Attack On Titan


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ラブソングをキミに


「リヴァイ兵士長」 4


「第56回、壁外調査を開始する。全員進めっ!!」


コニーと別れてから少し経ったある日。
第56回壁外調査が行われた。
トロスト区壁門が大きな音を立てて開門され、一斉に馬が駆け出した。
…後になってこの時のことを思い返したら、馬たちが響き渡らせていた蹄の音はまるで、これから始まる絶望へのファンファーレだったのかも、しれない。


「じゃあフィーナ。そっちを頼む。」
「はい。」


遠征1日目。
私たちの班は、夜の見張り当番に振り当てられていた。
ミケさんの指示で、かつて人が住んでいたであろう建物の屋根の上に登り、見張りを始める。
……と、言っても、これだけの暗闇。
目で見る見張りではなく、耳で聞く見張りをしているため、もっぱら夜の見張り時は屋根の上に座り、ぼーっと空を眺めていることが多かった。
今日も、星が瞬く、綺麗な夜だ。


「おい、巨人は空から降ってなんか来ねぇぞ。」
「…リヴァイ、さん…。」


星空を眺めていると、突然後ろからリヴァイさんの声が聞こえた。


「ど、どう、したんです、か…?」
「エルヴィンからの伝言だ。」
「え?エルヴィンさん?」
「…お前の弟、無事8位で訓練修了だそうだ。」


そう言いながら、私の隣にやってきたリヴァイさん。
遠征前日の昨日、キース教官からエルヴィンさんの元に書簡が届いたらしい。
それをリヴァイさんは私に伝えてきた。


「上位10人から落ちて、のこのこうちにやって来た暁には俺が躾てやろうと思ってたのに残念だな。」
「ダメですよ。憲兵団に入るのは、コニーの夢だったんだから。」
「………あぁ、そう言えばそうだったな。憲兵になって姉ちゃんに内地の男を紹介するとか言う大層な夢を持ってたな。」


野営地中央に焚かれている燃え上がる炎の灯りでリヴァイさんの表情は、はっきりとは見えずにいた。


「…そ、れを、言うた、に?」
「…………」


わざわざ屋根の上に登って来たんですか?と言う言葉は飲み込んだ私に対して、リヴァイさんはその問いには答えず、顔を逸した。


−…どう考えても、まだ見ぬ『内地の男』たちに嫉妬したとしか、思えないから−


あれは、いつだっただろう…。
エルドさんが言った言葉。
あの頃の私は、リヴァイさんが嫉妬なんて、って、思っていたけど…。


「…何笑ってやがる?」
「す、すみません。…時が経つのが早いなぁ、って、思って、」
「はぁ?」


今あの頃を思い返すと、どこか擽ったい気がする…。


「だって、そう思いません?コニーが訓練兵になるためにラガコ村から出て来て、食堂で『姉ちゃんに内地の男を紹介するんだー』って、叫んだのが昨日のことのようなのに、あれがもう3年も前なんですよ?」
「お前はババァか?年寄り臭ぇこと言ってんじゃねぇ。」


そう言ってリヴァイさんは大きなため息を吐いた。
………私より、年上な、三十路の「おじさん」に、年寄り臭いって言われた………。


「……俺はそれより、」
「…」
「お前がうちに入団してからもう5年も経つのかと思うがな。」


私がさっきの言葉に打ちひしがられていると、どこか感慨深げにリヴァイさんが言った。


「お前が入団直前に脱走するんじゃねぇかと思ったのがもう5年も前の話だ。」
「…だから、別に脱走しようとしたわけじゃ、」
「結局、」
「はい?」
「…この5年でお前に本当の意味での『壁外』を見せてやれたのは最初の1回だけだったな。」


