Attack On Titan


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ラブソングをキミに


「リヴァイ兵士長」 5


「では、リヴァイ班を中心に旧市街地へと入り、」


翌朝、エルヴィンさんより本日の作戦内容の確認が行われた。
作戦内容は単純明快。
大穴が開いているシガンシナまでの行程確保。
…の、ための進行。
精鋭と呼ばれるリヴァイさんの班は当然のように先陣を切ってシガンシナへと一歩、一歩進んでいく。
私(と言うか私の班)はというと、相変わらず野営地の見張りメインなため、リヴァイ班のような無理な進行はなく、少しずつ、でも確実に一歩、シガンシナへと進んでいた。
だからその時も、特に急ぐわけでもなく、かと言ってゆっくりしていたわけでもない。
極々普通の、壁外での移動中だった。


「フィーナ?どうした?」


それはほんの些細な違和感。
…でも、壁外に出た回数が増せば増すほど、…巨人と遭遇した回数が増せば増すほど、その違和感に対して「些細なもの」として切り捨ててはいけないと言うことを知っていた。
ほんの小さな違和感に対して、馬の歩を緩めた私に、同じ班のゲルガーさんが聞いてきた。


「…なん、か、」
「あ?」


何がどう違うのか?そう自分自身に問うた時、一気に血の気が引いていった気がした。
…この感じ、知ってる…。
決して忘れてはいけない、5年前の「あの日」と同じ。
目的なく、動くはずの巨人たちが…。


「おい?どうした?」
「…一斉に、」
「あ?」
「巨人が一斉に、北上しているように思います…!」


私の言葉に、一拍間を置いた後ミケさんを呼んだゲルガーさん。


「ミケさん!巨人が、5年前と同じようにっ、」
「落ち着け。…俺はここからじゃわからんな…。ゲルガー!エルヴィンと連絡を取れ。俺はフィーナとそこの建物の上から確認する!」
「了解!」
「フィーナ!行くぞ!」
「はいっ!!」


ミケさんと2人、この辺りで一際高い位置にある、廃墟となっている建物の屋根に登る。
自分を落ち着かせて、静かに耳を澄ますけど…。
…………あぁ、やっぱり間違いない。


「ミケさん、」
「…あぁ。北上しているな…かなりの数が…。」


ミケさんが、数回鼻をヒクヒクと動かした後、肯定の言葉を述べた。


「マズイな…、エルヴィンの元へ急ぐぞ。」
「はい!」


すぐに屋根から降り、先ほどゲルガーさんが向かったであろう方向へと馬で駆け出した。
全体の指揮を執るエルヴィンさんの馬も、さほど速度が出ていたわけではなく、いつもと変わらない速度で走っていた(かつ、先にゲルガーさんが呼び止めた)ため、すぐに追いつくことが出来た。


「ミケ、どういうことだ?」
「フィーナが気がつき、俺も確認した。…間違いなく巨人たちが一斉に北上している。」
「……それは5年前同様、」
「壁に『何か』あったんですっ!」


普段であれば一兵団の「団長」と「分隊長」の会話に一般兵が割って入るなど、言語道断。
でもこの時すでに、私はパニックになりかけていたんだと思う。


「じゃなきゃあの数が一斉に北上なんて考えられないっ!」
「…………」


エルヴィンさんは、そのガラス玉のような真っ青な瞳で私を一瞥した。


「撤退だ。至急全班に通達。これより撤退をはじめ、トロストに帰還するっ!」
「「「はっ!!」」」


エルヴィンさんの声にその場にいた兵士が散り散りに撤退命令の伝達に駆けた。
……「今」トロストの壁に「何か」が起こった、ということは…。
明日所属兵科が決定するはずの訓練兵が駆り出されることに、なるはずだ…。
そうなったら、コニーは…。
運の良い子だし、同期の仲間にも恵まれている。
成績だって8位で訓練修了するくらいの実力はある。
………だけど…。


「…っ、フィーナ、フィーナっ!」
「はいっ!」


今現在、トロストにいると思われるコニーの身を案じていたら、エルヴィンさんが私の名前を呼んでいることに気づかず、その大きな手で肩をガッ!と掴まれた。


「呆けている場合じゃない。もし5年前と同じことが起きているなら…わかるね?」
「…はい。」
「………君は私と来なさい。ミケ、お前は私の代わりにここにいてくれ。」


少しの間の後、エルヴィンさんについてくるように言われた私は、ミケさんと別れエルヴィンさんと共に、今は廃墟と化している街並みを駆けた。
…いや、正確には立体機動を用いて飛んだ、なのかもしれない。
立体機動が使える建物がある以上、普通に馬で駆けるより立体機動を用いて飛んだ方が遥かに早い。
エルヴィンさんについていくこと1〜2分。
今日の行程での最前線、リヴァイ班を見つけた。


