■第57回壁外調査 2
エルヴィン・スミス団長の下、一斉にカラネス区を出発した。
荒廃した街並の中を黙々と駆け抜ける。
「左前方、10メートル級確認っ!!」
援護班の援護を受け、全班旧市街地へとただひたすらに馬を進めた。
「進めーっ!!」
隊列全体がある程度市街地を抜けたと思った直後、
「長距離用索敵陣形展開っ!!」
エルヴィンさんの号令があたりに響き渡った。
その号令の下、一斉に隊列を広げる。
班長ディータさん率いる、私たちの班は右翼側、次列四・索敵。
…コニーは三列三・伝達。
左翼側の中央に近い位置だ。
………エルヴィンさんのことだ。
可能であるならば「歴史的逸材」と称されるミカサを、「使えるもの」なら大いに使いたかったはず。
それをあえて、他の新兵同様中央近くに位置させ、…何よりコニーと同じ班にしてくれたこと。
それはやっぱり「団長」であることよりも「エルヴィンさん」として、この5年過ごしてきた時間があるからだろう、と、思う。
「フィーナ!アルレルトを頼むぞ!」
「はいっ!」
班単位での陣形展開後、具体的にどの位置に誰を置くかは各班の班長に一任される。
ディータさんは今回、索敵を自分とルークさんでやり、新兵であり予備の馬と並走するアルミンの援護に私をつけた。
…………と、言っても戦闘能力のあまり高くない私の援護なんてたかが知れているから、ほぼアルミン任せな部分は否めないけど…。
「………」
私のすぐ隣を走るアルミンの顔には緊張の色がありありと出ていた。
どのくらいアルミンと並走していたのか…。
ほんの1〜2分だった気もするし、とても長い時間だった気もする。
鳥たちが空へと向かい羽ばたいた姿を目の端で捉えた直後、
パァァ…ン……
後方で信号弾があがった。
「…赤い煙弾…。」
「大丈夫、通常種だから。アルミンが煙弾を撃って。」
「はい!」
後方からあがったのは通常種である巨人を発見したと言う赤い煙弾だった。
そのしばらく後、前方で緑の煙弾が撃たれた。
−リヴァイ班の誘導の元エレンを囮に使い、巨大樹の森へ誘い込み一気に畳み掛ける−
緑の煙弾は、一般兵に通達された目的地、旧市街地南ではなく、直進ではないものの、巨大樹の森の方に向け打ち上げられていた。
…………今回巨大樹の森で実際に捕獲に当たる実行部隊はわずか30人だと聞いた。
その30人が、…例えどんなに犠牲を払ったとしても…。
「フィーナさん、」
「うん?」
「おかしくないです、か?」
「え?」
「…赤の煙弾が撃たれてからしばらく経つのに、陣形が乱れてる…。」
アルミンのその言葉に、煙弾が撃たれた方に目を向けた。
「…あ!?」
「黒い煙弾!?」
「アルミン撃って!」
「はい!」
「…奇行種が『1体』近づいて来てる。ディータさんっ!!」
「……シスッ!!お前はうなじだっ!!俺が動きを止めるっ!!!」
「了解っ!!」
森の中から1体、私たち人間に全く興味を示さない奇行種が現れた。
ディータさんはルークさんに指示を飛ばした後、私たちに向かって前方を指差し無言で進め、と言ってきた。
「フィーナさんっ!」
「ディータさんの指示通り前進して!」
現れた奇行種に動揺を隠せないアルミンにそのまま進むよう促した。
その直後、
「……今だ!シスッ!!!」
「う、おぉぉぉぉぉぉ!!!」
巨人のアキレス腱を削ぎ、動きを止めたディータさん。
そしてそのことで倒れた巨人のうなじを、ルークさんが削いだ。
「やった!!ネス班長っ!!」
アルミンの声が響いた直後だった。
「もう1体…」
「え?」
「……ディータさん!!後方から1体ものすごいスピードで近づいてきますっ!」
「何っ!?」
たった今、奇行種を倒したばかりだというのに。
今倒れた巨人同様に、真っ直ぐと突き進んでくる巨人。
……でも歩行速度が今までの巨人の比じゃない…!
「うわぁぁ!?」
姿を目視した、と思った直後にはすでに、私たちの班の位置までかけてきた巨人。
踏み潰される寸でのところで、ディータさんとルークさんはなんとか交わした。
パァァ…ン……
「なんだ、あれ!?早すぎる!!」
「…アルレルトの方へ行かせるなっ!!」
アルミンが黒い煙弾を撃った直後、ディータさんとルークさんが巨人に向けアンカーを刺し、うなじを狙うべく飛びかかった。
瞬間、
「っ!!?」
「ディータさんっ!!!」
巨人が自らの体から伸びているワイヤーを掴みディータさんを地面に叩きつけた。
「…アルミン、先に行ってっ!!」
「で、でも、」
「早くっ!!」
「フィーナさんっ!!」
その言葉とほぼ同時に、ディータさんを地面に叩きつけた巨人に向かいアンカーを刺し飛びかかった。
−いいか、フィーナ。お前の力程度じゃ巨人のうなじを削ぎ落とすのは楽じゃねぇはずだ−
−はい−
−そこで、だ。お前は巨人を『討伐』することより、巨人の『足を止める』ことを優先しろ−
−足を止める、です、か?−
−足そのものを切り落とせれば楽だが、動き回る以上、それも容易だとは言えない。だがどの巨人でも共通して、狙い易く、狙えば足を止められる場所がある−
−どこ、です、か?−
−目ん玉にブレード突き刺しゃ、見えなくなって立ち止まるだろうが−
肉を削ぎ落とすより目に突き刺す方が格段にブレードが刺さりやすいしな、と、私に訓練をつけている時、リヴァイさんは言った。
いくら巨人に対してでも、目に突き刺すなんて…、と、その時は思ったけど、目の前で、ディータさんを地面に叩きつけたこの巨人に対してそんな感情、微塵も沸くことなく、ただリヴァイさんのその言葉だけが脳裏を占めていた。
「…はぁぁぁぁっ!!!」
その言葉通り、この巨人の目にブレートを突き刺すべく顔の前に回り込み、ブレートを振り上げた。
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