Attack On Titan


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ラブソングをキミに


イルゼ・ラングナーの手記 5


「あぁ、フィーナ終わったか。」
「ミケさん、エルヴィンさんからの伝言で『合格だ』だ、そうです。」
「そうか…。」


エルヴィンさんからの伝言を聞いたミケさんは、本当にその言葉だけで伝わったようだった。


「フィーナ。」
「はい?」
「…イルゼ・ラングナーは覚えているか?」


今日の任務(ミケさんの報告書の手伝い)にかかろうと思った時、ミケさんが声をかけてきた。
…イルゼさん、と言ったら、以前、リヴァイさんと一緒に部屋にいた女兵士で、


「去年の遠征で、行方不明になった方、ですよ、ね?」
「あぁ、そうだ。」


昨年行われた第34回壁外調査で、行方がわからなくなった兵士だった…。


「そのイルゼ・ラングナーが見つかった。」
「…え!?」


唐突にミケさんが出したイルゼさんの名前にただですら驚いていたのに、さらに驚くべきことに、行方不明になっていたイルゼさんが見つかった、と、ミケさんは言ってきた。


「ど、どこにいたんですか!?」
「…今回の野営地近くの森の中だ。」


その言葉に、あの日、リヴァイさんが抱えていた布袋が頭を過ぎった。


「じゃあイルゼさんは、」
「あぁ、腕章をつけた遺体が発見された。」
「…そう、です、か…。」


ならば、あの時の布袋の中には、イルゼさんの遺体が…。


「ただここからが問題になっている。」
「はい?」
「イルゼ・ラングナーは、『何者か』に埋葬でもされたかのように、木の中に遺体を安置されていたらしい。」
「…え?」


ミケさんは、周囲に人がいないことを確認した上で話を続けた。


「あの場所に置いた『何者か』、考えられる可能性の中で我々は1つの結論を出した。」
「…」
「あの日、あの森でリヴァイ班が討伐した巨人には知性があり、意図的にイルゼ・ラングナーを埋葬した、と言うものだ。」


ミケさんはそう言うと、ジッ、と私の反応を確認するかのように見下ろしてきた。
………「意図的」に「埋葬」…?
そんな馬鹿な…。
だって…。


「い、」
「うん?」
「いま、まで、そんな巨人、遭遇しなかったじゃ、ないです、か…。」
「…だからこそ、問題になっているんだ。証言は戦死したイルゼの手記のみ。今生きている人間の誰1人、知性を有しかつ意味ある行動を取った可能性のある巨人を、またそれらしい行動をしている様を目撃していない。」
「…」
「だが…、イルゼのあの手記に嘘があるとは、到底思えない。」


ミケさんが、その手記の内容まで言うことはなかった。
ただこのことに関して「今後の巨人生態調査の方針が変わるであろう」ことそして、「他言無用である」ことと言った。


「なら、」
「なんだ?」
「…なら、どうして、私に言うんです、か?」


恐らく、ミケさんがそれを聞いたのは、あの日の夜、エルヴィンさんの待機所に幹部が集まった時だろう。
一般兵には近寄ることすら許されなかった、話し合いの場で…。


「エルヴィンが言ったはずだ。」
「え?」
「お前は『合格だ』と。」
「………え?」


ミケさんが遠くで、別の班の班員が訓練している様を目を細めて眺めた。


「もし本当に巨人に知性と言うものが備わっていてかつ意味ある行動が取れるとなったら、壁内は恐怖に陥るだろう。」
「…はい。」
「だからこの情報を共有出来るのは一部の人間のみと言うことになった。」
「…」
「だが仮に、その知性巨人だと事前に把握できる者がいたとしたら、」
「事実を伝え、『次の接触』に備える…。」
「そうだ。」


『だから』エルヴィンさんは…。


「エルヴィンが合格と言ったからには、何かしらの変化に気づいたと言うことだろう?」
「…そ、んな、大したこと、じゃ、」
「だが『今』はそれに縋るしかない。」


これからはハンジの生態調査に駆り出されるかもしれないと思ってくれ、と、ミケさんは私の肩を軽く叩いて去っていった。
………知性がある、巨人の、可能性…。


「今日、」
「あ?」
「…イルゼさんの話を聞きました。」


部屋に戻った後、何をするでもなく、ベッドに腰を下ろしていた私は、お風呂から戻ってきてお酒を飲み始めたリヴァイさんにポツリポツリと話始めた。
私の言葉にリヴァイさんは、あぁ、とだけ言った。


「リ、ヴァイ、さん、は、」
「なんだ?」
「どう、思います、か?」
「…何が?」
「…本当に、意味ある行動をとる巨人なんて、存在、するんでしょう、か…。」
「………」
「…人が、進化するように、…巨人も進化して、知性を、つけていってるんでしょう、か…。」
「…さぁな。」


