■ただ一言 4
「入れ。」
その言葉に大きく息を吸い込んで、ドアを開けた。
「…………」
…のは、いいんだけど、やっぱり何から切り出したらいいのかわからない私は、無言のまま床を見ていた。
「なんだ?恨み節でも言いに来たか?」
少しの沈黙のあと響いたその言葉に、リヴァイさんを見遣ると、わざわざ兵舎から持ってきたのか、ランプの灯りのみの薄暗い部屋でお酒を飲んでいるようだった。
「わ、たし、」
結局、今のこの瞬間まで、何をどう言えばいいのか、わからないまま口を開いた。
「今回の遠征で、もし、コニーに、何かあったら、」
「…」
「本当に、…あなたを、恨むと、思います。」
「………あぁ、そうしろ。」
そう言って目の前のテーブルに置いていたグラスをグィッ、と傾けたリヴァイさん。
「…本当に、コニーに、もしものことがあったら、」
「…」
「私は、あなたを、許さない。」
「………」
「…………でも、」
コトン、と、リヴァイさんがグラスをテーブルに置いた音が響いた。
「今回の、遠征で、………あなたに、もしものことがあったら、私はきっと、一生自分を、許せなくなる。」
「…………」
それまでグラスの中で揺れる液体を見つめていたリヴァイさんは、驚いたように私の顔を見上げた。
「どうしたらいいか、わからないんですっ…!」
「…」
「コニーに何かあったら、絶対に、リヴァイさんを、許せない…。」
「……」
「だけどっ、このまま遠征に出て、リヴァイさんに何かあったら、って、」
「………」
「『誰か』に怒りをぶつけてないと、嫌なことばかり考えるのにっ、でもこのまま遠征に出て、もし何かあったらって思うと、どうしたらいいのかっ、」
「…………」
−ミケが言いかけたことあるでしょ?−
−え?−
−フィーナがリヴァイを問い詰めてた時、ミケが言いかけたこと−
−あぁ…−
−あれね、たぶんだけどミケは、−
−リヴァイさんを責めるな、って、言おうとしたんじゃないですか?−
−…−
−前も、そんなようなこと、言われたので−
−…でも今回のこと、ミケの言い分が正しいよ−
−……−
−私たちがこの計画を聞いたのは4日前だ−
−…え?−
−104期の入団時には、私たちの誰1人、知らなかったんだ。エルヴィン以外はね−
−…でも、−
−うん。どうしてリヴァイがあんなこと言ったのか、私にもわからないけど…。だけど、私たちは知らなかったんだよ−
ナナバさんからそれを聞いたのは、私がエルヴィンさんから遠征計画を聞いた翌日の夜。
だから本当はずっと、わかっていた。
この人を責めることは、間違っている、って。
だけど……。
「私っ、本当に不安で、」
責めずには、いられなかった。
怒りの矛先を誰かに向けなければ、不安に押しつぶされて動けなくなってしまうから…。
「………」
リヴァイさんは何も答えない。
一言も、喋らない。
「………」
ただ黙って、泣き出した私を抱きしめていた。
どのくらいそうしていたかはわからないけど…。
「………」
リヴァイさんは無言のまま、落ち着きを取り戻しかけた私の両頬に包み込むように触れ、まるで飲み込んでしまうかのように、瞳から零れ落ちた涙に口づけた。
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bkm