「リヴァイ、撤退だ。」
「…撤退だと!?」


エルヴィンさんの声に、信じられないと体全体で言っているかのようにリヴァイさんは答えた。


「まだ限界まで進んでねぇぞ?俺の部下は犬死にか?理由はあるよな?」


いつになく鋭い眼光でエルヴィンさんを睨みつけながらリヴァイさんは言った。


「巨人が街を目指して、一斉に北上し始めた。」


その言葉に、リヴァイさんの顔色が変わり、まるで確認するかのように私の顔を見てきた。
それを受け、ただ小さく頷いた。


「5年前と同じだ。街に何かが起きている。」


その言葉にリヴァイさんは再びエルヴィンさんを見た。


「壁が破壊されたかもしれない。」
「………おいっ!お前ら撤退だっ!トロストに戻るぞ!!」


リヴァイさんの声に、リヴァイ班はじめ近くにいた兵士が一斉に動き始めた。
……トロストの壁が破壊されたら…。
コニーだけじゃない、エレンも、ミカサも、アルミンも104期のみんな、…それにリコちゃんたち駐屯兵団だってそう。
確かにみんな「それ」に備えて訓練はしてきた。
だけど…。




「リヴァイ、ここは任せたぞ。」
「あ?」
「私は一足先に本隊に戻る。お前は彼女を『使い物』になるようにしてから来い。」
「…………」
「5年前と同じことが起きているならば、フィーナの耳は必要になってくる。だが今のままでは論外だ。…このタイミングならばコニーも間違いなく駆り出されてるだろう。無理もないかもしれんが、かなり動揺してる。」
「…………」
「時間は2分だ。出来るな?」
「…了解だ。」




コニーたちのこともあるけど、もし、万が一…。


「…ぃ、おい、フィーナ!」


リヴァイさんの声に、びくりと体が震えた。
瞬間、ガッ!と片手で私の両頬を掴むかのように押さえ込まれ、上を向かされた。


「いいか?1度しか言わねぇからよく聞け。」
「…」
「本当に壁が破壊されていたら、今てめぇがボケっとしてる間にも確実に1人ずつ巨人に殺されてってる。それはわかるな?」


リヴァイさんの声に、無言で頷いた。


「だったらてめぇが今することは何だ?呆けてることじゃねぇだろ?泣きてぇ、叫びてぇって言うなら後でいくらでもつきあってやる。だが今はそれどころじゃねぇんだよ!後悔したくなけりゃ、前に進めっ!」
「……けど、」
「あ゛?」
「もし、コニーに、」
「お前知らねぇのか?あのバカガキ、バランス感覚は人の倍以上、俊敏さは104期でもトップクラスって話だ。安心しろ、あのバカが巨人の臭ぇ口の中に入るようなら104期は全員死んでる。」


リヴァイさんはフン、とでも言いそうな勢いで、私の顔から手を放した。


「でも、」
「まだあんのか?」
「…もし、ローゼまで壊されてたら、」
「その時はその時考えりゃいいと前も言ったはずだ。そうなったらエルヴィンも考えるはずだ。俺たちじゃ考えつかないようなことをな。だから今はそれを考える時じゃない。俺たちが最短でトロストに戻ること、壁内の現状を正確に把握すること、この2つが最優先だ。」


リヴァイさんが言うことはわかる。
「今」すべきこと、その最善策は、ここで現在の壁内が陥っているであろう状況に絶望することじゃ、ない…。


「あのジィサンもただの酒飲みじゃねぇんだ。そこはジィサンの手腕に賭けろ。」


ぽん、と、リヴァイさんが私の肩に手を置いた。


「兵長!前線にいた全班に撤退命令を伝え終わりました!」
「今行く!…フィーナよ。」
「はい。」


リヴァイさんが私の顔を見据えて口を開いた。


「5年前、異変に気づいたお前のこと、俺は信用すると言ったのを覚えているか?」
「…はい。」
「今度はお前が俺を信用しろ。あのバカは、そう簡単にやられるようなタマじゃねぇよ。運だけは良いようだしな。」
「…」
「仮に五体揃ってなくとも、俺が必ずアイツを見つけてやる。わかったら今は一刻も早く戻ることを考えろ。いいな?」


リヴァイさんの後ろには、撤退命令を聞いて兵士たちが集まり始めていた。
………そう、今は、前に進むのみ…。


「はい。」
「…よし。おい、お前ら!いいか、これから、」


リヴァイさんの指示が飛ぶ中、大きく1度深呼吸した。


「フィーナ、顔色悪いけど大丈夫?」
「…ぺトラ…。」


ぺトラたちはまだ知らない。
…志高らかに兵士となった人間とは違い、有効な武器を所持しない民間人が呆気なく食われていくあの地獄絵図を…。


「…大丈夫。行こう。」


深く深く、息を吸い込み、トロストに向けて一歩踏み出した。

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