Attack On Titan


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ラブソングをキミに


敗者たち 2


「フィーナさん!」
「アルミン。……シャレットは?」
「それが……。」


森を抜け、エルヴィンさんが「本部」と指定した場所に着くと、他の調査兵も集まっていて、…主に遺体の確認、回収作業に追われていた。


「ごめん、私のミスだ。」
「ナナバさん。」


辺りを見回してもシャレットの姿が見えず、アルミンに尋ねたら返答をしたのはナナバさんだった。


「…手綱をね、離した瞬間に、走り去ったんだ。」
「え?」
「多分ですが…、僕たちが来た方向に、走っていったんだと思います。」
「………それ、って、」
「私たちより先に、行ったのかもしれないね。…ディータのところに…。」


ディータさんの愛馬、シャレットは、ディータさんが兵団員みんなに自慢していたほど、頭の良い馬だ。
……だからきっと、ディータさんの傍で、ディータさんを壁内に連れて帰るのを、待ってるんだと思った。
それはたぶん、ナナバさん、そして新兵ながらもディータさんの班員でその人柄やシャレットと接してきたアルミンも、思ったんだと、思う。


「姉ちゃん!!」
「コニー!!…良かった、無事だったんだ…!」


その直後、森の反対側で待機していたらしいコニーと合流出来た。


「姉ちゃん、俺、よくわかんなかったんだけど、」
「…うん…。」
「姉ちゃんは、知ってたんだよな?」


コニーの頭を撫でるように触っていたら、コニーがどこか…、恐れているような、怯えたような、…いろんな恐怖が相まったような…、そんな表情で私を見てきた。


「…コニー、」
「姉ちゃん。俺頭悪ぃから俺に言えねぇのはわかるけど、でも他の奴らは違うだろ?知ってたら死ななかった奴だっていたよな?なんで言わねぇんだよ!この遠征で、どれだけの兵士が意味わかんねぇまま死んでったと思ってんだよ!」


−意味も教えてもらえぬまま死ねと言ってるようなものじゃないですかっ!−


「…ねぇ、コニー、」
「おい、新兵!『姉ちゃん』にあたるな。」


私がコニーに「何か」を言おうとした時、コニーの班の班長であるゲルガーさんが声をかけてきた。


「お前、何勘違いしてるのか知らねぇが、『姉ちゃん』は『知らなかった』んだ。仮に知ってたとしても、団長命令であればそれを遵守する。例え親兄弟であれ、言えねぇもんは言えねぇ。それが兵士のあるべき姿だ。わかったら『姉ちゃん』にあたるな。」
「…………」


コニーはゲルガーさんの言葉に地面を睨みつけた。
私がソッとコニーの背中に手を当てると、ごめん、と小さく呟くにように言った後で、アルミンたち、同期の下へと歩いて行った。


「ゲルガーさん、すみません。」
「………」


ゲルガーさんがあえてあぁ言ってくれたことへお礼を言ったら、ゲルガーさんは無言で親指でクィッ、とどこかを指し示した。
その方角を見ると、


「……………」


殉死者の遺体から、1枚1枚、団服についている紋章を外している、リヴァイさんの姿があった…。
精鋭中の精鋭で出来ているリヴァイ班壊滅の情報は、瞬く間に兵士の間に広がっていた。
…だからゲルガーさんも、耳にしたはずだ。
ゲルガーさんと仲の良かった、エルドさんが亡くなったことを…。
だけどゲルガーさんは多くを語らず、ぽん、と私の肩に1度手を置いた後で、この場を去っていった。
………リヴァイさんは、1人1人、団服の紋章を外していく。
死んでいった、仲間の意志を、持ち帰るために……。


「これより陣形を再展開し、カラネス区に向かう。」


森で殉死した兵士の遺体を大方回収した後、エルヴィンさんがみんなに向けてそう告げた。
帰還へのルートを告げながら。
………でもそのルートは…、


「ち、ちょっと待ってください!」
「なんだ?」
「来た道を戻るんじゃないんですか!?」
「無駄に距離を伸ばせば、その分犠牲者が増える。いち早く壁内へ帰還することが先決だ。」


私たちが壁門を出発し、ここまで来たルートを通らない、最短距離で行くというものだった。


「ここに来るまでに殺された兵士の遺体はっ、」
「君は何度壁外に出ている?今までも何体も回収しきれない遺体があったはずだ。残念だが『今』残っている者を優先する。」
「でもっ!」
「これは命令だ。ルートは変えない。……帰還後君の話を聞くためにも早急に壁内へ帰還しなければならない。違うか?」
「………いえ、その通りです…。」


エルヴィンさんの言うことはきっと…「人類のため」「兵団のため」…正しいことばかりだ。
それはわかっている。
でも…。
それでも………。


「せめて連れて帰ってやりたいんですっ!!」
「我が儘を言うな!」
「ガキの喧嘩か?」
「リヴァイ兵長…。」
「死亡を確認したならそれで十分だろう。遺体があろうがなかろうが、死亡は死亡だ。何も変わるところはない。」
「…そんな…。」
「回収できなかった者については行方不明として処理する。これは決定事項だ。諦めろ。」
「お2人には、人間らしい気持ちと言うものがないのですかっ!!!?」


上官と一般兵との軋轢を生じさせるには、十分な出来事だった…。
わかっている。
エルヴィンさんの、…そしてリヴァイさんの言うことは、きっと正しい。
遺体回収に力を入れるあまり、二次被害が起ころうものなら、それは元の木阿弥だ。
より「人類のため」に、「今を生きている者」を如何に迅速に壁内へ戻すか…。
それがきっと、今の最優先事項に違いない。
わかっている。
今までも、そうだったのだから。
……わかっては、いる…だけど……。


「…じゃあ、ネス班長は、」
「うん…。連れては、帰れない…。」


出発直前、アルミンに声をかけられ、エルヴィンさんの「指示」をそのまま伝えた。


「…大丈夫ですか?」
「私?大丈夫だよ。怪我もしてないし。」
「………」


そして私たちは、想像を絶する犠牲を払った今回の「計画」を終え、壁内へと帰還を目指す。

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bkm

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