Attack On Titan


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ラブソングをキミに


「エルヴィン・スミス」 3


ハンジさん大絶叫の元、エレンが自らその右手を引き抜き、巨人化していた部分は生身のエレンと切り離され蒸発し始めていた。


「へ、へい、ちょ…」
「気分はどうだ?」
「…ハァ…ハァ…あまり、ハァ…よく、ありません…。」
「……お前らもいい加減収めろ。もう済んだ。」


リヴァイさんの号令で、リヴァイ班もブレードを収めた。


「エレン。大丈夫?」
「ハァ…お、ねぇ、さん、ハァ…ハァ…」


息のあがったエレンは、なかなか落ち着けずにいるようだった。


「!」
「す、みま、せ…、すこ、し、休ま、て、くだ、さ…」


そう言うと、エレンは意識を失った。


「エレン?エレン!」
「コイツは俺が連れて行く。おい、お前ら適当に片付けとけ。続きは明日だ。」


倒れたエレンを抱きかかえるようにしていた私の腕から、軽々と片手でエレンを担ぎあげたリヴァイさん。


「…ハンジさん、私はどうしたら…?」
「え?あ、あー…、じゃあエレンについててもらおうかな?」


私はここで蒸発しきる前に検証と、目撃者に事情聴取、そして「上」への報告へ行くから、とハンジさんが言ったことで、そのままリヴァイさんと、意識がなくリヴァイさんに担がれてるエレンの3人で、古城へと向かうことになった(リヴァイ班は居残り聴取)


「リヴァイさん、は、」
「なんだ?」
「………怖いとは、思わなかったんです、か?」


パカパカと響く蹄の音をバックに、隣を走るリヴァイさんに尋ねた。


「このガキがか?」
「…はい。」
「別に思わなかったな。仮にあのまま暴走したとしても、俺なら殺せる。」


淡々と語る姿は、本当にいつものリヴァイさんで。
嘘でも強がりでも、なんでもないんだと思った。


「だから、」
「あ?」
「…だから、リヴァイさんに、エレンを任せたんでしょう、ね…。」


あの場面で、唯一冷静でいることが出来た、リヴァイさんだから…。


「俺もお前に聞きたいことがある。」
「はい?」」
「何故あの時逃げなかった?」
「…」
「エレンが巨人化した時、お前は奴の正面にいた。なのに逃げるどころか近づいていっただろう。何故だ?」


馬を歩かせながら、リヴァイさんはチラッと私を見遣った。


「…自分が1番、醜いと感じたからです。」
「………」
「偽善者ぶって、エレンを庇ってるようでいて、……『人が巨人化する』と言うことを、誰より1番、怖がっていたからです。」
「………」


私は無能だ。
「兵士」として、何の力もない。
実験について詳しいことなど考える頭もなければ、…エレンが巨人化した時に確実に仕留められるほどの能力もない。
唯一、私が出来ることは、アルミンや、ミカサのように、無条件でエレンを信じて上げるということだけだったはずだ。
………なのに、私はそれすら出来ずにいた…。


「…『だから』エルヴィンは、エレンにお前をつけたんだと思うがな。」
「え?」
「………」


リヴァイさんはそれ以上語ることはなかった。
そしてその後古城に着いた私たちは、エレンの回復と、ハンジさんの報告を待つことになった。
目覚めたエレンの話を踏まえ、古城にやってきたハンジさんは1つの仮説を立てた。
エレンが巨人化するのは自傷行為だけではなく、目的意識も必要になってくるのではないか、と。
砲弾から身を守る、岩を塞ぐ、そして今回の、スプーンを、拾うと言う明確な意識。
そしてそこで、エレンが故意に巨人化したのではないと結論づけたエルドさん、グンタさん、オルオ、ぺトラが、自らの手に噛み付いた。


「俺達が判断を間違えた。そのささやかな代償だ。…だから何だって話だがな。」


そう言うグンタさんの右手には、エレン同様、くっきりと自らの歯型がつけられていた。


「ごめんねエレン。私たちってビクビクしてて、…間抜けで失望したでしょ?…でも、…それでも。…私たちはあなたを頼るし、私たちを頼ってほしい。私たちを信じて…!」


ぺトラは真っ直ぐとエレンの目を見てそう言った。
…そして今日はそのままお開きとなった。
リヴァイさんを除く、リヴァイ班の面々の右手の甲に、くっきりと歯型をつけて…。


「リヴァイ班のみんな…。右手に歯型、つきましたね。」
「そうだな。」


初めてこの古城に来た日、紅茶を届けにこの部屋に入って、うっかりそのままこの部屋に居座ってしまい、今もさも当然のようにこの部屋で寝起きしている私。
だけど…。


「…それはたぶん、強い、から、出来ることです。」
「………」
「強いから、知らない誰かを頼れるし、頼ってくれ、って、言えるんです。」


エレンの目を真っ直ぐと見つめて言った、ぺトラのように…。


「だからなんだ?」
「…どうして、」
「あ?」
「そんな人が、すぐ近くにいるのに、どうして私なんですか?」
「…………」


エレン・イェーガーと言う存在を知っていたのに、巨人化する彼を、その実験を、怖がっているような、弱い私なんですか?


「またお前お得意の悲観的思考の大安売りでも始めたのか?」
「………そ、んなん、じゃ、ないです、けど、」


私の言葉にリヴァイさんは大げさなほど大きいため息を吐いた。


「お前の唯一の欠点は自分を卑下しすぎるところだ。」
「…………私、」
「なんだ?」
「欠点、だら、け、です、よ?」
「他はさほど気にならん。」


掃除も上手いしな、と、言いながらリヴァイさんはベッドに入ってきた。


「前も言ったような気がするが、」
「はい?」
「お前がお前だから必要なんだ。うちはもとより、俺にもな。」
「…………」
「確かにお前はアイツらに比べたら兵士としての技術は劣るかもしれん。だがお前にはお前にしか出来ないことがある。それはアイツらと比べるようなものじゃない。違うか?」


リヴァイさんは、ふかふかのベッドに横になりながら言う。


「第一お前は勘違いしているようだが、俺は『部下』を『女』としては見ない。」
「え?」
「『部下』は『部下』であり、信頼に足る『同志』だ。それ以上でもそれ以下でもない。」


だからいい加減ぺトラと比べるのは止せ、と、私を抱き寄せながリヴァイさんは言った。


「べ、つに、比べてなんか、いません。」
「そうか。」
「…そうです。」
「じゃあもう寝ろ。」


リヴァイさんはそう言い、話すことを止めた。
…………別に、比べてるつもりはない。
ただ、あんなにも、兵士としても有能で、…女性としても輝いている人が傍にいながら、どうして何もない、何もすることも出来ない私なんだろうか、って思うだけで。
………それが比べてると言うんだ、と言われたらそれまでだけど…。
そんな私の思いに気づいたのか、目を瞑ったまま、ぽんぽん、と、私の頭に触れてきたリヴァイさんに、ギュッ、と抱きついてその日は眠りについた。

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bkm

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