Attack On Titan


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ラブソングをキミに


特別兵法会議 6


「まぁ、落ち着け。」


エルヴィンさんの言葉が室内に響く。


「まずリヴァイ。フィーナの手を離せ。お前が強く掴むから手が赤くなり始めてるじゃないか、可哀想に。」
「…………チッ!」


エルヴィンさんの言葉にリヴァイさんは盛大に舌打ちしたものの、その言葉に従い私の右手は解放された。
………すごい…。
痛いと思ったら、右手首にくっきり手形がついてる…。


「それからエレン。大丈夫だから、そこに座りなさい。」
「…ですがっ、」
「リヴァイがフィーナに手を上げることはない。君にしたようにはね。」


はぁ…、と半信半疑な声を出しながらエレンがソファに座り直した。
…………「君にしたように」?


「もしかして、」


思考がそこにたどり着いた直後、口を開いていた。


「エレンのこの怪我、リヴァイさんがやったんですか?」
「……だったらなんだ?」
「し、信じられない!エレンが何したって言うんですっ!まだ15の子供なんですよっ!!?こんなにボロボロになるほどっ、」
「お、お姉さんっ!俺本当に大丈夫ですからっ!!お、落ち着いてくださいっ!!」


リヴァイさんに向けて叫ぶ私に、今度はなだめるようにエレンが前に出てきた。


「本当にっ!ね?大丈夫ですから!俺再生するし!」
「…『再生』?」
「はい。…巨人化出来るようになったら、怪我した場所も巨人並みに再生出来るようになったんです。さっき折れた歯も、もう生えてきてるし。」


化物で気持ち悪いでしょう?と困ったように笑いながらエレンは言う。


「『気持ち悪い』」
「…」
「とでも、言うと思った?」
「…え?」
「…エレンは、エレン、でしょう?」
「………」
「巨人化、出来るとしても、エレンはエレン。『だから』他の巨人と戦って、穴を塞いでくれたんでしょう?」
「…お姉さん…。」


やっぱりエレンは、笑う。
泣きそうな顔をしながら…。
…あぁ、この子も、泣けないんだ…。
泣けない、子供なんだ…。


「おい。」


エレンの悲しい笑顔に、胸がチクリと傷んだとき、リヴァイさんが口を開いた。


「いつまで喋ってやがる。ハンジの手当てが終わったんならさっさと行くぞ。」
「あ、はい!…お姉さん、すみません、俺行かなきゃなんで、」
「行く、って、どこに?」
「…ここの地下です。」
「え?地下?」
「はい。今後の対応が決まるまでは、ここの地下牢にいることになってるので…。」


立ち上がり、ドアの前に進むリヴァイさんについて行こうとするエレン。


「ち、ちょっと待ってください!地下牢、って、エレンを幽閉するんですか!?審議で調査兵団預かりと決まったのに!?」
「これは『上』の命令だ。この『化物』を監視下に置き、不穏な行動をしたら即殺すための決定事項だ。」
「…化物、って、」
「不満があるなら兵士を辞めろ。おら、ボケっとしてんじゃねぇ、行くぞ。」
「あ、はい!…では、失礼します!」


エレンが一礼して、リヴァイさんともども、部屋から出ていった。
2人が去っていったドアを眺めながら、なんとも言えない感情が胸を覆った。


「…さて、フィーナ。」


私が、どこを見るでもなく、空を睨みつけるように見ていたら、エルヴィンさんが声をかけてきた。


「私が言いたいことはわかるね?」


エルヴィンさんの口元は笑っているけど、そのガラス玉のような瞳は、ニコリともしていなかった。


「…すみません、でし、た…。」
「まぁ…、虚偽の証言と言うより、真実を語らなかっただけ、と言ったところのようだから今回だけは大目に見よう。」
「…はい。」


エルヴィンさんは1つ大きく息を吐いた。


「聞いた通り、エレンは調査兵団預かりと言うことで決定し、その監視をリヴァイ、そしてリヴァイ班が務めることとなった。」
「はい。」
「見るところ、エレンに反逆の意思はないようだが…、万が一の場合がある。」
「…」
「君はそうならないように、エレンに目をかけてやってほしい。」
「…え?」


エルヴィンさんのガラス玉のような瞳は、今日も何もかもを見透かすように世界を移していた。


「例え巨人化するとは言え、彼は『人間』だ。」
「はい。」
「その彼が暴走した時、彼を『始末』するのは他の誰でもない、リヴァイだ。」
「………」
「それだけは、避けたいと思ってね。」


ゆっくりと目を閉じて、エルヴィンさんが言う。
…そう、だ…。
エレンの監視役で「その条件下で」エレンを調査兵団に入れることが出来たのなら、当然、リヴァイさんの仕事に、なる。
だけど…。
巨人を「討伐」することと、人間を「殺す」ことでは、全く意味が違ってくる。


「わ、かり、まし、た。」


私の言葉にエルヴィンさんが今後頼む、と言うようなことを言って、ミケさんと2人兵舎に戻るべく審議所を後にした(ハンジさんはエレン巨人化実験などについての話し合いがあるらしく王都に残るようだ)