−こんな『籠の中』の空じゃなく、どこまでも続く空のことだ−


「…そう言えば、」
「あ?」
「…5年前も、こんな綺麗な、星空でしたね…。」
「………あぁ、そうだったな。」


リヴァイさんと2人、闇夜に瞬く幾千の星々を見上げた。




「ほ、ほんとだったのか…!」
「だーからさっきから俺が言ってるだろ?フィーナは兵長の恋人なんだ、って!」
「へ、兵長が!!こんな暗闇の中、フィーナと逢びがぶっ!!」
「オルオ汚い!…だからオルオにはずっと言ってたでしょ?」
「いやでもまさかそんな信じられない!」
「グンタ、お前いい加減目の前で起こってる出来事を認めろよ…。」
「そ、そもそも、エルドならまだしも何故ぺトラが知ってるんだ!?」
「え?私?…だってどこからどう見てもそうだからでしょ?」
「…フッ!まぁ俺はグンタと違って気づいてはいたがな…。」
「オルオ煩い。…私はエルドがいつから知ってるのか、ってことの方が気になるけど?」
「俺?俺はまぁ…、入団した時から?」
「えっ!?あの2人そんな前からなのか!?」
「…グンタ、お前、本当に気付かなかったんだな…。はっきり聞いたわけじゃないけど、少なくとも俺が入った時はもうそういう関係だったんじゃないか?」
「し、知らなかった…。」
「…でもさ、同じ兵団内においての『そういうこと』って、あまりよく思われないんじゃないの?それでもそんなに続いてるってすごいね。」
「…あぁ、お前らは知らねぇからな…。」
「知らないって何を?」
「フィーナが怪我した遠征の時のことさ。」
「…そう言えば、あの頃から既にエルドは兵長の班だったな?」
「あぁ。…だから『あの日』も一緒にいたけど…。後にも先にも、あんな超人プレイ見たことねぇよ。」
「超人プレイ…?」
「…俺たちはフィーナの班のすぐ左に位置していたんだが、そこら中から赤や黒の煙弾が上がり始めた時、すぐ右側から紫の煙弾が上がったんだ。だけど陣形の指示は左翼側への移動だった。…だから兵長は俺たちに先に進めと、1人右翼側、紫の煙弾が上がった方へ行ったんだよ。」
「1人で行ったのか!?」
「さすがにそれは出来ないから、俺ともう1人、兵長の後について右翼側に向かったんだ。そこにいたのは今にも巨人に食われそうになってる兵士とネス班長。すぐさま援護に回って討伐するけど、どこを見てもフィーナはいないし、ネス班長は食われそうになった兵士の手当で聞くどころじゃない。その時、もう1度…本隊が進んだ方向とは別の方向から紫の煙弾が上がったんだ。俺たちは初列索敵だったから、俺たちより前はいない。じゃあ誰か、なんて、すぐ想像がついた。」
「その煙弾が、フィーナ?」
「…その時は確証はなかったけどな。でも兵長もすぐそう思ったのか、煙弾が上がった、と思った瞬間、馬で駆け出していた。…元々、戦闘能力ってのがずば抜けて秀でてる人ではあったけど、『あの時』のあの馬術は、今にして思えば、よく見失わずについて行けたよなって思うほど、とんでもない速度でさ。」
「でも、怪我をした、ってことは間に合わなかった…?」
「…あぁ。俺が目視で確認出来るまで近づいた時は、ちょうどフィーナが巨人の口の中に放り込まれた瞬間だった。…その直後だよ、兵長の超人プレイを見たのは!」
「何したの?」
「あの人、それまで自分が乗っていた馬を踏み台に蹴り飛ばして、巨人の顔にアンカーを刺してあっという間に自分も口の中に入って行ったんだよ!」
「き、巨人の口の中に入ったのか!?」
「あぁ!あまりにもあっという間の出来事で俺ももう1人も全く身動きが取れなかった。でも次の瞬間、巨人が呻き声をあげたと思ったらフィーナと、もう1人兵士が噴水のような勢いで口の中から飛び出してきて、最後にご丁寧にも巨人の顔を真っ二つにして兵長が飛び出てきて2人を空中キャッチ。信じられるか?巨人の口の中にまで入ったのに、無傷で、しかも2人も兵士を担いで出てきたんだぜ?」
