■沈む世界と 4
リヴァイさんのベッドで寝た(というか寝かされた)日。
大泣きしたこともあり、助けられなかった人たちの声が聞こえることもなく、久しぶりに「寝た」と言う実感が湧いた。
でもそれは所詮一時のまやかしに過ぎず、
「…っ!?…ハァ、ハァ…っ、」
その翌日から再び、目を瞑ると今もありありと蘇る、生きている人間の、断末魔。
「…っ、震えが、とまらなっ、」
どんなに布団を被っても、記憶に残る音がかき消されることなどなく…。
私はまた、寝不足の日々を過ごすことになった。
だけど、
「おい、フィーナ。」
「え、っ!?」
4日もすると、リヴァイさんがやってきて強制的に寝かされた。
それを3〜4回繰り返したある日、夜、目が覚めると、
「………」
あの日と同じように、私の隣で横になっているリヴァイさんが目に映った。
「…リヴァイさん…」
「テメェには学習能力って言葉がねぇのか?」
呟くように小さく言った言葉に、目を閉じたまま眉間にシワを寄せ、リヴァイさんが返事をした。
「1人になると、眠れないんです…。」
「…」
「『怖い夢』見て眠れなくなるなんて、子供みたいですよね…。」
「ハッ!ガキがなに言ってやがる。」
リヴァイさんは、私の方に向いていた体を、どさり、と音を立てて仰向けにして月明かりの差し込む天井を見上げた。
「リヴァイさん、」
「なんだ?」
「人は、巨人に捕食されるために、生まれるんでしょうか?」
「…」
「なんのために、」
「…」
「人は、なんのために、生まれてくるんでしょうか?」
「そんな小難しいこと、わかるわけねぇだろ。」
バカかお前、とでもつきそうな勢いでリヴァイさんは言った。
…確かに、誰にも「何のために生まれてきたのか」なんて、わかるわけ、ない。
「だが…。」
「え?」
「何のために生きるのかはわかる。」
「…え、」
「お前はこの狭い『籠の中』で満足か?」
私もリヴァイさんも、仰向けのまま、目だけお互いの方に向けていた。
「こんな籠の中だけで一生を終えるなんて冗談じゃねぇ。」
「…」
「『だから』生きる。自分が後悔しないためにもな。」
それはつまり、「自由のため」に生きると言うこと。
…なんだかすごく、リヴァイさんらしかった。
「今日は、よく喋ります、ね…。」
「お前が喋らせてんだろうが。気済んだらいつまでもくだらねぇこと考えてないで、さっさと寝ろグズが。」
そう言うだけ言って、リヴァイさんは口を閉じた。
…私は、何のために生きているんだろうか…。
もう薄れてきている「記憶の中の世界」に、帰るため?
それとも……。
「おい、起きろフィーナ。今日は休みじゃねぇだろ。」
翌朝、リヴァイさんの声で目が覚めた。
あぁ、私また寝てしまったんだ…。
「…なん、です、か?」
ベッドから起き上がり、いつものスカーフを巻いて、兵団ジャケットを羽織ったらリヴァイさんがジーッと見てきた。
「お前、いつまでその汚ぇスカーフ巻いてるつもりだ?」
チラリと私の首に視線を投げながらリヴァイさんが言う。
「いつまで、って、…ずっと?」
「…」
私のその言葉に、物凄く嫌そうな顔をしたのがわかった。
「これ、は、…お守りみたいなものです、から…。」
「あの日」温めてもらった心を、手放すなんてこと、今の私には出来ない。
…それにリヴァイさんが言うほど「汚いスカーフ」じゃないと思うし。
確かにリヴァイさんが巻いてるものと比べたら、汚れてるかもしれないけど…。
でもそんな「汚いスカーフ」って言われるほど汚くなんて、
「そこのチェストの右側1番上の引き出しだ。」
「…え?」
私が首に巻いたスカーフを見ているとリヴァイさんが口を開いた。
「同じ物が入ってる。好きなだけ使え。」
「え、」
「だからその汚ぇスカーフさっさと捨てろ。」
ほら出せ、とでも言うかのよに手を前に出すリヴァイさん。
その勢いに少し体を仰け反らせた。
「こ、これはダメです。」
「あ?」
「…巻くのが、ダメなら、巻きません。でも、これは、捨てません。」
どうせスカーフなんて、どれも同じものだ(実際デザインも色も材質も同じだし)
だけど「この」スカーフには、あの日の涙が沁みこんでいる。
それを他のスカーフ同様に扱うなんて、出来るわけがなかった。
「…チッ!勝手にしろ。」
リヴァイさんはそう言うと、今日はこれを使えとでも言うかのように、無言でチェストからスカーフを1枚取り出し私に投げつけ部屋から出て行った。
それを改めて首に巻き、リヴァイさんの後を追うように私も部屋を後にした。
.
bkm