Attack On Titan


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ラブソングをキミに


第57回壁外調査 6


「エルヴィンさん!」


森の奥に進むと、私たちがそうであったように、木の上に佇んでいるエルヴィンさんを見つけた。
パシュッ、と、近くの木にアンカーを刺し、エルヴィンさんがいる隣の枝にたどり着いた。


「フィーナ。撤退命令が出たはずだ。」
「…女型の捕獲、失敗したんですね…。」


たどり着いた先、足元には女型がいたのであろう場所が蒸気を発し、そしてその中心には…まるで女型を喰っていたかのような巨人たちがいた。


「聞こえなかったか?撤退だと、」
「もし!」
「なんだ?」
「本当に女型の捕獲に、失敗したのなら、早急に、話しておかなければいけないことがあります。」
「言ってみなさい。」
「出来れば、エルヴィンさんだけに、お伝えしたいことです。」
「………ハンジ、ミケ。全員撤退させろ。少し離れた場所に私の馬も用意しておけ。私も直向かう。」
「了解!」


エルヴィンさんの言葉に、側にいたハンジさん、ミケさんが動き出した。


「行ったぞ。」


それを見送り、私に言葉の先を促すように、エルヴィンさんはそのガラス玉のような瞳をこちらに向けた。


「…ディータさんが、女型に、殺されました。」
「そうか。」


だからなんだ?とでも言うかのように、眉一つ動かすことなくエルヴィンさんは冷たく言い放つ。
……「だから」この人は、調査兵団と言う組織の、団長が務まっているんだと思う……。


「だからこそ、わかったことが、あります。」
「なんだ?」
「女型の中の人間は、…私の、知り合いです。」
「………」


スーっと、息を吸い込んで言った私に対して、エルヴィンさんは無言で見下ろしてきた。


「ここからは、104期アルミン・アルレルトの考察を踏まえた上での、私の…推理、の、ような、もの、です、が…。」
「聞こう。」
「…本当に、確証は、ありません。でも…、女型の中の人物。それは、」


何故、そこに答えが行き着いたのか?そう聞かれたら「なんとなくそう思ったからだ」としか、答えられないような、確証のないものだ。
だけど…、


−女型の中の人間は恐らく…、僕たち104期の中にいます−


アルミンのあの言葉を聞いて、1人だけ、脳裏に過ぎった人物がいた。
…巨人化したエレンを、直接見ることはなかったものの、エレンの巨人化実験に同席した(ハンジさん曰く班員の中でNo1って言う腕前の)絵が上手いモブリットさんが描いた巨人化エレンの似顔絵を見せてもらった。
元々のエレンとは違うけど…、それでもどこか…普段のエレンとどこか、似ていると思った。
それを踏まえた上で、アルミンの話を思い返した時…。
104期の中で、私を「殺さない」と言う選択を選ぶような「金髪の少女」は、


−…やめた方がいい。アンタ、向いてないよ兵士−


…たった、1人しか、いない…。


「104期憲兵、アニ・レオンハートの可能性が、高いのではないかと、思われます。」
「…………」


そう告げた私に、エルヴィンさんはただ黙って私を、そして蒸気の奥にすでに原型を留めていないであろう女型の姿をその瞳に映した。


「フィーナ。」
「はい。」
「キミも言ったように、このことは私とキミだけの話にしてくれ。詳しくは帰還後聞く。そのつもりでいるように。」
「はい。」
「他の巨人が女型に集中してるうちに撤退する。キミも来なさい。」
「はい。」


そう言ってエルヴィンさんは立体機動で先に行ったハンジさんたちの後を追うように森を駆け抜けた。
その後に続き、森を移動してすぐ、馬を用意していたハンジさんたちと合流した。


「フィーナ!あなた馬は?」
「あ、あー、っと、私、のは、女型にやられてしまい…、ディータさんのシャレットで、森の外まで着たんですが、森の中はこっちの方が早いので…。」
「あぁ。…じゃあ私の後ろに乗る?」


こっち、と言いながら立体機動装置を見せるようにすると、ハンジさんは納得したようで、自分の馬に相乗りすることを提案してくれた。
その申し出をありがたく受け、私がハンジさんの後ろに乗ったところで待機していた兵士が森の中を馬で駆け出した(よく見たらエルヴィンさんの班とハンジさんの班の班員だった)


「エルヴィン、どうしてリヴァイに補給させたの?時間がないのに。」


ハンジさんの馬に乗り進み始めたところで、ハンジさんがエルヴィンさんに声をかけた。


「女型は喰われた。だが、君は中身が喰われるのを見たか?俺は見てない。」
「…まさか、」
「あぁ…。以前君が言っていた推論通り、巨人化を解いた後もある程度動けるタイプだとすれば。…そして、予め立体機動装置をつけていたとしたら…。」


アニ・レオンハートと言う兵士について、私は多くを知らない。
ただ言えること。
アニは、104期の女兵士の中でミカサに次に、身体能力の高い女兵士であり、そしてとても…、冷静で頭が良い…ともすれば、狡猾、と言えるほど、頭のキレる子だという事だ…。


「女型の中にいた奴は今、我々と同じ制服を着て…我々兵士の中に紛れ込んでいる。」


チラッと、エルヴィンさんが私を見遣ったのに気づいた。
…そう。
もし仮に、本当にアニであるのならば…。
巨人化すると言うことがどれほど体力を消耗することなのかはわからないけど、あの子であれば、エルヴィンさんのこの言葉も、十分考えられることだ。
「だからこそ」あの場で、その生存が定かではなかったにも関わらず、エルヴィンさんに告げる必要があった。


「超大型巨人が消えた時、中身は立体機動装置を予め装備していたから、蒸気に紛れて素早く逃げることが出来た。今回も同じことが言えると思わないか?」
「でもそれは、エレンが巨人から出た時の状況を見た限り、できそうにないと結論づけたのでは…?装備は破損して、戦闘服さえ無くなってたし、何よりエレン本人が自力で立つことさえできないほど憔悴していた。」
「女型の巨人は、叫び声で巨人を引き寄せる能力を持っていた。我々はそれを予想できず、作戦は失敗した。巨人の力に練度があるとしたら、その力において初心者のエレンを基準に考えるのは間違いだった。…あの敵を出し抜くには、発想を飛躍させる必要がある。」


ハンジさんとエルヴィンさんの会話に、静かに耳を傾けた。
…発想の飛躍…。
104期生の中から、女型の巨人の本体である人間がいるだなんて…。
あるいは、私がアニだ、と、述べたことも、発想の飛躍なのかも、しれない…。


「敵が力を残す術を持っているなら、再び巨人を出現させることもできるかもしれん。」


その時、


ドォォォン!!


「なっ!?」
「爆発音っ!?」
「…やはりな…。」


森の奥、私たちが向かおうとしている先で、大きな爆発音が聞こえた。


「また女型が現れたっていうのか!?」
「あぁ…。今度こそ、エレンを連れ去るつもりだろう。」
「…リヴァイ、間に合うといいけど…。」


ハンジさんだけじゃなく、側にいる先輩兵士たち全員に、動揺の色が見えた。


「今回敵と対峙して感じたことだ。最善策に留まっているようでは、とうてい敵を上回ることは出来ない。必要なら、大きなリスクを背負い、全てを失う覚悟で挑まなくてはならない。」
「…」
「そうして戦わなければ、人類は勝てない。」


全てを失う覚悟、つまりそれは、…エルヴィンさんのように…、人間性すら、失う覚悟と言う、ことだろうか…。
淡々と話すエルヴィンさんの声を聞きながら、揺れる馬上で、唇をキツく噛み締めた。

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bkm

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