Attack On Titan


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ラブソングをキミに


ただ一言 2


「あー…、私、席外そうか?」
「あ、そういうドロドロしたことじゃないんで大丈夫です。」
「そ?」


気を使ってか、本来なら監視役としてあってはならない言動をしたナナバさん。
それに対して当の本人であるぺトラは大丈夫、と言った。


「フィーナも知ってるでしょ?私が元々兵長に憧れてたって。」


お風呂の熱気で頬を赤くしながら、ぺトラは言った。


「兵長は私の憧れの人だよ、今も昔も…。あの人がいたから兵士になろうと思ったし、あの人がいるから調査兵になった。」
「………」
「1人の兵士としても、上官としても尊敬出来る大切な『同志』の1人だよ。」
「…そう…。」


ぺトラが、リヴァイさんに憧れを抱いていることはずっと知っていたことだし、上官として尊敬している、ということも、以前聞いた。
…だからこそ余計、今ぺトラが言わんとすることが、わからずにいた。


「…私、兵長の班になってから、兵長と一緒に駐屯兵団や憲兵団に行くことがわりとあったんだけど、」
「報告書の提出とかで?」
「そうです。兵長だけじゃ問題が起こるかもしれない、って、エルドに言われてついていく機会がよくあったんです。」


突然話題が変わっても、ナナバさんはきちんと聞き入っていた。


「そこで改めて感じたのは、兵長はやっぱり人気あるんだなぁ、ってこと。」
「…え?」


ぺトラはふぅ、と大きく息を吐いて続けた。


「私はまぁ…、だいぶ早い段階でそうなのかなぁ?って気づいてたけど、他兵団の女兵士なんて当然フィーナのこと、知ってるはずないじゃない。」
「…」
「だからまぁ…、すごいんだよね。」
「リヴァイに対する誘惑が?」
「…そうですね。」


ナナバさんの問いかけにぺトラが苦笑いしながら答えた。


「あの手この手でなんとか兵長と2人きりになろうとしてるのが見え見えと言うか…。」
「………そう、なん、だ…。」


ぺトラの話を聞いて、そう言えば訓練兵の中にも、いたよな…、と。
ぺトラから聞く話を、どこか他人事のように捉えていた。


「でも何が凄いって、」
「…」
「兵長、そういう女たちを全く相手にしないんだよね。」


いつの間にか俯いていた視線を上に向けると、ぺトラは困ったような顔をしていた。


「そりゃあもう、見てるこっちが心が折れて泣きたくなるほど全く相手にしないの。」
「リヴァイらし…。」
「ですよね?ほんと、兵長らしいと言うか…。だから言い寄る女兵士に同情しちゃって…、大きなお世話だと思ったけど、言っちゃったんだよね、兵長に…。」


ぺトラがかき上げた指の隙間から、濡れた金の髪が艶かしく滑り落ちた。


「でも兵長はたった一言『好かれる必要なんか全くないんだからどうすることもない』って!」
「…ほんっと、リヴァイらしいねぇ…。」
「そうなんですよ。…でも、嫌われるより好かれてた方がやりやすいことって、いっぱいあるじゃないですか。だからそう言ったんですけど…。」
「聞き入れてもらえなかった?」
「はい。曰く『兵士に必要なのは信用、信頼であり好意じゃない。まして調査兵でもない奴らならば信用も信頼も必要ない。媚び売る必要なんて一切ない』ってバッサリ!」


ぺトラはやれやれ、とでも言うかのように片手を額にあてながら、ふぅ、と息を吐いた。


「確かにそうなんだけど…、でもその考えって、ちょっと寂しいんじゃないかなぁ、って。」
「…」
「だから本当に余計なことだと思ったけど、それについてもちょっとだけ、言ったんだよね。」


ぺトラは浴槽内で膝を立て座り、そこに片肘をつき顎あたりを支えながら言った。


「そしたら今度は私が兵長にバッサリ言われた。」
「え?」
「………『全人類に好かれようなんて微塵も思ってない。1人に好かれてりゃそれで十分だ。それ以外に嫌われようが憎まれようが兵士としての信用さえあれば仕事は回る。俺には必要ない』……それから、」
「…それから?」
「……『詮索好きな女は嫌いだ。お前の兵士としての能力は買ってるが詮索したいなら他を当たれ、俺に話しかけるな』…って、言われた。」
「…それはまたバッサリ言ったねぇ…。」
「そうですよね!?私好きだなんて一言も言ってないのに振られたような流れなんですよ!酷くないですか!?」


自分の言葉に同意したナナバさんの方に身を乗り出しながら、ぺトラは話を続けた。


「…でも、すごく兵長らしいって思った。カッコいいなぁ、やっぱり好きだなぁ、って。」
「……」
「あ、もちろんそれは、『男として』の好きって言うより、『人として』好きって言うか…、そういう好きだけどね。」


パッ、と私を見てぺトラは言った。


「その頃はもう、確証こそなかったけど、2人のこと気づいてたから…。…だから兵長は、フィーナに好かれてれば、それだけでいいんだろうなぁ、って。それって女としては羨ましいし、兵士としても上官からそれだけの信頼を得てるってことでしょ?『あの』兵長にそこまで言わせるフィーナもやっぱり、カッコいいなぁ、って思った。」
「…え?」


顔に張り付いている、濡れた金の髪を掬いながら、ぺトラは言った。


「フィーナのことは、フィーナが調査兵団に戻ってきてすぐくらいに、先輩兵士から聞いてたんだ。」
「何を?」
「『あのリヴァイ兵長とエルヴィン団長が頭を下げて兵団に来てもらった女兵士』って。」
「…ち、違う、違う!そんなわけ、」
「うん。実際に兵長や団長と交流するようになって、あの2人が『頭を下げる』なんてこと、まずないと思った。…けど私や、他の兵士は、フィーナがあの2人に『能力を買われて』調査兵になったって思ってるし、フィーナと兵長や団長、分隊長たちの関係を見てるとそのことが嘘じゃないんだって思ってる。」
「……そ、んな、こと、」
「上官からその能力を買われて入団、なんて…。兵士として、これほど羨ましいこと、ないよ。」


ぺトラの瞳は、真っ直ぐで力強い。


「兵長もだけど、フィーナも、兵士としてもカッコいいと思うし、人としても好きだよ。」
「…」
「だからこそ、…今までの遠征とは明らかに違う今回の遠征に、2人気まずいままでいってほしくないんだよね。」


そこで初めてぺトラは少し俯き、困ったような顔をした。


「兵長は確かに人類最強、って言われるくらい強いけど…、でも兵長だって、普通の人間で…、絶対なんて保証、ないでしょう?」
「…」
「フィーナに対してだって、それは言えることだし…。何が原因かはわからないし、違うんだったら本当に大きなお世話な話なんだろうけど、だけどもし。…もし、本当に今兵長と何かあった、って言うなら、遠征前にちゃんと話あってもらいたいって思う。」


本当にお節介なことだろうけど、とぺトラは言った。
ぺトラの言葉に、どうとも答えられずにいる私は、隣にいたナナバさんに視線を向けると、ナナバさんもどこか、困ったような顔をして笑っていた。

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