Attack On Titan


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ラブソングをキミに


「エルヴィン・スミス」 5


「先ほども触れた通り、」
「…」
「この計画はここにいる兵士のみで行う。例外はなく、ここにいる兵士以外に口外することを禁ずる。」


冷たく暗い部屋に、熱を持たないエルヴィンさんの声が響く。
エルヴィンさんは壁内に存在する三兵団の内どこかに、5年前のあの日、シガンシナとウォール・マリアの壁を壊した知性を有したと思われる巨人、超大型巨人と鎧の巨人の元となる人間がいると言う。
最低でもその2人が、諜報員であり、私たちの敵だと言う。
敵味方の線引きは、5年前、シガンシナ陥落以前よりも兵士であったかどうか…。
だけどその線引きは…。


「待ってください!」
「今度はなんだ?」
「…今回の遠征、新兵もいるんです。彼らは違います!」
「………」
「初の壁外遠征なのに、必要な情報ももらえなかったら彼らは、」
「フィーナ。」


エルヴィンさんは、本当に、ゾクリとするほど、冷たい表情をした。


「言ったはずだ。例外は認めない。104期も対象とする。」
「…でも、彼らがそんなことするはずない!」
「………」
「彼らは、…彼らの中にはっ、」
「………」


もう5年。
調査兵団に入団して、この人を見てきた。
…そして、この人に仕える、先輩兵士たちも。
だからもうわかっている。
これは言っても無駄だ。
だけど…、


「…っ、少なくともっ、……弟は、違います…!」


言わずには、いられなかった。
俯きながら言った私に対して、エルヴィンさんは大きな大きな、ため息を吐いた。


「だから私は、最後まで君にこの計画を伝えることに反対だったんだ。」
「…え?」


顔をあげた私の目には、困ったように眉毛を寄せているエルヴィンさんが映った。
エルヴィンさんは1度目を閉じ、息を吐いた後、もう1度私を見つめた。


「ここにいる君以外の兵士には既にこの計画を打ち明けてある。」
「…」
「その時にこの計画内容に対する全員の承諾を得れた。…だがそれには1つの条件が提示された。」
「条件?」
「フィーナ・スプリンガー。シガンシナ陥落前からの調査兵で、この計画の参加資格を有している君にも全てを打ち明けること。…それがここにいる、私以外の兵士が提示してきた条件だ。」


その言葉に、エルヴィンさんの隣に目を向けても、リヴァイさんは相変わらず私の顔を見ないし、ハンジさんもどこか困ったような顔をして目はこちらを向こうとしなかった。


「だから私も条件を出した。君が諜報員の存在を臭わせる何かを語ればこの計画を君にも伝えよう、と。」


その言葉に私をここに連れてきたミケさんを見上げると、ミケさんは眉毛を少しだけ動かし、どこか申し訳なさそうな顔をした。


「君にこの計画を打ち明ければ、104期を外せと言ってくるだろうことは目に見えていた。」
「…」
「だが既に言ってあるように、一切の例外は認めない。そもそもにして現段階で私が104期で信用に足るであろうと思えるのはエレン・イェーガー本人と、まだ確証には至らないが、彼と終始行動を共にしていたミカサ・アッカーマン、アルミン・アルレルトの3名だけだ。」
「…」
「残念だが、そこにコニー・スプリンガーは入っていない。」


エルヴィンさんのガラス玉の瞳は、依然冷たく私を映し出していた。


「だがこの計画の変更は有り得ない。諜報員を叩くならば今しかない。兵団のためにも人類のためにもな。」
「…」
「壁内の人類の未来のために必要であるならば、新兵だろうが駒にさせてもらう。」


………この人は、本気だ。
そんなのとっくにわかっていた。
これは決定事項で、どう足掻いても、覆ることはない。
だからこそ…。


「知っていたんですか?」
「………」
「『あの時』言いかけたのは、これのことだったんですか?」


この部屋に入って、1度も私を見ようともしないこの人に、全てをぶつけてしまったんだと、思う。


「…だったらなんだ?」
「どうして言ってくれなかったんですかっ!初めから知ってたら、私はコニーを絶対に調査兵になんてさせなかったっ!!」
「フィーナ待て、リヴァイは、」
「ミケ!………おい、フィーナ。これは決定事項だ。エルヴィンが言った通り例外はナシだ。仮にあのガキが今回のこれが原因でくたばるならその程度の力量だった、ってだけの話だ。」