「…お前らレベルじゃ無理だろうが、兵長ならそれぐらい当たりま」
「オルオ黙って!…でもそれだと逆に規律の乱れに繋がる話じゃない?だって本隊の指示とは逆に動いたんでしょ?」
「…あの2人が『そういう仲』でも特に何も言われないのはその後のことがあったからだな。」
「その後って?」
「兵長が担いできたフィーナは、俺が見てもわかるほど全身血まみれ、ぱっくり裂けてる頭は骨が見えてるような気もしたし、何より足はおかしな方向に曲がってたし!『動かしてはマズイ』状態なのは一目瞭然だった。でも兵長は平然と馬に乗って本隊にいる救護班のところに連れて行こうとした。」
「…応急手当なしで?」
「あぁ!俺が今ここで応急手当をして救護班の到着を待とうと提案したけど却下されてね。曰く『エルヴィンがわざわざ救護班を寄越すわけがない』だそうで。…まぁ、冷静に考えばそもそも指示に背いて行動した兵長に対して、団長が救護班を向かわせる可能性は薄いと、俺も思うしな。だから今すぐ連れて行くって判断をしたんだろうが…、」
「…何?」
「…せめて止血して、その足に添え木でもしないとそれ以上大変なことになったら最悪義足になりかねない、と進言したんだがあの人が言った言葉はこう!『血は巨人の唾液がこべりついて止まったようだし、生きてりゃ多少手足が無かろうが問題ない。それよりも雨が降り完全に見失う前に本隊に合流することが先だ』ってね!」
「…た、多少、手足が、」
「無かったら問題だろう…。」
「だろう?でも兵長にとってはそうでもないらしい。自分の恋人だろうがなんだろうが起こってしまった事象に関して取り乱すこともなく、常に冷静に先を見ることができる。…それにフィーナもフィーナで…。」
「フィーナも、何?」
「…寝たきりで救護班の荷台に乗って壁内へ向かう時、言ったんだよ。『巨人に追いつかれそうになったら荷台を切り離してくれ』って、俺たちがいる前で上官である兵長に。」
「…それ、って、」
「あぁ。自分を囮にして逃げろってことだ。…咄嗟の判断の時、エルヴィン団長ならあるいはその決断が出来るかもしれない。でも普通は言えねぇだろ、寝たきりの状態で自分を捨てていけなんて。上官であるとは言え、自分の恋人にそんなこと…。その覚悟も、すぐには出来ねぇだろうし、な…。」
「…」
「…だけど『あの時』2人の兵士としての覚悟とでも言うのかな?あれを見た奴らは、誰も規律がなんだなんて言ったりしねぇよ。兵長もフィーナも、公私を混同したりしない。壁外において『恋人だから』と言う甘えがお互いにない。…だから遠征中に『あぁいう現場』を見ても、誰も何も言わねぇんじゃねぇか?」
「…………やっぱり、」
「うん?どうしたぺトラ?」
「『絶対的ヒーロー』だなぁ、兵長は…。」
「どういうことだ?」
「…兵長も、フィーナも、カッコいいなぁ、ってこと!」
「なんだぺトラ?兵長たちが羨ましいのか?そんなに羨ましいなら俺が」
「黙れオルオ。だいたい何その喋り方!似合わない!」
「おいおい、俺の言動まで監視したいだなんてどういう了見だ?お前はいつから俺の恋人に」
「舌噛み切って死ねばいいのに。」
「…兵長、戻って来ねぇみたいだし、俺たちもテントに戻るか…。」
「あ、あぁ…。…それにしても未だ信じられん…。」
「まぁ…、そういう純粋なところはグンタの良いところだけどな…。」




とても平和な夜だった。
ここがまだ「籠の中」なのだとは感じられないほど、星たちが瞬く、綺麗な夜だった。
そしてこれから起こる深い悲しみの前に、リヴァイさんと2人、ゆっくりと星を眺めることの出来た最後の夜だった。

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