Attack On Titan


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ラブソングをキミに


第57回壁外調査 5


「な、なんだ!?この音!大砲か!?」


私とアルミンの近くの木にいるジャンが、森が揺れるほどの大きな音に動揺したような声を上げた。
…始まった…。
女型の、…そのうなじの中にいる人物を引きずり出すための作戦が…。
…目の前で、ルークさんを握りつぶし、そして、


−…フィーナ……兵士が、泣くことは、許され、ねぇ…早く、行け…−


ディータさんを死に追いやった女型の巨人を、許すことなんて出来ない。
……だけど……。
あの女型…。
あれは、あれはもしかしたら………。


「フィーナさん。」
「え?」


森の奥から響く大砲の音に耳を傾けながら、今その大砲を浴びているであろう女型について考えを巡らせていたら、隣にいたアルミンが声をかけてきた。


「教えてください。…エルヴィン団長は、初めから『コレ』を狙ってたんですか?」


−やたら頭の回転早そうだから気をつけな−


私にそう言ったのは、リコちゃんだった。
…アルミンは、頭が良い。
そして、きっと……。


「お、おい、どういうことだよ?」


アルミンの言葉に、近くにいたジャンが聞いてきた。


「だって考えてもみてよ。この砲撃音、出発前にこれだけ音が響くほどの砲台を積んでいたなんて考えられなかったのに…。だけど事実、これはあの女型を捕獲し攻撃している音。…だと、思う。」
「…それはつまり、初めから『俺たち』には極秘で、計画が練られ、遂行されていた、ってことか?…奴の中にいる、人間の捕獲をするために…。」


ジャンがアルミンと話ながら、チラッと私の方を見た。


「…でもわからねぇことがある。」
「うん?」
「この計画、それなりの人数が必要なはずなのに、先輩兵士の中でも知っている人とそうじゃねぇ人がいるよな?…それって、どういうことだ?みんなに計画を伝えてさえいれば、死なずに済んだ兵士だって、」
「…ううん、間違ってないよ。誰が『敵』なのかわからない今、エルヴィン団長は選んだんだ。100人の仲間の命より、壁内の人類の命を取ることを。そしてそのことで100人の仲間を切り捨てることを選んだ。」
「だけどこそれじゃあ、」
「ねぇ、ジャン。昔、フィーナさんが僕たちに教えてくれたんだ。何かを変えることができる人は、何かを捨てることのできる人のことだ、って。僕も今は、その言葉がよくわかる。…化物をも凌ぐ必要に迫られたのなら、人間性をも捨て去ることのできる人のことだと思う。何も捨てることが出来ない人には、何も変えることなんて出来ないだろうから…!」


アルミンの揺れる金の髪の先から、真っ直ぐな瞳が射抜くように、こちらに向けられていた。
…アルミンは、頭が良い。
そしてきっと、…現存する調査兵の中で誰よりも、エルヴィン「団長」に、近い考え方が出来る子だと思う…。


「けど協力する兵士の線引きはどうしたんだよ?」
「…それはたぶん…。諜報員はエレン同様、巨人の体を纏った人間、もしくはそれに加担する人間。言わば人類に仇なす存在だ。…つまり、」


ジャンと会話をしていたアルミンが、はっきりと私を見つめながら口を開いた。


「…調査兵団の、そして人類の敵じゃないと、エルヴィン団長から認められた人間が、この作戦に参加出来た。そしてその線引きは恐らく、5年前シガンシナ陥落以前から調査兵をしていたかどうか…。違いますか?」


アルミンは真っ直ぐと私を見つめている。
その真っ直ぐな瞳からは、シガンシナで出会い、そして訓練兵として再会したばかりの頃の、どこか頼りない男の子は、消えていた。


「フィーナさんは、知っていたんですよね?」
「……私みたいな無能な兵士に、そんな大事な作戦の参加、エルヴィンさんが認めると思う?」
「…ネス班長が、言ってたんですけど…。」
「うん?」
「ミケ分隊長と、…フィーナさんがいたから、マリア奪還作戦の時、100人もの人間を救出できた、って。」
「…そ、んな、わけ、」
「ネス班長はもちろん、…団長も、兵長も、当時いた先輩兵士たちはみんなそう思っている、って、言ってました。」
「………」
「それが認められてる、ってことだと、僕は思います。」


………アルミンの言葉に、ディータさんの顔が胸を過ぎった。
自分の馬が1番の良い女だと言っていたディータさん。
頭にバンダナを巻いてるのは、その「良い女」のシャレットに毟られたせいもあるんだ、ってナナバさんに言われていたディータさん。
リヴァイさんには「薄汚い髭ヅラのおっさん」なんて言われたディータさん。
私が初めて初列索敵に異動を命じられた時も、笑顔で力になってくれたディータさん。
…私の知らないところで、私を認めていると言う発言をしてくれた、ディータさん。
………あぁ……。


