Attack On Titan


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ラブソングをキミに


特別兵法会議 2


「リコちゃん、が、報告書を?」


殉死者の確認、回収作業が行われている中、リコちゃんと行動を共にしていた私。


「あぁ。…他の仲間は全滅したからな…。」


今回の作戦にあたり、エレン行動についての報告書をリコちゃんが書くことになったようだ。


「早急に書き上げろとのことだったが…。」
「うん?」
「…私情を挟むようで悪いとは思ったが、どうしても、この広場の遺体回収だけは参加させてくれとピクシス司令に直訴した。」
「…そう…。」


今、私たちが回収し、…燃やすために袋に詰めているこの遺体は、イアンさんをはじめ、リコちゃんが大切に思っていた仲間だった人たちだ。
リコちゃんが駐屯兵団に入団して5年、仲間として過ごしてきた人たちだ。
元々、気の利いたことなんて言えない私は、ただ、傍にいて、リコちゃんが大切に思っていた人たちの遺体を、一緒に確認、回収することしか、出来なかった。


「……この広場の遺体は、あらかた片付けたな。」
「うん。」
「じゃあ私はそろそろ行かないとだけど…。」
「…」
「フィーナ。」
「うん?」


リコちゃんが本来与えられている仕事=報告書作成に戻る前に、私の名を呼んだ。


「以前、お前の口から『シガンシナの子供』の話を聞いたけど、『アイツ』のことだろ?」
「…うん。」
「…お前の言う『シガンシナの子供』は、昨日まで唯の1度も人類が勝ったことのない力を持った、それを自分で制御出来ない『化物』だ。」
「…そんな言い方、」
「それが事実なんだよ。アイツがどうなるのか、私にはわからないけど、お前もあまり深入りするんじゃないよ?」
「………リコちゃん、」


言うだけ言って立ち去ろうとするリコちゃんを呼び止めた。


「今度、会おう。」
「え?」
「時間、作って。」


ー今度、時間作って会おうかー
ーうん。必ず…ー


4年前、リコちゃんが私に言ってくれた言葉。


「……あぁ、必ず。…じゃあもう行くよ。」


リコちゃんがそれを覚えていたかはわからない。
でも…。
一瞬泣き出しそうなほど顔を歪め目を閉じ、大きく息を吐いた後、4年前、私が答えた通りに返事をして今度こそ、この場を立ち去った。


「おい、フィーナ!」
「ゲルガーさん、」
「お前がどーしてもって言うから兵団跨いででも『お友達』とペア組むこと許可してやったんだぞ?そっちが終わったんならさっさとこっち手伝え!」
「…ゲルガーさん、」
「なんだ?」
「どうして、」
「あ?」
「…どうして兵士は、悲しむ間も、与えられないんですか、ね…。」
「…………それを承知で兵士になったはずだろ?」


今更何を言ってる、とゲルガーさんは言った。
…だけど…。
少なくとも、5年前訓練過程を修了した段階では私は、…私たちは、思っても見なかった。
こんな未来が待っているだなんて…。
こんなことのために、訓練していたわけじゃ、ないのに…。


「…悲しいのに、泣けない、ってことほど、辛いものは、ない、ですよ、ね…?」
「………かもな…。」


ゲルガーさんはポン、と私の肩を叩いて、ほら手伝え、と言い去っていった。
悲しいのに、泣けない。
苦しいのに、泣くことを許されない。
人類を守るための兵士は、人として当たり前な行動すらも、心臓と共に捧げなければならないんだろうか…。
この世界はなんて…。
なんて、残酷な世界なんだろう…。
…掃討作戦終了から丸3日かけ、殉死者の確認、…回収、火葬、街の除染が行われた。
一通り作業が終わったところで、私たち調査兵団は待機命令が下ったため、全員で一旦兵舎へと戻ることとなった。
久しぶりな気がする「我が家」に安堵感はあるものの、部屋の主は不在のままで、どこか落ち着かずその日はなかなか寝つけなかった。
そして…。


「ん…」
「…ただいま。」


その翌日の深夜、リヴァイさんが帰ってきた。
首筋にかかる息にゆっくりと目を開け振り返ると、相変わらずの無表情なリヴァイさんがいた。


「お、かえ、り、な、さい…。」
「ん…。」


私を抱きしめるリヴァイさんは、いつもより…。


「な、んか…、」
「あ?」
「…変え、まし、た?石鹸…。」
「あぁ…。シーナの宿屋にあった石鹸の匂いがキツくてな。」


久しぶりに自室に戻ってきたリヴァイさんは、いつもよりもずっと強い石鹸の匂いをさせていた。
以前、ウォール・シーナに連れて行ってもらった時も思ったけど、こういうところでも内地とは違うと痛感する。
私たち庶民が使う石鹸なんて、ほぼ無臭でここまで強い香料など、入っていないからだ。


「もう、シーナでの仕事は、落ち着いたんです、か?」
「あぁ…。いや、後は上の判断次第だな。」


そう言いながら、私の額に口づけるリヴァイさん。


「リヴァイさん、」
「なんだ?」
「…リコちゃんの、大切な人が、亡くなりました。」


額に、瞼に、頬にと触れていたリヴァイさんの唇が、ピタリと止まった。


「どうして兵士は、悲しい時に、悲しいって、言ってはいけないんでしょうね…。」
「………」
「人としての心まで、捧げなければ、いけないんですかね…。」


そう言った私に、


「………」


リヴァイさんは何も言わず、それまで以上に強く抱きしめた。


「リヴァイさん、」
「…なんだ?」
「リヴァイさんは、」
「…」
「悲しいときは、泣いてください、ね。」
「………」
「泣けない人を、見ている方が、辛かった…。」
「……あぁ…。」


リヴァイさんがどういう意味で「あぁ」と言ったのか。
本当のところはわからない。
だけど…。
リヴァイさんのその返答を聞いて、背中に回した手に、力を込めた。

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bkm

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