Attack On Titan


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ラブソングをキミに


第57回壁外調査 3


全てはほんの、一瞬のことだったと思う。
私が巨人の眼前に回り込みブレートを振り上げたと同時に、その巨人は私を払いのけるように手を振り回した。
その隙をつき、巨人の目に向けて、躊躇わずブレードを突き刺そうとした。


「っ!?」


でも寸でのところで、そのブレードを弾かれ、直後、女型の巨人は、私に向けその拳を振り上げた。
…本来ならこれだけの巨体、動きだって鈍くなるはずだ。
でもこの巨人は違う。
この機敏さは、人のそれに近い…!


「…くっ!!」


やばい、と脳が理解するより早く、アンカーを地面に突き刺し、垂直に落下。
地面に落ちる直前で、近くの木にアンカーを刺して水平に飛び、地面との激突を避けた。
地面に足がついた。
と思った瞬間、


「きゃぁぁぁっ!!?」


巨人が振り下ろした拳の風圧で吹っ飛ばされた。
真横に吹き飛ばされた私は、急いで体制を立て直すため起き上がる。
けど、頭のどこかで、この時すでに思っていた。
この巨人の異常なまでの機敏さに、私はここで死ぬんじゃないか、って…。


「…………」


確実に。
はっきりと。
巨人の中では珍しいこの14メートル級の「女型」は、地面に深く拳の跡をつけながら、私の顔を視界に捉えていた。


「…………」


たぶん目の前でディータさんを地面に叩きつけられ、頭が沸騰してしまっていたんだと思う。
だから足がすくむとか、そういう感情は一切なく、ただ……。


「…………」


私はここで死に、この女型に殺されるんだと思った。
……だけど……。


「…え?」


ドシーン……ドシー…ン…


女型の巨人は、私にそれ以上攻撃してくることはなく、アルミンが、隊列が進んだ方へと再び走り出していった…。
…………私を殺さない?
何故……?
奇行種だから…?
…………ううん、違う。
アイツは、あれは………。


ピーッ……


その時、消え入りそうな指笛があたりに響いた。
ハッとしてその方向に目を向けると、ディータさんが指笛を鳴らしていた。


「ディータさんっ!!」


慌てて駆け寄るものの、


「…フィーナ、か…?」
「っ、」


手足はおかしな方向へと曲がり、内蔵の一部が地面に飛び出し、誰が見ても、もう……。


「…っ、ディータさんっ!すぐに手当を、っ!?」


私がディータさんの体に触れようとした瞬間、辛うじて動く右手で、それを静止させられた。


「…エルヴィン、は、巨人、を、避けながら、森へ向かう…」
「ディータさん!喋らないでくださいっ!」
「…お前も、森へ、向かえ…」
「血が!止まらなっ、」
「…他の班、に、伝えろ…、『アイツ』の、存在、をっ、」
「もうやめてくださいっ!!」


息も絶え絶えに、消え入りそうな声で、ディータさんが言葉を繋ぐ。


「お、前、泣いて、る、のか…?」


滲む視界の向こうで、ディータさんは定まらない焦点を私に向けていた…。


「…フィーナ……兵士が、泣くことは、許され、ねぇ…早く、行け…」
「…ダメですっ!置いてなんていけないっ!!」
「シャ、レッ、トを、使え…お前の、馬なんか、より、ずっと…」
「ディータさんっ!!」
「口頭伝達っ!右翼索敵ほぼ壊滅っ!女型の巨人、が、巨人の大群を、連れて、」


ディータさんの声が聞こえなくなったと思った直後、後列からの伝達のため馬を走らせてきた人が叫びながら地面へと崩れ落ちた。


「…この人も、」


伝達に馬を走らせて来た人は、よく見ると既に右腕はなく、マントの下は赤い赤い血で覆われていた…。


「………」


さっき現れた女型の巨人が、全てを壊す。
ルークさんは握り潰され、ディータさんも…。
今伝達に来たこの人だって…。


−…フィーナ……兵士が、泣くことは、許され、ねぇ…早く、行け…−


「シャレット…。」


私の馬は、先ほど女型に踏み潰された。
今近くにいるのは、ディータさんの指笛に答え戻ってきて、冷たくなり始めたディータさんの傍に佇んでいる、ディータさんの愛馬シャレットだけ。


−シャ、レッ、トを、使え…お前の、馬なんか、より、ずっと…−


「…お願い、シャレット。私を乗せて。」
「………」
「ディータさんの言葉通り、みんなに伝えなきゃ…。」
「………」


少しの静寂の跡、ブルン、と、シャレットは小さく嘶いた。


−…他の班、に、伝えろ…、『アイツ』の、存在、をっ、−
−口頭伝達っ!右翼索敵ほぼ壊滅っ!女型の巨人、が、巨人の大群を、連れて、−


「泣いてる時間なんて、ない…。」
「…」
「ディータさんのためにも…!」
「…」
「行くよ、シャレット。」


ヒヒーン、と、一際高い声を上げたシャレットと共に、一路巨大樹の森を目指した。

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