Attack On Titan


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ラブソングをキミに


Snow White 5


「これより計画を開始する。」


エレンと、エルヴィンさんが王都に招集される当日の朝、出発前に内々にエルヴィンさんから通達があった。


「捕獲対象者との接触にあたり、実際の現場で判断はフィーナ、君に一任する。」
「はい。」
「ストへス区の地図は頭に入ってるね?」
「大丈夫です。」
「よし。信号弾について、フィーナ、アルミンの両名はすぐ撃てるように準備をしておくこと。」
「「はい。」」
「ミカサ、君は何よりもエレンを守ることを最優先にしてくれ。」
「はい。」
「団長、時間です。」
「わかった。………全ては君たちにかかっている。後は頼んだぞ。」
「「「はっ!」」」


馬車へと向かうエルヴィンさんに、3人で敬礼をした。
その後、エレンに似せた化粧をさせられたジャンと合流し、エルヴィンさんたちから遅れること少し、古城を出発した。


「うまく、いきますか、ね…。」


計画を実行するにあたり、周辺を固める兵団の本隊とは別に、目標をおびき寄せるストへスへ趣いた私たちは、無事エレンとジャンの入れ替えに成功。
後は憲兵が動き出すのを身を潜めて待つだけという状況まで来た…。


「うまくいくかどうかじゃない。」


エレンとミカサから離れて、アルミンと2人でいる時、アルミンが声をかけてきた。


「やるしかないの。」


そう。
「私たち」は、前に進むしかないんだから…。


「…護送車が行ったね…。」


私のその言葉に、アルミンの顔色が変わった。
エレンの替え玉のジャンとエルヴィンさんを乗せた護送車を見送った憲兵団の兵士たちが一斉に動き出した。
その最後尾に……、アニの姿があった。


「準備はいい?」
「はい。」
「…アルミン。」
「はい?」


アニに声をかける直前、アルミンの顔を見つめた。


「どんな犠牲を払っても『私たち』はそれでも前に進まなければいけない。」
「…」
「それが例え…大切な何かを捨てることになったとしても、それだけは絶対に変えてはいけない。死んでいった、仲間のためにも。」
「……」
「だからやるの。必ず。」
「………」


通りの向こうに控えていた、調査兵団の兵士に軽く手をあげ、「目標と接触する」と言う合図を送る。
その兵士も軽く手をあげ返し、伝令のため、通りの影へと消えていった。


「じゃあ行くよ。………アニ。」


私の呼びかけに、ピクリ、と、アニが反応したのがわかった。


「…アニ。」


もう1度、今度はアルミンがアニへと呼びかける。
その声に答えるように、アニは他の兵士から離れて、私たちのいる小路へと入ってきた。


「やあ、もうすっかり憲兵団だね。」


この作戦は、初動の、つまり、私とアルミンの行動にかかっていると言っても過言ではない。
………絶対に、失敗出来ない。


「どうしたの…?その格好は?」
「荷運び人さ。立体起動装置を雨具で見えないようにしてるんだ。ほら。」


雨具に隠した立体機動装置をアルミンと2人、アニにチラッと見せた。
それにアニは驚いた顔をした。


「…どういうこと?」
「アニ。………エレンを逃がすことに、協力してくれないかな?」


アニとアルミンは、仲が良かっただろうか…?
それどころか、アニが取り立てて誰かと仲が良かったなど、…トロスト攻防時に亡くなったと言うアニと同室だったミーナ・カロライナくらいしか、知らない。
でも事実、アニはアルミンを「殺さなかった」
私同様に…。


「逃がすってどこに?王政の命令に逆らって…、この壁の中のどこに逃げるの?」
「一時的に身を隠すだけさ。王政に真っ向から反発するつもりじゃない。調査兵団の一部による反抗行為って体だけど、時間を作って、その間に審議会勢力をひっくり返すだけの材料を揃える。必ずね。」


アニの顔には、疑いの色が濃く現れている。
当然と言えば、当然だけど…。


「ひっくり返す材料?そんな都合のいい何かがあるの…?根拠は?」
「ごめん、言えない。」
「…悪いけど…、話にならない。黙っといてやるから勝手にがんばんな。」
「このまま去るなら、この場であなたを拘束する。」
「「!?」」


アルミンとアニの会話に入った私を、2人は驚いた顔で見てきた。


「調査兵団第13代団長、エルヴィン・スミスよりこの件に関して一任されている。」
「…」
「私たちの話を聞いた以上『黙っといてやる』なんて言う不確かな理由で納得は出来ない。」
「……」
「エレンの命を確実に守るためなら、あなたには犠牲になってもらう。」
「………」
「それが『団長』の命令であり、私が必要だと思うことよ。」


私の言葉に、アニは目を細めた。


「…言っちゃなんだけど、」
「…」
「あんたが『団長』に『一任』されるほどの優秀な兵士に、見えないんだけど…。」
「……」
「仮にここであんたたちに加担したことがバレて、『団長直々の命令』であるならあるいは調査兵団が私を匿ってくれるかもしれない。でも、そうじゃないってことだろう?悪いけどそんな危険な橋は、」
「アニは憲兵だから知らないんだよ。」
「え?」
「フィーナさんがうちの兵団でどれだけ信頼が厚い兵士か、知らないんだよ。」


私とアニの間に、今度はアルミンが入ってきた。


「団長にエレンを助けるよう直訴しても、僕とミカサだけじゃきっと、聞き入れてもらえなかった。」
「…」
「フィーナさんも一緒に直訴してくれたから、エルヴィン団長はこんな無謀な計画の許可を出したんだ。」
「……」


アニはアルミンの真意を伺うかのように、真っ直ぐとアルミンを見つめた。


「それにフィーナさんはこの件に関して誰より必死なはずだよ。」
「…なんで?」
「王都招集された人物の中には、エレンとエルヴィン団長だけじゃなく、リヴァイ兵長もいるからさ。」
「なんで今『あの』兵士長の名前が出てくるの?」
「フィーナさんがリヴァイ兵長の恋人だからだよ。」


その言葉にアルミンを見遣ると、今度はアルミンが私を真っ直ぐと見つめていた。


「そうですよね?」
「……やっぱり気づいてたんだ。」
「隠してるみたいで確証はなかったですが、そう考えたらいろいろ辻褄が合うので…。」


すみません、とアルミンが小さく呟いた。


「じゃあ何?エレン救出の大義名分は蓋を開ければ単に恋人を助けたいってだけなの?」


そこに思考が行き着いたアニの顔に、どこか緊張の色が溶けたような、そんな気がした。


「…このまま連れて行かれれば、エレンはもちろん、エルヴィンさんも、…そして『兵士長』と言う立場のリヴァイさんも、断罪される。」
「……」
「それを阻止そするためにも、今ここでエレンを逃がして時間を稼ぐ必要があるの。」


アニは真っ直ぐと私を見つめる。
……あの頃と変わらない、気が強そうな瞳で。


「アニ、お願いだ!このままじゃエレンは殺される!何にもわかっていない連中が自分の保身のためだけに、そうとは知らずに人類自滅の道を進もうとしている!」


アルミンが、アニのを見据えて説得に入る。


「僕たちだけじゃ説得力がないことはわかってる!でもそれでも、もう大きな賭けをするしかないんだっ…!もちろん迷惑がかからないように努める。…けど、ウォール・シーナ内の検問を潜り抜けるにはどうしても憲兵団の力が必要なんだ。もう、これしかない。」


アルミンの言葉に、アニの瞳が揺れた気がした。


「あんたたちさ…、」


少し俯きながら、アニは口を開いた。


「私がそんなに良い人に見えるの?」
「良い人、か…。それは…、その言い方は僕はあんまり好きじゃないんだ。だってそれって…、自分にとって都合の良い人のことをそう呼んでいるだけのような気がするから。すべての人にとって都合の良い人なんていないと思う。誰かの役に立っても、他の誰かの悪い人になっているかもしれないし…。だから…、アニがこの話に乗ってくれなかったら、アニは僕にとって悪い人になるね…。」


アルミンの言葉を聞いた後で、アニは私を見遣った。


「あなたを『良い人』か『悪い人』かと判断するほど、私はあなたを知らない。」
「…」
「けど、」
「…けど?」
「…少しだけ大人になったかもしれないけど、『あの日』と変わらない『可愛い女の子』のあなたなら、話を聞いてくれるんじゃないかと思った。」


アニは私とアルミンの言葉を聞いて、1度目を閉じ、深く深く、息を吐いた。


「いいよ。乗った。」


アニが再び目を開けた瞬間、この計画が大きく動く音が響いた。

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bkm

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