Attack On Titan


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ラブソングをキミに


イルゼ・ラングナーの手記 4


「じゃあフィーナ。」
「はい。」
「そっち側で見張りを頼む。俺も後しばらくはここにいる。」
「はい!」


850年に入り、最初の壁外遠征が行われた。
エルヴィンさんが私をミケさんの班にしている最大の理由。
それは、「ミケさんと共に野営地周辺の見張り役にするため」なんだと思う。
特に今回の、すぐ近くに見晴らしの悪い森があるような野営地では、視覚以外での巨人の存在を確認する術が、被害を最小限に食い止めるために不可欠なわけで…。
ウォール・マリア陥落前に居住区として使われていた建物の屋根の上に森から向かって右側にミケさん、左側に私と、見張りをすることになった。
もちろん私たちにも休憩は必要なので全時間帯における見張りではないものの、概ねミケさんと交替で左右に分かれて見張っていた(ちなみにゲルガーさんは元々ミケさんの分隊の兵士で以前の遠征で班員がほぼ全滅したため今はミケさんの班員になっているようだ)
今日、良い天気だなぁ…、なんて。
あまりにも静かな野営地の建物の上で、どうでもいい事を考えていた時、


ドシー…ン……


遠く森の向こうから、「その音」が聞こえた。
私が持っていた信号弾を空中に向かって撃ち込んだとほぼ同時に、ミケさんも信号弾を撃ちあげた。


「…え?ハンジさん!?」


その信号弾を見たであろうハンジさんが森の方へと馬で1人、駆けていった。
その数拍後、リヴァイさんが、リヴァイ班の面々を引き連れ森へと入っていった。
…………リヴァイさんたちが一緒なら、大丈夫だろうけど…。
1人で森に突っ込むなんて、危険すぎる。
後できっと、エルヴィンさんから厳重に注意されるだろう、と思っていた。
…だけど…。


「あ、れ…?」


それから暫くして、リヴァイ班と共に野営地に戻ってきたハンジさんはすぐさまエルヴィンさんの元へ向かった。
その直後、慌ただしく野営地が動き出し、エルヴィンさん自らが馬に乗り、ハンジさんやリヴァイ班共々再び森の中へ向かっていった。
……なに、か、あったんだ…。
森の中で…。
少しずつ、ざわりざわりとしてくる心を抑えて、見張りを続けた。
どのくらい時間が経過したのか…、日もすっかり傾いてきた頃、大きな布袋に包まれた「何か」を馬に乗せたリヴァイさんを護衛するかのように陣形を展開させ、みんなが野営地に戻ってきた。
でも…。


「お前ら何持って帰ってきたんだ?」
「…………」


1度森に入り、戻ってきた面々は一切口を開かなかった。
…だから正確なところはわからなかったけど、リヴァイさんが持ち帰った大きな布袋。
あれは遺体の損傷が激しい時に、遺体を収容するための袋。
………つまり、誰かの遺体を、見つけたんだ…、森の中で…。
それが誰の遺体なのか、なぜみんな口を閉ざしているのかわからないけど、それがエルヴィンさんの指示故のことなんだろうと、誰もそれ以上、追求することはなかった。
そしてその日の夜、エルヴィンさんの待機所として指定された建物に、リヴァイさんを始め各分隊長が招集され話し合いが行われた。
私をはじめとする一般兵は、その建物に「緊急時以外近づくことを禁ずる」と前もって通達されたから、よほど「予期せぬ出来事」が、あったんだと思った。


「おはようございます、団長!」
「あぁ、おはよう。」


けど翌日には、エルヴィンさんは至って普通の「壁外での団長」であり、


「兵長、おはようございます!」
「………あぁ。」


リヴァイさんも至って普通の朝の挨拶を一般兵に返していた。


「予定より早いが、これより壁内への帰還を目指す。」


結局、誰が見つかり、何が起こり、何が話し合われたのか…。
私たち一般兵への報告はないまま、リヴァイさんが森から遺体を持ち帰った翌々日、壁内帰還を目指すこととなった。
そして、壁内へと帰還した翌日、


「入れ。」
「はっ!失礼します。」
「あぁ、フィーナか。わざわざ悪いね。…君にも確認しておきたいことがあってね。」


エルヴィンさんが呼んでいる、と、ミケさんに言われ、エルヴィンさんの執務室を訪れた。


「確認したいこと、ですか?」
「あぁ。まぁ、適当に座ってくれ。」


エルヴィンさんは柔らかに微笑みながら、目の前の椅子に座るように促してきた。
………何を聞かれるかはわからないけど、これは「確認」ではなく、「尋問」なのではないだろうか……。


「君に確認したいことは1つ。ハンジとリヴァイ班が森に入った日のことは覚えているね?」
「はい。」
「あの日、君はミケとほぼ同時に信号弾を撃った。それは間違いないね?」
「はい。」
「その時、何か気づいたことはあったかい?」


私の目の前に来たエルヴィンさんの目は、ガラス玉のように綺麗で、目に見えるもの、見えないもの含め、何もかもを映し出そうとしているかのようだった。


「気づいた、こと、です、か?」
「あぁ。なんでも良い。例え小さなことでも、いつもと違った点があったならあげてほしい。」


そう言われて、あの時のことを思い返す。
あの日は青空が綺麗で、いつも以上に静かで、聞こえた音も…あ!


「探し物、」
「うん?」
「…探し物、しているような…、そんな、足音でした。」


私の言葉に、エルヴィンさんが目を細めた。


「『探し物』?」
「はい。なん、て、言うか…、巨人は人を捕食する場合を除いては目的なくふらふらと行動しますが、私たちも例えばこの部屋で、万年筆を見失ったとして、こう…、キョロキョロと屈んだり、立ち止まったりして探すじゃないですか、」
「あぁ。」
「それと同じで、先日の巨人も、たまたま1体のみだったのでよく聞こえたんですが、ふらふらと歩いてるのとは別に、こう…、なん、て、言うか…、」
「目的があって行動していたかのように聞こえた?」
「は、はい。気の、せい、だと、は、思うんです、が、」
「………」
「他の巨人、とは、微妙に違ったように、感じまし、た。」


エルヴィンさんは私の言葉を聞き、1度目を閉じ、大きく息を吸った。


「わかった、もういいよ。時間を取らせて済まなかったね。」
「あ、いえ…。」


結局その問いかけがどういう意味を持つものだったのかに関して触れることなく、エルヴィンさんは私に退室を促してきた。
席を立ち、ドアに向かう途中、


「フィーナ。」


エルヴィンさんに呼び止められた。


「はい。」
「ミケに伝えてくれ『合格だ』と。」
「…合格、です、か…?」
「あぁ。そう言えばわかる。」
「は、あ…?」


エルヴィンさんに謎の言葉をもらい、足早にミケさんがいるところに戻った。

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