Attack On Titan


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ラブソングをキミに


「リヴァイ兵士長」 7


完全に陽が落ちるまで討伐は続き、辺りが暗くなってからは無闇な犠牲は出すなというピクシス司令の名の元、トロスト区内より総員退避が命じられた。
明朝、視界が見通しが効くほどの明るさになってから残りの巨人討伐をすると言うことになった。


「ここは駐屯兵が見るそうだから、俺たちは一旦離れて良いんだぞ?」
「…でも、可能であれば、」
「…わかった。」


壁の向こう、ウォール・ローゼ内に待機所を設け、調査兵団はそこで朝を待つことになった。
…だけど、どうしても自分で確かめたかった。
本当に、トロスト区内に生存者はいないのか、ってことを。
夜になり巨人が行動を鈍らせるおかげで、あたりの静けさが急速に増していく。
…その中で、生存者の物音が聞こえないのか、「命令」で降りれないのであれば、せめて壁の上からでいい、自分で確認したかった。
ミケさんにそんな無茶なお願いをしたら、夜間の見張りである駐屯兵団に掛け合い壁の上を歩けることになった。
…最も1周したら降りてくること、って言われたけど…。
それでも何もせず、そのまま待機所へ行くよりも十分納得出来るものだった。
松明を持たずとも、今日も空は輝いていて、十分足元が見えた。
耳を済ませばまだ、暗闇の向こうからドシーン…と、巨人が動く物音がする。
壁から少し身を乗り出してみるものの、私が求めるそれらしい物音は、全くしなかった。


「お前は死ぬつもりか?」


壁から身を乗り出して街を見下ろしていたら、私が来た方向から声が聞こえた。


「灯りも持たずに何やってる?そんなに死に急ぎてぇのか?」


声だけですぐにわかったけど、振り返ったらそこにはトロストに入ってから1度も会えずにいたリヴァイさんがいた。
その顔はランプに照らされ明らかに怒っていた。


「な、何してるんですか!」
「あ゛?」
「ちゃんと寝なきゃ疲れが取れませんよ!出歩いちゃダメじゃないですか!」
「…………」
「いたっ!?」


私の言葉に、リヴァイさんは無言で右手の甲でぺチン、と、私のおでこを叩いてきた。


「俺が今聞いてんじゃねぇか。テメェはそんなに死に急ぎたいんだな?」
「そ、いう、わけ、じゃ…。」
「だったら最低限の装備ってもんがあるだろう!」


ほら持て、とでも言うようにリヴァイさんは自分が持っていたランプを私に差し出した。


「…でも、」
「あ゛?」
「なく、ても、見えます、し。」
「…………」


私の言葉にリヴァイさんは大きくため息を吐いた。


「お前が見える見えないの問題じゃない。警備してる駐屯兵にお前の位置を知らせる意味もある。それくらい考えろ。」
「………すみ、ま、せん…。」


あぁ、そうか、と。
確かに壁の上で警備している駐屯兵団の兵士たちに、私の位置がわかるようにしていないと、いきなり暗闇から現れたら驚くし、な…。
そう思い至り、リヴァイさんに差し出されたランプを受け取った(ちなみにリヴァイさんは私に差し出したことで手ぶらになった)


「で?」
「はい?」
「ミケの話によると、『確認』のために残ったらしいが何か聞こえたか?」
「…………いえ、何も…。」
「………」
「…何も、聞こえません。…『人』が出すであろう、物音は…。」


人がいたとしても、こんなに高い壁の上にいたら、きっと、聞こえません。
だからこれは、完全なる自己満足なんです。
自分自身に「生存者はいなかった」と、言い聞かせたいがための、無駄な行為なんです。


「何してる?」
「はい?」
「してくるんだろ?1周。行くぞ。」
「…え、ち、ちょ、」
「あ?」


無駄な行為だ、って。
自分でもわかっている。
だからこそ、その無駄な行為に、あなたまで、つきあう必要なんて、ない。
……とは、思っていても、辛うじて動く口は、音を発することなく、小さく揺れているだけだった。


「…お前が前を歩かねぇと見えねぇんだよ。さっさと歩け。」


リヴァイさんは、それすらもわかっているかのように、私を促す。


「……す、みま、せん…。」
「そう思うならさっさと済ませろ。行くぞ。」


暗闇の中、ランプの灯りだけで、壁の上を歩いている。
余計な物音は、しない。


「あ、あの、」
「なんだ?」
「伝言、ありがとうございました。」
「…あぁ。」
「でも、」
「あ?」
「何人に、頼んだんですか?会う人、会う人、に、言われたので…。」
「…さぁな。下はかなり混乱してたし、1〜2人だとソイツが食われちまったらお前のところまで伝わらねぇだろ。だから俺も、会う奴会う奴に伝言を頼んだ。」


