Attack On Titan


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ラブソングをキミに


「リヴァイ兵士長」 1


西暦850年。
…エルヴィン・スミス団長、リヴァイ兵士長はじめ各分隊長、そしてその他一部の一般兵にのみ、「イルゼ・ラングナーの手記」と「知的巨人の存在」が伝えられた。
私の他には、生態調査を担当するハンジ・ゾエ分隊長の隊所属の一部兵士に伝えられたようだった。


「フィーナ!あなたの見解は?」
「…特に、違いは感じられません。」
「だよねぇ…。」
「分隊長、自分もコイツに知性があるとは感じられません。」


そして私は、当初聞いていたように、直接的捕獲作戦からは外され捕獲後の生態調査への協力をすることになった。


「やっぱり今回も言語を介し交流を持つことは出来ないかぁ…。」


生態調査中、ポツリ、と漏らすようにハンジさんが言った。


「…言語?巨人が人類の言葉を喋る、って、ことですか…?」


その言葉に驚いてハンジさんに問うと、今度はハンジさんが驚いた顔で私を見てきた。


「聞いてないのかい?」
「…私はただ『知性のある巨人の存在の可能性』を聞いただけでそこまでは…。」
「それはまた、中途半端な情報貰ったねぇ…。いいかい、フィーナ。『イルゼの手帳』には、意味のある言語を話し、イルゼ自身に跪いたと書かれていた。」
「……跪いた?巨人が?」
「あぁ!…それがどういう意味を有するのかは、謎だけどね。…書かれていた文はこう。『…ユ」
「フィーナ!ここにいたか!」
「ゲルガーさん!」


ハンジさんが口を開いた瞬間、ゲルガーさんがやってきた。


「あっちでエルヴィンが呼んでる。」
「え?」


あっち、と、親指で指し示したゲルガーさん。


「あ、じ、じゃあ、ハンジさん、」
「あー、うんうん!こっちは大丈夫だから行ってきて!」


そういうハンジさんに、ペコリと一礼してエルヴィンさんの元へと向かった。




「なぁ、ハンジ。」
「んー?なんだい、ゲルガー。」
「お前ら何やってんの?」
「………」
「ただの生態調査じゃあ、ねぇよな?ただの調査に班どころか、隊の違うフィーナが駆り出されるわけねぇし。」
「………」
「ま、エルヴィンの命令だろうし?答えるわけねぇとは思ったけど。」
「…これは今後の私たち調査兵のみならず、人類にとっても絶対的に必要な情報、調査なんだ。」
「それに参加どころか計画内容すら知らされねぇ、調査兵の気持ちがお前にわかるか?」
「……ごめん。」
「…冗談だ。んな顔すんな。…ただ、」
「うん?」
「そういう状況下でやってんだ。何してるか知らねぇがヘマやらかしたらタダじゃおかねぇぞ。」
「…わかってる。できることはするよ。」
「おーぅ。頑張れメガネ。」




「失礼します!…エルヴィンさんが呼んでいると聞いて、」
「来たか。」


エルヴィンさんは団長待機所にいた。
私が建物の中に入ると、手で人払いが行われ、その場には私とエルヴィンさんのみになった。


「生態調査の方は順調か?」
「…いえ、変わりありません。」
「そうか。」


エルヴィンさんがそれまで見ていた書類を丸めて、…まるで私に隠すような仕草を見せた。


「やはり早々に見つからないものだな。」
「…」
「そこで当面、君を本来の仕事に戻そうと思う。」
「…ミケさんの班での見張り、ですか?」
「そうだ。」


その方が君の耳が役に立つ、とエルヴィンさんは言う。


「わかりました。」
「すまないね、たびたび。」
「いえ。」


それが「上官命令」なのだから、つまりは絶対的言葉であり、それに一般兵は従うだけだ。


「あぁ、それからもう1つ。」
「はい?」


一礼してエルヴィンさんの元を離れようとした私を、エルヴィンさんは呼び止めた。


「104期訓練兵の入団がまもなくだが…、君が言っていた通り、ミカサ・アッカーマンは、」
「はい。先日も会いましたが、調査兵団を希望してます。」
「そうか。」


楽しみだ、と呟くようにエルヴィンさんが言った。
今回の遠征前にコニーに会いに行った時、エレン、ミカサ、アルミンとも話をしてきた。
今のままの成績で修了できるのであれば、コニーは憲兵団を、そしてエレン、ミカサ、アルミンはやっぱり、調査兵団を希望すると言っていた。
…訓練と実戦は違う。
だけど、「この」エルヴィンさんですら注視しているミカサは、きっとうちでも即戦力、それこそリヴァイ班にだって入れる逸材じゃないかと思う。