−…フィーナ……兵士が、泣くことは、許され、ねぇ…−


もう…、無理かもしれません、ディータさん…。
アルミンの言葉を聞きながら、みるみる滲んでいく視界に唇をきつく噛んだ時だった。


「団長に認められているフィーナさんだからこそ、話しておきたいことがあります。」
「…」
「ここからは、…出来ればエルヴィン団長にだけ、伝えてほしんですが…。」
「……」
「女型の中の人間は恐らく…、僕たち104期の中にいます。」


アルミンが小声で私に話しかけてきた。
その言葉に、驚いてアルミンの顔を見ると、アルミンは酷く、真剣な表情をしていた。


「フィーナさんも、気づいたはずです。」
「…」
「何故、僕たち『だけ』攻撃されなかったのか…。」


…そう。
女型はディータさん、ルークさんを私の目の前で殺した。
だけど、確実に殺せたはずの私には、傷1つ、つけることはなかった…。
それはつまり…。


「…女型は、私たちの知り合いの可能性が高い。」
「そうです。」


アルミンの言葉に、それまで滲んでいた瞳が、一気にクリアになった気がした。


「…けど、どうしてそれが、104期なの?」
「賭けてみたんです。…僕たちだけしか知らない、ある言葉を投げかけ、反応するかどうか…。」
「…言葉?」
「『死に急ぎ野郎』」
「え?」
「なんてことはない言葉ですが、僕たち104期にとってそれはある人物を指します。」
「…もしかして、エレン、の、こと?」
「……そうです。女型はその言葉に反応した。それはつまり、」
「104期の誰かが、エレンを狙っている…。」
「はい。」


あぁ、やっぱり。
それが正直な感想だった。
「やっぱり」女型は、私の知り合いの中にいて、そしてエレンを狙っている…。
そこまで思考がたどり着いた時、


ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!


「っ!!?」
「なっ!?悲鳴!!?」


森の奥深くから、それは断末魔とでも言うのか…。
今までに聞いたことのないような叫び声が聞こえてきた。
その直後、


「え?」


巨人が一斉に森の奥へと入っていった。


「な、なに!?」
「戦闘開始っ!巨人を森に入れるなっ!!」


先輩兵士がそう言うけど、でもこれは…。


「おい、コイツら全部奇行種だったのか!?俺たちを見ようともしねぇじゃねぇかっ!!」


付近にいた巨人が一斉に、森の奥、…砲弾の音が聞こえてきていた方へ向かっていった。


「こんな想定外の行動された中で、新兵を連れて森に入り込むのは危険だ。…どう思う?フィーナ。」


いつの間にか隣に来ていてナナバさんが私に問いかけてきた。


「たぶん…、失敗したんだと思います。」
「じゃあさっきの『アレ』は女型が逃げる合図って感じか?」
「…たぶん。」


その時、森の木々の間から、撤退の合図があがった。


「総員撤退。馬に乗って帰れってさ。」


ナナバさんの言葉に、近くにいたクリスタが驚いた顔をしながら返事をしていた。


「ナナバさん、」
「フィーナもほら、撤退準備を、」
「森の中に入る許可をください。」
「……理由は?」
「もし、本当に捕獲に失敗したのであれば、早急にエルヴィンさんに伝えなければいけないことがあります。それも出来ればエルヴィンさん『だけ』に。」
「………」
「………」
「……OK、こっちは私がなんとかする。ただし気を抜かないこと。中がどうなってるのか、ここからじゃわからないんだ。いいね?」
「はい!ありがとうございます!」


ナナバさんの許可をもらった直後、目が合ったアルミンに対して頷いたら、アルミンも力強く、頷き返した。
それを見てから、森の奥へと飛び出した。




「は、えぇぇ!あっという間に見えなくなったぞ!コニーの姉ちゃん、早ぇなおい!」
「…そっか、ジャンは知らないんだもんね…。」
「あ?知らねぇって、何がだよ、アルミン。」
「ミカサに立体機動を教えてくれたの、フィーナさんだよ。」
「…マジかよ!?『あの』ミカサにっ!?コニーの姉ちゃんがっ!!?」
「それにミカサの話だと、たぶんだけど…、」
「なんだよ?」
「フィーナさんに立体機動を教えたのは、リヴァイ兵長だ。」
「…は?兵長が個人的に一兵士に教えたってことか?なんで?」
「え?うーん…、これもたぶんだけど、フィーナさんは、」
「おい、新兵!いつまで話してる!撤退命令だ。さっさと動きな!」
「あ、はい、すみません!」




森の中を駆ければ駆けるほど、近辺の巨人が一斉に、…恐らく女型の捕獲ポイントに向かったのであろう音がした。
その音の中心へと、ただひたすら向かった。

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