Attack On Titan


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ラブソングをキミに


イルゼ・ラングナーの手記 3


「おい、エルド。」
「ゲルガーさん、また書類ですか?」
「…今日のリヴァイはどうだ?」
「え?あ、あぁ、フィーナが上手くやってくれたみたいで至って普通でしたよ?」
「…………お前今日フィーナの首見たか?」
「え?首?いや、見てないっていうか、今日まだ会ってないですから。どうかしたんですか?」
「………でっけぇ、絆創膏貼ってんだよ、ここに。」
「…………それって、」
「おい、アイツいくつだ?おかしいだろ?ガキじゃねぇんだから、つけねぇだろそんな見えるところに!!」
「まぁ………、それで万事丸く収まったなら俺はもうなんでもいいです。」
「お前は良くても、同じ班の俺はチラチラと見えるでっけぇ絆創膏が気になってだなぁ!!!」
「俺はそれより、ゲルガーさんに近づいて来てるミケ分隊長が気になります…。」
「はっ!!?」
「ゲルガー、だからお前、隙あらばサボろうとするなと何度言えば、」
「いやミケこれには理由が!!」
「それは後で聞いてやる。とりあえずお前がサボってばかりだと俺がエルヴィンに怒鳴られるんだ来い。」
「ち、ちょっ、痛ぇって!!ミケッ!!!」
「(…ミケ分隊長の班員じゃなくて良かった…)」




リヴァイさんに血が出るほど歯型をつけられた痕は一晩で消えるわけもなく、かと言って微妙にスカーフで隠れるような位置でもなかったため、すっごい躊躇したけど、絆創膏を貼った。
…しかも普通サイズだと痕が全部隠れないから大判のサイズを貼った。
それを見たリヴァイさんに鼻で笑われながら、その日は過ごした。


「…あれ?リコちゃん?」


それから数日後の休暇日の今日。
トロスト区にやってきた。
特に何があったわけでもないけど、たまには1人でフラフラと歩いてみようかな、って思って来たわけだけど、そこで仕事中のリコちゃんと遭遇した。
…まぁ…、リコちゃんは南地区防衛担当だから全く不思議じゃないんだけどね…。


「フィーナ!私服って、今日休み?」
「うん。だから1人でふらふらと…。」
「ふぅん…。」
「リコ!…と、話し中、か?あれ?君は確か調査兵の?」


リコちゃんと話していたら、駐屯兵団の兵服を着た人が近づいてきた。
その人にペコリ、と頭を下げた。


「フィーナ・スプリンガーです。」
「そうそう。確かこの間会った、リコの親友でエルヴィン団長に目をかけられている、」
「厳密には口の悪いチビの方にだけど。」
「…『口の悪いチビ』?リヴァイ兵士長のことか?」


リコちゃんが相変わらずの口調で答える。
………でも、その顔はどこか、嬉しそうな気がする。


「え、えぇっと、以前お会いしたことのある、」
「あぁ、自己紹介してなかったか。イアンだ。イアン・ディートリッヒ。」


−この前フィーナがうちに報告書を持ってきた時近くにいた奴で、名前は、イアン・ディートリッヒ−


あぁ、やっぱり。
それがその時の率直な感想だった。


「お仕事中にすみません…。」
「あぁ、いいんだ。うちは調査兵より日々の仕事も緩いからな。今日は休暇?」
「はい。」


そうか、とイアンさんは頷きながら言った。


「…だからってお前はサボるなよ?班長。」
「誰もサボってないでしょ?」


そうか、と、イアンさんは今度は微笑みながら言った。


「各班に通達せよ、とのキッツ隊長からの伝令だ。…じゃあ、フィーナ良い休暇を。」


そう言い手に持っていた書類をリコちゃんに渡してイアンさんは帰っていった。


「…………」
「…………」
「…………」
「……言いたいことあるなら何とか言ったらどうだ!?」


去っていったイアンさんの後ろ姿を黙って眺めていたら、突然リコちゃんが叫びだした。


「……背、高い人だね。」
「………」


私の言葉にリコちゃんが呆れた顔をしたのがわかった。


「あの男よりもチビな奴だとでも思ってた?」
「そう、いう、わけじゃない、けど…。でも、」
「何?」
「…リコちゃん、話し方変わってきたなぁ、とは思った。」
「………………」