「フィーナ。」
「はい?」


名前を呼ばれてエルヴィンさんの顔を見上げると、


「…君には、今我々がしていることはどう映っている?」
「え…?」
「君のその耳で聞き分けられるほど、知性を有した巨人は本当にいると思うか?」


エルヴィンさんはひどく真剣な顔をしていた。


「私にはわかりません。」
「…そうか。」
「…でも、」
「うん?」
「今でもたまに思うんです。」
「何を?」
「……あの日、シガンシナに開いた大穴の場所。」
「………」
「あれは本当に、偶然だったんでしょうか?」


シガンシナ、そしてウォール・ローゼに開いた大穴は、たまたま壁門に位置する場所だった。
「だから」壊されたのだ、と、「だから」壁自体は安全なのだ、と言う見方もあるけど…、本当にそうなのか…。
偶然でないのであれば、あの日現れ壁を壊したとされる超大型巨人や、鎧の巨人は、知性があり、かつ、壁の弱点を知っていたんじゃないか、って…。


「リヴァイが昔言ってたんだが…。」
「はい?」


突然エルヴィンさんが出した名前に、思わず声が裏返った。


「君は物事をマイナスに捉えすぎる、と。そこが君の欠点だと言っていた。」
「……」
「だが私にはそれは長所に見える。」
「え…?」


エルヴィンさんは、そのガラス玉のような目を、少しだけ細めた。


「この世は弱肉強食。強き者が生き残る。」
「…はい。」
「ならば、弱き者はいかにして生き残るか…。」
「…」
「答えは簡単だ。臆病になること。」
「…臆病、です、か…?」
「あぁ。…臆病になるということは一概に短所ではないと私は思う。物事に対してそれだけ『最悪の事態』を想定出来ると言うことなのだから。」
「…」
「先ほどの話、私も、そしてハンジもだが、君と同意見だ。」
「え?」
「…あの大穴を開けた巨人は、壁の弱点を知っていたと考えている。」
「……」
「我々が直接目にしていないのが確証に欠けるところではあるが…、だが少なくともこの2体は他の巨人と何らかの違いを有していると考えている。」
「…はい。」


そこまで言うとエルヴィンさんは1つ息を吸った。


「私も臆病だからね。常に最悪のケースを想定している。」
「…」
「この場合の最悪のケース、それはその2体、そしてイルゼ・ラングナーが遭遇した1体以外にも、個々の能力に差はあれど知性を有した巨人が次々に現れることだ。」
「…はい。」
「知性巨人と、通常の巨人、その違いは何か…。突然変異なのか、それとも何らかの事由で知性を有するのか…、我々は知る必要がある。」
「はい。」
「どんな些細なことでも、何か気づいたらすぐに報告してくれ。」
「…はい。」
「臆病な君の小さな気づきは、信用している。」


そう言ってエルヴィンさんは微かに微笑んだ気がした。
…臆病であること…。
と、いう、か、エルヴィンさんが「臆病」の括りに入ってしまったら、人類の大部分が「臆病」になると思う…。
エルヴィンさんのあれは臆病なのではなく…。


「フィーナ、戻ってきたのか?」
「ミケさん…。はい、今さっきエルヴィンさんからここに戻るようにと、」
「そうか…。ではお前はそっちの、」


いつもと変わらず、どこまでも続く蒼天なのに…。
少しずつ、少しずつ。
何かが動き、変わっていく。
そんな予兆めいた想いを抱いてしまう私は本当に、臆病なんだと思う。
どうかこの言い知れぬ不安が早くなくなりますように、って、心のどこかで祈っていた。

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