ。
だけど…。


−大して強くもないくせに、こんな私を『可愛い女の子』だなんて言う馬鹿な兵士、後にも先にも、あんたしかいないからだよ−


「そうでなければなんだ?」
「…」
「『良い奴』だとでも言うのか?これだけの犠牲を出すようなクソ女型が。」
「…そう、です、よ、ね…。」


−これから何があろうと、お前だけは、俺より先に死なないでくれ−


リヴァイさんは、誰よりも強い。
つまりそれは、誰よりも生存能力が、高いと言うこと。
…そしてそれは、皮肉なことに、それだけ、人との別れを、経験していく、と言うことだ…。
今回はその「別れ」の中でもきっと、この人の心に深く影を落とす別れだったはずだ。
だからこの人の気持ちはわからなくない。
ディータさんを、リヴァイ班を、そして多くの兵士を殺した女型は憎い。
だけど…、


−大して強くもないくせに、こんな私を『可愛い女の子』だなんて言う馬鹿な兵士、後にも先にも、あんたしかいないからだよ−


それ=アニだと確証した今もなお、憎いと言えるのか…。
きっとそれは誰にも言ってはいけないこと。
だけどどうしても、私にはわからなかった…。
アニは、本当に、『悪い人』だったのかどうかが……。


「フィーナ。」
「はい?」


この場から立ち去ろうとするリヴァイさんが、私に向けて声をかけてきた。


「どうでもいいが、お前その足どうにかしろ。」
「あ、あぁ…、血は、もう、止まってます、よ。」
「そういうことを言ってるんじゃない。」
「え?」
「なんだその服は。」


なんだ、と言われている現在の私の服装は、着地を失敗し、服が破け大部分を擦り傷血まみれにした右足と、その右足の血を止めようとない包帯の代わりに左足の服を引き裂き止血に当てたため、言うなれば、ショートパンツを履いているような格好になっていた。


「……………怪我して止血したため?」
「さっさと仕舞え。見苦しい。」
「みぐ、」


そう言うだけ言って、リヴァイさんは憲兵を引き連れ、エルヴィンさんが連れて行かれた方へと去っていった。
……………見苦しいって、ひどくないです、か……?
そりゃあ、出血して血の痕がふんだんについている足を出してるわけだから、見苦しいのはわかりますが、見苦しいって、なんですか、見苦しいって……。


「フィーナ、あなたも尋問対象だから行かなきゃだよ。」
「あ、はい。」


ハンジさんに促されるまま、歩き出す。


「でもその前にちゃんと手当する?」
「…そうですね、見苦しいと思うので…。」
「うん?」


立ち去る間際、もう1度、広場を見つめた。
………アニと、エレンが戦った、この広場を…。


−死ぬよ、アンタ−


それでも私は、死ななかったよ。
それはアニ。
あなたが私を、殺さずにいてくれたから…。
まるで白雪姫のように硬い器に守られ眠るあなたは、どんな夢を見るの?
そこでも、大勢の兵士を殺す、殺戮者になっているの?
それとも…。
私の知っている、アニ・レオンハートになっているの?
女型との攻防で私たちが負った傷は、とても深い。
「その時」は私も逆上し、必死だったけど、全てが終わった今、…何も残らなかった今、水晶体の中に閉じこもり口を閉ざしたアニに対し、みんな憎しみの目を向ける。


−大して強くもないくせに、こんな私を『可愛い女の子』だなんて言う馬鹿な兵士、後にも先にも、あんたしかいないからだよ−


だけど、どうしても私は、女型を…アニを…、憎しみの目だけで見るようなことは、できずにいた…。

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