ほんの数言、イアンさんと会話をしていたリコちゃんを見ただけだけど。
3年間、同じ部屋で寝起きし、毎晩語り合っていたリコちゃんの微妙な違いなんて、すぐに気がついた。


「悪かったな、気持ち悪くて。」
「え?気持ち悪いことなんてないんじゃない?」
「……べつに、」
「うん?」
「意識して変えてるわけじゃ、ないんだけど…。」
「…うん。」


言うだけ言って、リコちゃんはどこか照れくさそうな顔をしながら口を閉じた。
意識して変えてるわけじゃないんだけど、気がついたら変わっていってる、と、言うか…。


「なんとなく、」
「うん?」
「その気持ち、わかる。」


私が気がついたら、ぺトラを真似たような髪型に、なっていたように(それと比べたら、リコちゃんの変化はすごく良い意味での変化だけど)リコちゃんも、イアンさんていう(本人曰く)心から尊敬できる兵士が出来て、何かが変わってきたんだろうなぁ、って思った。


「この間、」
「うん?」
「…リヴァイさんに『この幸せがずっと続くといいですね』って話してたんだけど、」
「…」
「続くといいね、今がずっと。」
「…そう、だな。」


例えそれが、諸刃の剣のような存在であったとしても…。


「フィーナ、ここどうかした?」
「え?…あぁ、これ…。」


リヴァイさんがそりゃあもう盛大につけてくれた歯型は数日経った今もまだ微妙に残るほどで(出血したくらいだから当たり前と言えば当たり前だけど)
リコちゃんは自分の首で私が絆創膏をしているあたりを指さしながら聞いてきた。


「ちょ、っと…、怪我?」
「…大丈夫?首って一歩間違えたら大怪我になりかねないじゃないか。」
「あー…、うん、大丈夫。ありがとう。」


実は噛みつかれたんです、なんて言おうものなら、リヴァイさんと仲が悪いリコちゃんは、そのままリヴァイさんに会いに行きかねないからただの怪我で丸く収めることにした。


「またすぐ遠征だって?」
「そう。今度は少し…森の方まで足を伸ばすって…。」
「…気をつけなよ?」
「…うん、ありがとう。リコちゃんも仕事頑張ってね。」


そう言って手を振りながらリコちゃんと別れた。


「おかえりなさい。」
「あぁ…、ただいま。」


トロストから兵舎に戻ってしばらくすると仕事を終えたリヴァイさんが戻ってきた(近々ある遠征の詰めに幹部は休みなし)


「出かけてたのか?」
「はい。トロストまで。パン買って来たんですけど、食べませんか?」
「パン?」
「はい。夕飯まだならどうぞ。」
「………お前ここのパン好きだな…。」
「美味しくないですか?」
「…あったらでいいんだが、」
「はい?」
「どうせ買ってくるなら、」
「はい。」
「これじゃなく、タマゴ挟んである奴にしてくれ。」
「……………」
「……何ニヤニヤしてんだ?気持ち悪ぃ。」
「す、すみません、ちょっと思い出し笑いを…。」
「はぁ?」


ここのパン屋さんは、どんなに食料が高騰しても、どうにか上手くパンを供給してくれていた。
だから今も、初めてリヴァイさんに連れていかれた時と、変わらない味を出してくれている。
私に初めて買ってくれたパンがベーグルだったから、てっきりそういうシンプルなものが好きなのかと思っていたら、「タマゴ挟んである奴」と言われてしまったから…。


「次の遠征も、無事に帰還してきましょうね。」
「当然だ。」


「今」がなんて幸せで、なんて愛しい時間なんだろうと、心から思った。

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