Attack On Titan


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ラブソングをキミに


敗者たち 6


ようやくたどり着いた、久しぶりにも感じる兵舎は、以前のそれとは違いとても重く…、冷たい空気を纏っていた。
私が部屋についた時リヴァイさんは不在で、未だ戻ってきた形跡もなく、…恐らく、怪我のことや明日のことを確認してるのだろうと思った。
いつも通り、時が流れる。
いつのも遠征後のように、片付けをし、共同風呂に入り、部屋へと戻る。
何も変わらない。
…ただとても、…とても、静かな空間になっただけだ…。


「お帰り、な、さい…。」
「…………」


部屋に戻ると、既に陽も落ち、薄暗くなった部屋に1人、窓の外を見るとはなしに、リヴァイさんが佇んでいた。


「…………」
「…………」


元々すごく話すわけでもない私たちには、いつも通りの、よくある沈黙だ。
………だけど。
それを「いつも通り」と、片付けていけないことくらい、私でも、わかっている…。
どうしようかと思いながら、手に持っていた洗面道具をテーブルの上に置いた時、月明かりが差し込むだけの薄暗い部屋で、リヴァイさんが何かを握り締めているのがわかった。


「………」
「………」


目を凝らし、リヴァイさんの手元を見てみるとそれは…、


「………」


「誰か」の生きた証、…団服の紋章だった。


「………」


よく見ると、リヴァイさんがいるあたりの床に何枚もの紋章が落ちていた。
………この人は、あの箱に、この紋章を仕舞うことで心の整理を、区切りをつけていたんだと思う。
でもまだ、それすら、出来ない状況で…。


「…When you're weary, feeling small When tears are in your eyes,I will dry them all…」
『あなたが疲れ果て涙を流せないほど絶望していたのなら……私がその目尻に口づけてあげましょう』


ただの、小さな小さな布。
でも、この1枚1枚には、それぞれの思いが、苦しいほどに、詰まっている。


「…When you're down and out When you're on the street When evening falls so hard I will comfort you…」
『あなたの心が希望を失って、1人彷徨い辛く寂しい夕暮れを迎えた時は、私があなたの傍にいることを思い出して』


床に散らばったみんなの思いを、1枚1枚、拾い集めた。


「…めろ…」


「…I'll take your part When darkness comes And pain is all around…」
『暗闇に飲み込まれ苦しみしか見い出せなかったとしても、私だけは必ず、あなたの味方だから…』


「その歌を止めねぇかっ!!」


そう叫んだリヴァイさんは、力強く紋章を握り締めながらも、…私を見ようとは、しなかった。


−私を選んでくださった兵長に恥じない兵士になるように、何より…、私を兵長に推薦してくれたフィーナのためにも、絶対に立派な兵士になってみせます−


少し俯きながら握り締めた拳を震わせているリヴァイさんは、とても、とても……。


−Sail on silver girl Sail on by−
−さぁ立ち上がって前に向かって歩き出して!!−


「…っ…」


リヴァイさんの震える拳に触れると、そこにはきっちり、4枚の、…4人の生きた証が、握り締められていたのがわかった。


「進みましょう、リヴァイさん。」
「…」
「それでも、前へ。」


−兵長は確かに人類最強、って言われるくらい強いけど…、でも兵長だって、普通の人間で…−


もしここにいるのが、私じゃなくてぺトラだったのなら…。
もっと、気の利いたことを、この人に、伝えてあげられたのかもしれない。
この人は誰もが認める人類最強だ。
あの女型から、エレンを奪還するくらいの力がある人だ。
でも…。


「私たちが進まなきゃ、」
「…」
「全てが無意味になってしまう。」


酷く儚い、壊れてしまいそうなほどの危うさを感じてしまう人だ……。


「…っ…」


この時の私の選択は、もしかしたら間違いだったのかもしれない。


「…Like a bridge over troubled water I will lay me down…」
『私が橋となって荒れ狂う激流の中に立ち尽くすあなたを、救い出してみせるから』


この人を、泣かせるようにしてあげれば、良かったのかもしれない。
あるいは泣けないこの人の代わりに、私が泣けば、良かったのかもしれない。
でもそれらは全て、後になって思うことで。
…後にならなければ、人は結局、何が正しく、何が間違っていたのか、なんて、わからないものなのだから…。


「Like a bridge over troubled water I will ease your mind……」
『私が必ず、あなたを救い出すから、…だからどうか、自分を責めないで……』


まるで縋りつくように私にしがみつきながらも、決して涙を流さないリヴァイさんを抱きしめながら、私も泣かないように、ただただ、…この人が寝つくまでずっと…、口ずさんでいた。





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英詞無視
Simon&Garfunkel Bridge Over Troubled Water

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bkm

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