Attack On Titan


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ラブソングをキミに


「エルヴィン・スミス」 2


「エレン、とにかく血を拭いて…。」
「あ、ありがとうございます。」


リヴァイさん、そしてハンジさん両名の判断で、これ以上ここでの実験は不可能と判断され、エレンは井戸から出てきた。
…両手も、口も、真っ赤な血をつけて…。


「手、包帯巻こう。」
「…あ、で、でも…、」


チラッとエレンはリヴァイさんを伺うように見た。


「…………」


それに対しリヴァイさんは無言で、巻けとでも言うように顎をクィ、と、動かした。


「…大丈夫?」
「あ、はい。ありがとう、ございます…。」


エレンの傷ついた両手に包帯を巻いていると、エレンはどこか、目を泳がせ、語尾が小さくさせながら答えた。
……それはまるで………。


「!」
「………」


母親とはぐれてしまった、子供のようだった…。
自分を化物と言うエレン。
自分の権限を自分が所有していないと言うエレン。
初めて会った時よりも、3年前に、再び会った時よりも、ずっと大きくなったエレン。
だけど…。
まだまだ、15歳の、子供なんだ…。
そう、思ったら、思わずエレンの頭を撫でていた。


「………」


そうした私に対して、エレンは1度、くしゃり、と泣きそうなほど顔を歪めたけど、やっぱり涙は、流さなかった。


「自分で噛んだ手の傷も塞がらないのか?」


ハンジさん(とハンジさんの班員)が作戦を練り直すまで待機と言うことで、リヴァイ班ともども、エレンの回復を見つつハンジさんの立案待ちになった時、リヴァイさんがエレンに向けて投げかけた。


「………はい。」
「お前が巨人になれないとなると、ウォール・マリアを塞ぐと言う大義もクソもなくなる。命令だ。なんとかしろ。」


…………だからどうしてこの人はこうなんだろうか………。


「エレン、気にしなくていいよ。」
「え?」
「命令でどうにかなるなら、みんなが巨人化してる。」
「………」
「…リヴァイさんは立場上、焦ってるだけ。エレンはこんなに怪我してまで頑張ってる。エレンまで焦る必要なんて、ないよ。」
「……お姉さんは、」
「うん?」
「………巨人化した俺を、作戦に入れること、反対なんですね…?」


エレンはどこか悲しそうな目で、聞いてきた。


「わ、たし、は、」
「俺は絶対に巨人を一匹残らず駆逐したいんです。そのために必要なことならなんだってします。」
「…エレン…。」
「……兵長のお考え全てがわかるわけではないですが、『そのため』に必要だと理解してます。」
「………」
「それに、俺自身、自分を掌握することは、必要ですから。」


だから大丈夫、と、エレンは言った。
………エレンの言葉に、ドキリとした。


−巨人化した俺を、作戦に入れること、反対なんですね…?−


私はもしかしたら「エレン」に対する扱いどうこうではなく、「巨人化したエレン」に対して………。


「うっ!?」
「大丈夫?」
「あ、はい…。」


椅子に座り、スプーンを持とうとしたエレンは、手の傷に響いたらしく、小さく呻きながら顔を歪めた。
地面に落ちたスプーンを拾おうとしたエレンとほぼ同時に、正面に座った私もスプーンに手を伸ばした。
瞬間、


ズドォォォンッ!!!


突然正面から噴き上げてきた熱風に思わず手で顔を覆った。


「………」


熱を帯びた爆風が収まった直後、手を退けると、目の前にはエレンの姿があった。
…右手だけ、巨大化した、…ううん、右手だけ巨人と化した、エレンの姿があった…。


「……これ、が……、」


巨人化した、エレン…。
初めて、見た…。
「人」が、「巨人化」するなんて、どこか信じられなかった…。
だけど…。


「な、なんで今頃…!!」


エレンの右手の先は、完全に、巨人のソレと同化していた…。


「落ち着け。」
「リヴァイ兵長!これはっ、!?」
「落ち着けと言っているんだ、お前ら。」
「兵長、エレンから離れてくださいっ!フィーナもっ!!」


巨人化したエレンに、刃を向けるリヴァイ班。
……そう、これがもしかしたら、「普通」の反応。


−弱き者はいかにして生き残るか…。答えは簡単だ。臆病になること−


私にそう言ったのは、エルヴィンさんだった。
………あぁ、私は本当に、臆病なんだ…。
今、目の前で巨人化したエレンを見て、やっとわかった。
私がリヴァイさんの言動に対して腹を立てていたのは確かだ。
だけどそれ以上に私は、「人間であるエレンを無理矢理巨人にさせることへの恐怖」が優っていたんだ…。


「…エレン、大丈夫。」


私はなんて臆病で、


−巨人化した俺を、作戦に入れること、反対なんですね…?−


なんて…、エレンに失礼なことを、していたんだろうか…。


「エレンは、大丈夫。」
「お姉さん、」
「大丈夫だから。」


それは他の誰でもなく、自分自身に言い聞かせた言葉。
その思いに気づき自分を恥じた時、「巨人化するエレン」に対する恐怖よりも、人の心の方が、よほど醜いと、思った。
………上辺だけ偽善者ぶって調子の良いことを言う、私ほど、醜い心を持っている人間、いないんじゃないかって、そう、思った。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!?」


リヴァイ班がエレンに向け臨戦体制を解けずにいた時、どこからともなくハンジさんの声が響き渡った。


「エレーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!」


振り返った先には、ブレードを構えてるリヴァイ班なんて露ほど見えてないんですね?と言う状態でハンジさんがエレンに向けて突っ込んできた(厳密には駆け寄ってきた、だけど、勢いは『突っ込んできた』だと思う)


「その腕触っていぃぃぃいぃぃぃっ!!?ねぇ!!!いいよねぇ!?いいでしょうっ!!?触るだけだからっ!!!!」


どこまでも鼻息を荒くしたハンジさんに、この場の張り詰めた空気が一気に変わった。


「う、おぉぉぉぉ!!?熱いっ!!!皮膚ないとクソ熱いぜっ!!」
「分隊長っ!!生き急ぎすぎですっ!!!」
「ねぇエレン!その右手のつなぎ目、」


ジー、っとことの成り行きを見守るようにハンジさんの動向を見ていたリヴァイさんが大きくため息を吐いたのが見えた。

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bkm

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