「エレンよ。お前に聞きたいことがある。」
「はい!なんでしょう、兵長。」
「…お前とフィーナがシガンシナ陥落前から面識があると言うことはわかった。だがシガンシナ陥落時音信不通になったんじゃないのか?お前たちの再会はいつだ?3年前か?」
「え?…あぁ、そう、ですね。俺が訓練兵になって、コニーに会いに来たお姉さんに久しぶりに会ったので。」
「…やはりあの時のガキの話はお前だったのか…。」
「え?あの時?」
「いや、気にするな。」
「………あの、兵長。俺も1つ、良いですか?」
「なんだ?」
「兵長と、お姉さん…フィーナ、さん、は、仲、悪いんですか?」
「…あ゛!?」
「(怖っ!)あ、べ、別に深い意味はなくて!!ただ、なんて言うか…、お姉さんは本当に優しい人だから、あんな風に怒鳴るところ、見たことなくて…。」
「………………」
「す、すみませんっ…!!」
「………………」
「(すっげぇ睨んでる!!えっ!!?何、俺なにかマズイこと言った!!?)」
「………………」
「(どうしようどうしようどうしよう)」
「…おい、クソガキ。」
「は、はいぃっ!?」
「何してる、着いたぞ。さっさと入らねぇか。」
「あ、は、はいっ!(良かった、地下牢についてた…!)」
「…わかってると思うが、」
「はい?」
「『妙な真似』したらその場で即殺す。いいな?」
「…………はい(俺『また』暴走したら、本当にこの人に殺されるんだろうな…)」
「…おい、牢の鍵を締めろ!」
「はっ!」



「やはりフィーナとエレンは個人的に懇意にしていたか…。それもかなり親密そうだったな。」
「うん。」
「予想以上ではあったが、あれなら『万が一』が起こる前の対策をどうとでも出来そうで安心した。」
「…て、言う、か、」
「うん?」
「これは予想外の展開になりそうじゃないかいっ!?」
「……お前、この非常時に…。」
「だってそう思わない!?リヴァイの『アレ』は誰がどう見てもただの嫉妬じゃないかっ!!」
「…まぁ、私情は挟んでいただろうな…。」
「だろうっ!!?まさか!!あのフィーナをめぐって『人類最小』と『人類最大』の夢の対決が見れるかもしれないなんてっ!!」
「…頼むからこの非常時に自ら戦闘不能になるようなことはしないでくれ…。」
「やだな、そんなことしないよっ!ただなんて言うかな、こう巨人の生体調査の研究を任されている人間としては非常に興味深い案件ではあるかな、っていうね!だってそうだろう?巨人化できる人間との間の子供は果たして巨人化するのかっていう、人類史上初であろう研究ができるってことなんだよ!?心情的には長年のつきあいのリヴァイを応援したいところだけど、ここは人類のためにもリヴァイには身を引いてもらって若い2人に人類の未来を託したい、って思うのは研究者として間違っていないと思うんだ。だってあなたも興味あると思わないかい?巨人化できる人間の子供はどんな子が生まれるのか、って!私も鬼じゃないから、まだ15歳のエレンに対して種馬になってくれなんて言えるわけないじゃないか。そこは人として最低限の権利は尊重したからね。言えるわけないよ。だから相思相愛の相手での子が理想なわけだけど、そこで私の知らない女性を選んでしまった場合研究にどのような影響が出るかと言うと、人類初となるであろう巨人化できる人間の子を妊娠した女性の胎児は一体どのような成長を遂げるのかという研究において、さすがに私と面識がない女性に妊婦検診や出産に同行立ち会いさせてくれなんて頼めないじゃないか。いくら私だってそこらへんはわきまえてるよ、すっごい立会いたいけど!だからやっぱりベストはエレンと相思相愛かつ私が知ってる女性、それも私とそれなりに親しい交流のある女性との間に出来た子供、ってことだけど、この条件から言うとフィーナは本当に最適なんだよね!どんな子が生まれるかはわからないけど、フィーナ自身が兵士をしてるくらいだからそれなりに体力もあるでしょう?ちょっとやそっとじゃくたばらないだろうって算段なんだけど、でも確固たる確証があるわけじゃないじゃないか。だからそこらへんどうなのかっていう、」
「団長、お待たせしました。準備が、」
「モブリット、遅いぞっ!」
「え?あ、す、すみません?」
「お前はもうハンジから目を離すな!雑務は他の兵士にさせろ!」
「(またなんかやらかしたのかこの人…)はい、気をつけます。」




「まぁ…、なんだ。リヴァイもリヴァイで今までにない任務で気が立ってるんだ。あまり責めてくれるな。」


兵舎に戻るまでの馬車の中でミケさんが言ってきた。


「べ、つに、責めてるわけ、じゃ、」
「アイツはなんでもかんでも1人でやろうと抱え込む。お前にまで責められたらさすがに気の毒だ。」
「……気、を、つけ、ます…。」


お前の気持ちもわからんでもないがな、と、ミケさんはその大きな手で私の頭をポンポンと、撫でた。

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