Attack On Titan


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ラブソングをキミに


敗者たち 3


それからどのくらい経過しただろうか…。
ただひたすらに、壁内への帰還を目指し、総員馬を走らせていた時、


パァァン


後方で、赤い煙弾があがった。
直後、隊列の移動速度があがった。
…木も建物もないこの平野で、壁まで逃げ切った方が早いと、エルヴィンさんが判断したんだろう…。
ならば一般兵の私たちはそれに従うだけだ。
でも…。


「このままでは追いつかれるっ!!」
「戦うしかねぇのかっ!?」


後列で荷馬車を護衛しながら移動していた私たちのすぐ側まで、巨人は来ていた。
少し離れた位置を走るアルミンとジャンが後方を確認しながら言う。
………逃げ切れる方法はある。
でもそれは「人として」絶対に………。
だけど…。


「ダメだ!追いつかれるっ!」
「俺がアイツの後ろに回る!!一先ず気を逸らしてその隙に、」
「やめておけ。」


リヴァイさんは、先ほど森を抜け他の兵士と合流してから、怪我をした場所を包帯で固定し、自力で馬を走らせることが出来るようになった。
確か前方、エルヴィンさんの近くで馬を走らせているはずだったけど、巨人の出現に後方に回ってきたようだ。


「遺体を棄てろ。」
「なっ!?」
「追いつかれるぞ。」


後方に回ってきたリヴァイさんは、荷馬車に乗っている兵士に、いつもと変わらない無表情のままで、とんでもないことを「命令」した。


「遺体を持ち帰れなかった連中は過去にも五万といた。ソイツらだけが特別なわけじゃない。」
「だめですっ!!そんなことするくらいなら戦いますっ!!」


荷馬車越しに話に割って入った私をリヴァイさんは一瞥した。


「回収できなかった人たちの分も、この人たちは全員っ、」
「『巨人に追いつかれそうになったら、躊躇わずに荷台を切り離してくれ』」
「え?」
「かつての遠征で、怪我して自力じゃ起き上がることも出来ねぇくせに俺にそう言ってきた馬鹿な兵士がいたが、」
「…」
「うちの兵士なら、誰しもがそう思っているはずだ。」
「……そ、れと、これとはっ、」
「同じだ。テメェのせいで『仲間』が死ぬなんざ、うちの兵士なら誰も望んでなんかいねぇだろうよ。おい!遺体を棄てろ!」
「ダメよっ!やめてっ!!」
「やれっ!!!」
「や、やるんですかっ?ほんとにやるんですかっ!?」
「………やるしかないだろうっ!!!」


リヴァイさんの「命令」に、意を決した荷馬車にいた兵士の1人が、遺体に手をかけた。


「やめてぇっ!!」


次々に地面へ投げられる殉死者たち。
悲鳴にも近い、私の叫び声の中、何体目かの遺体が荷馬車から投げ捨てられた。
……瞬間、


−選ばれたからには、兵長に全て捧げて兵士としての使命を全うするから!−


誰をも魅了するほどの、眩い金の髪が、空中を舞った。


「…っ、」


今ならまだ間に合う。
そう思ってリヴァイさんを見たけど……。


「っ!?」


この人と出逢って、8年。
今までこれほどまでに、この人が、苦しいほど悲しく顔を歪めたところなんて、見たことが、なかった…。


−お2人には、人間らしい気持ちと言うものがないのですかっ!!!?−


……今の今まで、私は、この人たちの何を見ていたんだろうか……。
この人たちは、…少なくともリヴァイさんは、きっと誰よりも「人間らしい」だからこそ、その「人間らしさ」を捨てる人だ。
………他の誰でもない、「仲間」のために………。
そしてそれが出来てしまう、悲しい、人だ…。
泣きたいのか、叫びたいのか。
正直なところ自分でももう、わからなかった。
後方で聞こえる「ドサリ」と言う「何かが地面に落ちる音」を聞きながら、滲む視界がこれ以上広がらないように、歯を食いしばることで必死に抑えていた。
…そしてそのまま隊列は、前進する。
壁の内側に向けて……。


「位置の確認が出来次第出発する!警戒を怠るな!!」


一旦休憩を言い渡された時、リヴァイさんがある兵士に近づいていった。
その人はさっき…、命令を無視し、幼馴染の遺体を回収、結果…、巨人の群れを引き連れ隊列の帰還を脅かした人。
彼がエルヴィンさんの命令を無視したツケは、大きかった。
…回収した遺体と、共に回収に当たったもう1人の兵士の犠牲を払ったのだから…。


「これが奴らの生きた証だ。」
「…っ…」
「俺にとってはな。」


そう言いながらリヴァイさんは彼が回収しようとした兵士のものだ、と、自分の持っていた紋章を1枚、その兵士に渡し、この場を去っていった。
……あるいは彼が…。
エルヴィンさんの命令に従っていたら、今も、この場に、「彼女」は、いたのかも、しれない…。
そして恐らくそれは、他の誰でもなく、リヴァイさんが1番強く、思っていることだろう。
「もしあの時、巨人が来なければ、連れて帰ることが出来たのに」と…。
でもリヴァイさんは、この兵士を一言も責めることなく、この場を去った。
………彼に渡した紋章が、彼の幼馴染のものかなんて、本当のところはわからないはずだ。
それどころか、回収さえ「切り捨てられた」状況だった遺体の紋章、取って来れるわけがない。
あれはたぶん、森の外で遺体を回収、確認していた時に、リヴァイさんが外していた「誰か」の紋章だ。
それをあえて、あの兵士に渡した。
多くの遺体を遺棄「させた」憎まれ役を一身に受け、なおも彼が、自分を責めないようにした。


「…………」


なんて…。
この人は、なんて………。


「出発するぞー!!」


陽が傾きかけた空はまるで、「彼女」の髪のように、黄昏色に輝き初めていた。

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bkm

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