Attack On Titan


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ラブソングをキミに


「エルヴィン・スミス」 4


「フィーナ。」
「ミケさん!」


己の偽善者ぶりに、あまりの無能ぶりに、自分自身が嫌になった夜から数日後の夕方、古城にミケさんがやってきた。
…………どうしよう、現在の私の班長であるハンジさんが無茶ぶりばかりするから、常識人(嗅覚を除く)な班長のミケさんに久しぶりに会えたことがすごく嬉しい…。


「どうだ?エレンの実験は。」
「あ、はい。ハンジさんがいろいろと考えてくれてるので、」


調査兵団の目下の課題、エレン・イェーガーの能力の掌握。
それはやはりミケさんも気になるところのようで、真っ先に聞かれた。
正直、実験の詳細な結果は私にはわからない(自分の目で見てる限りにしか)
だからハンジさんが全体像をどう捉え、何を目的でしているのか、謎だけど、それでもきっと必要なことだろうと思っていた。


「ミケさんは、どうされたんですか?」
「あぁ、少し、な…。お前もいいか?」
「はい?」


いいか、と、古城の長い廊下へと促されミケさんに続くように歩き始めた。


「……先日のソニー、ビーン事件は知ってるか?」
「え?あ、はい。一応…、事件後、騒ぎになってから、ですが、駆けつけたので…。」


突然のミケさんのフリに戸惑いながら答えると、そうか、とミケさんは短く言った。


「お前はどう思う?」
「え?」
「お前にはどう見えた?」


ミケさんが立ち止まり、私を振り返った。
黄昏色の空の下、この古いお城の中はすでにどこか、薄暗かった。


「それ、エルヴィンさんにも聞かれましたが…、」
「…」
「…私には、何も、わかりません。」
「…そうか。」


そう、あの日、エルヴィンさんにも、聞かれた、あの意味すらも、わからない。


「ただ…、」
「うん?」
「…巨人、が、憎くて殺したとは、どうしても思えません。」
「…それは何故だ?」


ミケさんは珍しく、鋭い目つきで私を見遣り聞いてきた。


「うまく、言えません、が…。あの日、この城まで、本当に微かにだけど…、『大きな何か』が倒れる音が聞こえたんです。」
「…」
「近くにいれば、それはもっとはっきり響いたはずです。」


あれだけの距離があったにも関わらず、ここまで聞こえたくらいなのだから…。


「つまり、それだけ犯人は、捕まる危険があった。だけど…、」
「2体とも始末した、か…。」
「はい。…それと、」
「なんだ?」
「…その音が聞こえた時間…。」
「時間?」
「…その日、1番見張りが手薄な時間だったと思います。」
「………」


それがどういうことなのか…。
そこから先は、考え至らなかったのか、考えないようにしていたのか…。
今日の、今、この瞬間までは、そこから先への考えはなかった。


「フィーナ。」
「はい。」
「お前にも聞いてもらいたい話しがある。」


ミケさんはそう言って、目の前のドアを開けた。
何事かとミケさんの顔を見上げた私の背を押し、室内へと促された。
ミケさんに促されるまま、室内入った。
…ら、


「………時間だな。ミケ、扉を閉めろ。」


目の前には懐中時計を胸ポケットに仕舞ったエルヴィンさん、その隣にはハンジさん、リヴァイさん。
室内を見渡すと、ここは小さい講堂のような部屋で、並べられているイステーブルには、ナナバさん、ゲルガーさん、ディータさん等先輩兵士たちが座っていた。


「これより第57回壁外調査計画の最終確認に入る。」


エルヴィンさんの声が室内に響き渡る。
目の前で起こっている出来事が理解出来なくて、脳内がクエスチョンマークいっぱいの私は、エルヴィンさんが発する言葉を反復すことで精一杯だった。


「今回の遠征の目的は2つ。1つは中央にエレン・イェーガーが人類に利する存在だと提示すること。場合によっては巨人化することを許可する。ただし彼には我々とは違い巨人のそれと同様の再生能力があるが、絶対などと言う確証あるものではない。壁外において彼自身を守り抜くことを最優先とする。」


致命的となり得る傷などつけないこと、と、淡々と話すエルヴィンさんの横に立つリヴァイさんが、私の方を向くことはなかった。


「そしてもう1つは、兵団内にいるであろう、諜報員のあぶり出しだ。」
「………え?」


エルヴィンさんの言葉に驚いたのは、私だけなようで、その場にいた誰1人、声を上げることはなかった。


「エレン・イェーガーの存在、そして先日の2体の被検体殺害でそれは『可能性』ではなく『確証』に変わった。」
「…」
「これ以上諜報員を野放しにするつもりはない。この遠征で必ず尻尾を掴み叩き潰す。」
「………どう、いう、ことです、か…?」


ナナバさんも、ゲルガーさんも、他の先輩兵士たちもみんな、そう…、まるで「最初から知っていた内容の反復」をしているだけのような、そんな態度だった。
今この場で全く事態についていけてないのは、私だけなんじゃないかと、思う。


「言葉通りだ。どの兵団にかまでは断言出来んが、5年前壁が壊されて以降から、兵士として諜報員が入り込んだと見ている。」
「5年前…」
「そしてこれは私の考えでしかないが…、恐らくその諜報員はエレン同様、『巨人化出来る人間』ではないかと思われる。」
「なっ!?」


少し薄暗くなった室内で、エルヴィンさんのガラス玉のような瞳が私を捕らえていた。


「巨人化出来る人間が、エレンの他にいる、って、言うんです、か?」
「むしろエレンの他にいないと考える方が暴力的だとは思うが。」


エルヴィンさんの言葉に、その隣に立つリヴァイさんを見るけど、


「…………」


リヴァイさんは決して、私と目を合わせようとはしなかった。


「今回の遠征において諜報員に狙われるのは、まず間違いなくエレン・イェーガーであろう。」
「…」
「そこでリヴァイ班の誘導の元エレンを囮に使い、巨大樹の森へ誘い込み一気に畳み掛ける。」


淡々と「計画の確認」として語るエルヴィンさんの言葉は、信じられないものだった。
5年前の壁破壊以降に、諜報員が入った可能性があると言い、この作戦に参加する兵士を限定すると言った。
…計画が一部兵士のみで行われるというのはよくあることだ。
それは私も経験してきたもの。
……だけど。


「ち、ちょっと待ってください!」


命の危険がある計画ではなかったはずだ。


「今の話しを聞くと、つまり、ここにいる兵士以外には、この計画を、伝えない、ということです、か?」
「そうだ。」
「だ、って、ここにいる兵士はパッと見た限りでも100人にも満たないじゃないですか!残りの兵士に計画内容を伝えないまま遠征に向かわせるつもりですか!?」
「あぁ。」
「そんなこと意味も教えてもらえぬまま死ねと言ってるようなものじゃないですかっ!」


私のその言葉にもそれまで同様、誰1人、反応する人はいなかった…。


「死ねと言っているわけではない。」
「…」
「『心臓を捧げよ』と言っているんだ。壁内の人類のため、そして、人類の希望とも言えるエレン・イェーガーのために。」


そう語るエルヴィンさんの表情は、どこまでも冷たく、「エルヴィンさん」ではなく、「団長」としての顔をしていた。

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bkm

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