ようやく私の目を見たかと思ったら、リヴァイさんは相変わらずの無表情でそう言い放った。


「……話の途中で悪いが、」


エルヴィンさんが遮るように声をあげた。


「フィーナ。何度も言うがこれは決定事項だ。君の意思に関係なく、次の遠征でこの計画は遂行される。」
「………」
「念の為に聞くが、君はこの計画に参加するか?」
「………」
「参加の有無は君に任せる。元より私は君抜きで計画を進めようと考えていた。君1人、増えようが減ろうが支障はない。」


エルヴィンさんは、この件に関して私にもう隠し事はしないだろう。
だから本当に、私が計画に参加しようがしまいが、支障はないんだと思う。


「………それが『命令』ならば、計画には参加します。」
「…」
「けど、………納得は出来ません。」
「そうか。」


苦々しく床を睨みつける私に、


「ではフィーナも計画遂行を前提に遠征に臨むこと。」
「…はい。」
「ただし、君には監視をつけさせてもらう。」


エルヴィンさんはまた、信じられないことを口にした。


「なに、言って、」
「この計画が遂行される日まで、ここにいる兵士以外に計画内容を漏らされるわけにはいかないんだよ。」
「私、喋ったりなんかしません!」
「だが納得していないのであれば、いつ喋ってもおかしくない。」


コニーに対しては特に、とエルヴィンさんは言った。


「ハンジの話だと、エレンとリヴァイ班の面々が良い具合に親睦を深めているようだし、もう君がいなくても大丈夫だろう。君をミケの分隊に戻し、ナナバかゲルガーの監視下についてもらう。ここにいる兵士以外との交流は一言一句、全て私の元に報告が来る。そのつもりで行動してくれ。」


……あぁ、そうだ。
私はずっと、見てきた。
「団長」としてのこの人を…。


−エルヴィンは誰より優しく、誰より非情だ−


この人は、そういう人だ。
握り締めた拳により、爪が皮膚に食い込んでいく。
行き場のない思いは、この程度の痛みでは、消化が出来ない。
エルヴィンさんは実際に諜報員を捕獲する実行部隊以外は解散、と言葉を発した。
その言葉を受け、ナナバさんが私の元に来て、背中を押し室外へと促す。


「フィーナ。」


それでも動けずにいる私に、リヴァイさんが声をかけてきた。


「これは命令だ。エルヴィンは今の俺たちに必要な行動を立案をしたまでだ。」
「…」
「今回の遠征でコニーに何かあってもエルヴィンを逆恨みするな。」
「…」
「恨むならお前に一切話さなかった俺を恨め。いいな?」


そう言いながら私を見つめるリヴァイさんは、感情が読み取ることなど出来ない、無表情のまま。
その表情を一瞥して、ナナバさんと共に部屋を出た。




「自ら憎まれ役になることもないだろう。」
「別にお前のためじゃない。」
「俺がお前たちに話したのは一昨日だぞ。104期歓迎式の時はこの計画、お前も知らなかったじゃないか。それを言おうとしたミケすら遮て、あの言い方、本当に嫌われるぞ。」
「だからお前のためじゃねぇと言ってるだろ。逆恨みから他の男に執着されるより余程マシだ。」
「………まぁ、計画に支障がないならなんでもいいがな。……皆準備出来たか?では、」




「ねぇ、フィーナ。リヴァイは、」
「ナナバさん。」
「うん?」
「ナナバさんたちも遠征までの間、ここに拠点を移すんですよね?」
「え?あ、うん。そうだけど?」
「またしばらくいさせてください。」
「…話し合わないの?」
「………今話すと、」
「うん?」
「きっと、酷いことしか、言えないので…。」
「…そう…。」


ナナバさんは返事の代わりに、ぽん、と1度私の頭を撫でた。
陽が落ち、夜の帳と共に、重い空気が私を包み込んだ。

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bkm

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