コトン、と、リヴァイさんはお酒の入ったグラスをテーブルに置いた。


「…イルゼさん、」
「あ?」
「…怖かった、です、よね…。」
「………」


イルゼさんが残した手記の内容は、私にはわからないけど…。
たった1人、ただひたすらに壁を目指すだなんて…。


「イルゼの手帳にお前のことも書いてあったぞ。」
「え?」


リヴァイさんが、自分のグラスにトクトクと、お酒を注ぎ始めた。


「壁外での行動記録とは別に…、最期の別れとでも言うように、手帳の後ろに各兵士に向け言葉を残していた。」
「…」
「そこにお前の名前もあった。」


お酒を注ぎ終わり、キュッ、と、瓶の蓋を閉めながらリヴァイさんは言った。


「な、んて、書いて、あったんです…?」


コト、っとお酒の入った瓶をテーブルに置いた後、私を見てリヴァイさんは口を開いた。


「『フィーナさん あの時はすみませんでした。可愛らしいスノードームがあったお店、教えて貰いたかったです』…だ、そうだ。」


リヴァイさんが淡々と話した言葉に、視界が滲んできた。
イルゼさんが私に向けて謝罪するような「あの時」なんて、1つしかない。
イルゼさんとは元々班が違ったことと、何よりあの翌日には訓練兵団へと戻っていった私とは交流する機会がなく、時は流れて私が調査兵団に復帰した後もそのことについては触れることないまま、イルゼさんは行方不明になった。
…でもずっと、あの日、驚いて部屋を飛び出した私のこと、気にしていてくれたんだ…。


「リヴァイさん、は?」
「あ?」


涙を見せないようにと、ベッドの上で膝を抱えて呟いた私の声はすでに、いつもとは違う声色だった…。


「何か、書かれていました、か?」
「…あぁ、俺は『兵長 もっと素直にならなければ嫌われますよ』だと。余計なお世話だ。」


その言葉に顔を上げると、リヴァイさんは心底納得いかないような顔(と言っても無表情ながらに、だけど)で、グラスを傾けていた。


「…『素直にならなければ嫌われますよ』?」
「………あ゛?」
「なんて、部下に言われてどうするんですか。」


そう言った私に近寄ってきたかと思ったら、入浴後、髪を拭くために使っていたタオルをおもむろに私の顔に押し当ててきた。


「汚ぇな、鼻水垂らしたまま喋るな。」
「…べ、つ、に、垂らしてなんか、」
「泣くか笑うかどっちかにしろ。」


グリグリと、タオルを私の顔に押し当てるリヴァイさんの手首を、静止させるように掴んだ。


「今回も、」
「あ?」
「…箱の中に、しまったんですか?団服の紋章…。」
「………あぁ。」


最初に気づいたのは、いつだっただろう…。
元々綺麗好きな人だったけど、その箱が置かれていた一角だけは、他の家具さえなく一際綺麗に整頓されていた。
なんだろうと開けてみたら、数え切れないほどの、団服に使用された調査兵団の紋章が出てきた。
擦り切れたもの、血がついたもの、様々で、…なんとなく、リヴァイさん本人にあれがなんなのか、直接聞くことが出来ずにいた。
でも…。
いつかの遠征で、その理由がわかった。
リヴァイさんは、戦死した兵士の団服から紋章を切り離し、持ち帰ってはその箱の中にしまっていた。
それはまるで、1枚1枚、…ううん、1人1人、亡くなっていった兵士全ての想いを、たった1人で背負いこむための儀式のような光景だった…。


「…いつか、」
「あ?」
「私の紋章も、入るんでしょう、ね。」
「…………」


リヴァイさんは、決して私に話さない。
「他言無用」と言う「団長命令」であるならば、兵士として、まして「兵士長」としてそれは至極当然のことだ。
だけど…。
「兵士」じゃない「あなた」の想いは…?
今回のことだって、そうだ。
たまたま今回はエルヴィンさんのGOサインが出たから、私が知ることが出来た。
だから、今こうして、その話をしている。
…でも、私が「合格」しなかったら?
リヴァイさんは、イルゼさんが私に残した想いすらも、1人、背負いこんだんじゃ、ないだろうか…。
後になってからこの頃を振り返った時。
もしかたら私は、…「私たち」は、この頃から、何かが少しずつ、…それはたぶん、悪い方へと、動き出していったのかもしれないと思うけど…。
この時はそんなこと、気づくはずもなく、与えられたリヴァイさんからの唇の温もりを、ただ黙って受け入れていた。

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