淡々と闇夜に響くあまり抑揚のないリヴァイさんの声は、それでも「リヴァイさんだ」と思わせ、私はホッとした。


「ありがとう、ございました。」


立ち止まって1度深々と頭を下げた。


「お前は会えたか?」
「あ、いえ、まだ…。」
「そうか。」


リヴァイさんの言う下=トロスト区内だけじゃなく、壁の上も混乱していて、とてもコニーを捜し出せる状況じゃなかった。
でも無事ならいいや、って。
明日、討伐が終わり次第、殉死者の確認、回収作業を駐屯兵、調査兵、そして訓練兵が一斉に行うことになっている。
無事ならその時に会えるだろう、と。
そう、言い聞かせていた。


「…そういえば、お前の『お友達』も無事だったぞ。」
「『お友達』?」
「駐屯兵の、」
「リコちゃんに会ったんですか!?」
「あぁ。」


…良かった!
コニーの無事はリヴァイさんからの伝言でわかってはいたけど、リコちゃんも、どんなに捜しても見つけることが出来なかった。


「…ただ、」
「はい?」


リコちゃんの無事にホッとしたのも束の間、リヴァイさんが私を見据えて口を開いた。


「様子が変だった。」
「…え?」
「あの状況だし、班長って立場ならわからなくもねぇが、それだけじゃないような気がする。」
「どう、言う、ことです、か…?」
「………馴染みが、死んだのかもな。」


ポツリ、と、呟くようにリヴァイさんが零した一言に、いつかのリコちゃんの照れくさそうな笑顔が頭を過ぎった。
自然と手が口元に伸びて、まるで声を出さないとでも言うかのように、気がついたら自分の口を覆っていた。


「まぁ…、俺はそこらへんのことはよく知らねぇが、」
「…」
「時間が出来たら話でも聞いてやれ。」


8年のつきあいなんだろう?とリヴァイさんは言った。
その言葉に、俯きながら頷く。
今何かを話したら、心の何かが決壊したかのように、止めどなく出てしまいそうで、それを必死に堪えていた。


「…と、言っても、だ。」
「…」
「この状況だといつ時間が出来るかわからねぇけどな。」
「…」
「俺も明日、討伐が終わり次第、エルヴィンとシーナに行くことになった。」
「え?」
「出来ることなら王都になんざ行きたくねぇが、今回のことでいろいろやらなければならないことが出来てな。当分そっちにいるハメになるだろう。」


リヴァイさんが苦々しい顔をしていると、その声でわかった。


「そう、なん、です、ね…。」
「…大丈夫か?」
「え?」
「お前のことだ。」


横目でチラッと私を一瞥するリヴァイさん。


「………はい、大丈夫です。」
「そうか。…何かあったらナナバのところへ行け。悪いようにはしないだろう。」
「はい。」
「フィーナ。」
「はい?」
「…今回は倒れる前に行動しろ。いいな?」


リヴァイさんはそう言いながら、くしゃっ、と、1回私の頭を触った。
「今回は」と言うのは、前回…4年前の、マリア陥落の時のことを言ってるんだろう…。
あの頃の私は、眠るのが怖くて、フラフラになっていたところを、リヴァイさんが助けてくれたんだ。
………今、思うと、私はあの頃からずっと、この人に、守られていて、なんて…、


−…馴染みが、死んだのかもな−


なんて、幸せな人間だったんだろうか…。
再び浮かんできたリコちゃんの笑顔を考えないようにと、無理矢理頭から追い出すために、少し先を歩き出したリヴァイさんの後を慌てて追っていった。


「当分、て、」
「あ?」
「どのくらいに、なりそうなんです、か?」
「さぁな。1番に話を聞く必要がある『化物』が涎垂らして寝てるらしいから、ソイツが起きてから決まんじゃねぇか?」
「…あの、」
「なんだ?」
「…さっき、駐屯兵団の、兵士が言っていたのを聞いたんですけど…。普通の人間を、巨人化させる実験に成功した、って。だからあの大岩を、その人が動かして塞いだんだって話、」
「…」
「あれ、本当なんですか?」
「…………さぁな。テメェの目で確認するまで、何がほんとかなんざ、誰にもわかんねぇだろ。」
「…そう、です、けど…。」
「だがまぁ、」
「え?」
「大岩を動かした『巨人』がいたのは確かだ。ソイツが『人間』なのか『化物』なのか誰にもわからねぇがな。」


それきり、リヴァイさんは口を閉じた。
…人間、が、巨人になる。
と、言う、ことは。
知性を持ったまま、巨人になる、ということで…。
…かなり極端な意見では、ある、けど、でも、言い換えれば、知性を持った巨人と言うのは、人間の可能性だって、あるんじゃないか、とか。
考えただけで、肝が冷えるようなことを考えながら、壁の上を歩いていた。

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