Attack On Titan


≫Clap ≫Top

ラブソングをキミに


第57回壁外調査 4


ピーッ……


隊列が向かったであろう方向にシャレットを走らせていたら、指笛が聞こえた。
…誰かが馬とはぐれたんだ…。
1人なら乗せられる。
そう思いながら、少しだけ道を逸れて、指笛が聞こえた方向へと向かった。
途中、


パァーン……


紫の煙弾があがった。
その直後、煙弾をあげたであろう人物、アルミン、ジャン、ライナー、そしてクリスタと合流した。


「フィーナさん!」
「みんな…、大丈夫?」


話を聞くと、指笛を鳴らしていたのはジャン。
そして、頭部に包帯を巻かれたアルミンと、その手当をしていたと言うライナー。
ジャンが鳴らした指笛を聞いて馬を連れ駆けつけたクリスタの集まりだった。
アルミンたちはすでにジャンの班に来た口頭伝達で、状況を理解しているようだった。


「クリスタが2頭、俺の馬も連れてきたからこれで移動出来る。」
「いったいどうなってるんです?女型の巨人が右翼側から来たが…。」
「…口頭伝達が回っている通り、右翼索敵は、ほぼ、…全滅だと思う…。」


私の言葉に、それまで話していたジャンとライナーがどこか気まずそうに視線を落とした。
お互い、今ある情報を共有し、先を目指す。
ただ…。


「急いで陣形に戻らなきゃ!」
「そうだ!もうすぐ撤退の指令も出るはずだ!」


そう言ったジャンの言葉に、返答は出来なかった…。
……「その時」が来るまで、撤退は有り得ない。
それを知っているのは、100人にも満たない兵士…。
そして実際にそれを実行に移すのはさらにひと握り…。
この子たちは、何も知らされず、今ここにいる。
最も、全てを聞かされても、何も出来ない私に、どうすることも、出来ないけど…。
……今はそれより、考えなければいけないことがある。
…何故、女型の巨人は、明らかに目が合っていた私を殺さなかったのか…?
アレは間違いなく、知性巨人…。
エルヴィンさんが言う、エレン同様、巨人の体を纏った人間だ…。
その人間は、何故私を殺さなかったんだろうか…。
ディータさん、ルークさんが女型を「殺そう」と攻撃を切り替えた途端、容赦なく投げ飛ばし、握りつぶした。
あの時私に振り上げていた拳だってそうだ。
いくら立体機動を使っていたとは言え、あのスピードなら、間違いなく当たって、私の体は粉々になるほど殴り飛ばされ、あるいはその拳に圧迫され、…死んでいたはずだ。
だけど…。
あの巨人は、私に拳を当てることはなかった。
まるで…。
そう、まるで…、「私と認識した上で、殺さなかった」ようにすら、思える。
それはつまり………。


「フィーナ!」
「ナナバさん!!」
「なに、どうした?ディータは?」


エルヴィンさんの指示する方向、巨大樹の森に向けて走っている最中に、クリスタの班の班長であるナナバさんと合流した。


「…ディータ、さん、は…」
「え?」


私の言葉に、一瞬声を裏返したナナバさん。


「さっきから右翼側で煙弾上がってる奇行種?」
「……はい。」
「そう…。」


でもすぐに平常心を取り戻したようだった…。


「ナナバさん、」
「うん?」
「エルヴィンさんの、言っていた、通りです。」
「…それ、って、」
「はい。」
「…………」


本当の作戦内容を知らない新兵がいる以上、多くは語れない。
だけど私の最低限のこの言葉だけで、ナナバさんには伝わったようだ。


「いくつかの班の合流になってしまったけど、この人数で指令された方へ向かう。新兵!一定速度を保ちながら並走しろ!」
「「「はいっ!」」」


ナナバさんはそれきり、一言も口にすることなく、指示された方角…、巨大樹の森を目指した。


「おいおい、なんでこんな観光名所に来るんだ?」


そして私たちは、今回の遠征の本当の目的地…、巨大樹の森の入口に到着した。
それを受け、内容を知らされていない新兵の1人、ジャンがぼやくように言った。


「本来の目的地からも、帰還地点からも、えらい外れようだぜ!」


…中列だけ、森の中へと進んで行った。
エレンの、リヴァイさんのいる、中列五待機も…。
エルヴィンさんは、本当に何も知らせぬまま、エレンを囮に使う気なんだ…。
あの女型を、捕獲するために…。


「総員、止まれー!」


森を周りこむように馬を走らせていた時、ジャンの班の班長でもある先輩兵士が声を張り上げた。
全員に馬を木に繋ぐように指示をだし、全員がそれを実行に移したことを確認した上で再び声を張り上げた。


「いいか、新兵共、よく聞け!我々はこれから迎撃体制に入る!抜剣して頭上待機せよっ!森に入ろうとする巨人を、全力で阻止するのだっ!!」


…一般兵は、木の上で待機…。
なら、よほどのことがない限り、大丈夫なはずだ…。
そして全員、木の上へと移動を始めた。


「アルミン、怪我は大丈夫?」
「あ、はい…。フィーナさんは?」
「うん?」
「…大丈夫、ですか?」


班自体はいろいろと混ざってしまったけど、それでも元々同じ班員だったアルミンの側にいようと、同じ木の上に登った私。
その私にアルミンは声をかけてきた。
何が「大丈夫?」と、聞けばいいのかもしれない。
でもそれは、聞かずとも、わかる。
怪我はしなかったか?
女型の攻撃から本当に逃げ切れたのか?
…………目の前で、班長を失ってしまったけど、大丈夫か…。
それら全てを含める、大丈夫かという言葉なんだと思う。


「うん…。『私』は、大丈夫。」
「…なら、良かったです。」


そう…。
「私は」大丈夫。
何故、大丈夫なのか、それはもしかしたら…。
その時、


キィィィィン……


「音響弾!」
「え?」


森の奥深くから、音響弾が響き渡った。


−囮作戦が成功し、諜報員を捕獲ポイント付近まで誘い込むことが出来たら、俺がエルヴィンに向けて撃つ合図だ。それが聞こえてから撤退の合図があるまで、絶対に森に入るな−


…リヴァイ班が、エルヴィンさんが指定した「ポイント」まで、女型を誘導にしようとしている。
今回の計画を聞かされた兵士の、つまり「諜報員ではない」とエルヴィンさんが断定した兵士の線引きは、5年前から調査兵団にいた人間であること。
…なら、ぺトラ、オルオはもちろんのこと、グンタさんも、そして何より入団以降、ずっとリヴァイさんの班で班員を勤め上げてきたエルドさんですら、この計画は知らされていないはずだ…。
それでも、リヴァイ班は、計画を遂行させようとしている。
……ディータさんをはじめ、多大なる犠牲を払ってもなお、必要であると、思わせる計画を…。
でも、もしかしたら私は、「必要なのだ」と思いたい、だけなのかも、しれないけど…。
音響弾が響き渡って数拍の後、森が、大きく揺れた。

.

prev next


bkm

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -