Attack On Titan


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ラブソングをキミに


イルゼ・ラングナーの手記 2


「あ、お、おかえり、なさい。」
「………………」


お風呂も済ませ、部屋に戻ってしばらく…。
リヴァイさんが戻ってきた。
…ん、だけ、ど…。
エルドさんの言うように、リヴァイさんは機嫌というものを訓練場に忘れて来たようで、「ただいま」の返答もなかった…。


「………………」


そして一言も発さないまま、ドガッ!と私の座っているソファに腰を下ろし、いつものようにブーツを脱ぎ始めた。
……………エルドさん、これ普通に考えて無理です。
この空気の中、どうやって抱きつくんですか…。
私そこまで死に急ぎたくないです…。


「………………」


チラッと横目で見るリヴァイさんは、無表情ながらも怒ってる顔をしていた…。
…あぁ、でも今ここで何かしとかないと困るのはこの後同じ部屋にいなければならない私だ…。
だからってこんな中抱きつくなんて空気読めてないのもほどがある、っていう、か…。
どうしよう、どうしよう…。
と、とりあえ、ず、抱きつくまではいかずとも、この2人並んで座っているにも関わらず、微妙に空いたスペースを埋めるところから、始めよう、か、な…。
それなら大丈夫、だよ、ね…?
……………うん、大丈夫、大丈夫、頑張れ私…!!


「………………」


自分に言い聞かせながら、人1人分空いたスペースを埋めるべく、スッ、と、リヴァイさんの方に近づき、リヴァイさんの右腕に体をくっつけるように座り直した。


「なんだ?何か用か?」


明らかに、この空気の中でこんなことしてるのは、なんだ?って言いたくなるのはわかるんです。
でもそんな「何か用か?」なんて言わなくても…。


「べ、つに、用、が、ある、わけ、じゃ、」


私の言葉に、ガン!と脱いだブーツを投げたリヴァイさん。


「大方、エルドにでも言われたんだろう?俺の機嫌を取ってこい、と。」


…………………図星すぎて、言葉が出ない…。
どうしようかと、次の言葉を模索していた時、トン、とリヴァイさんに肩を押されてソファに押し倒された。


「お前の態度次第では、乗ってやらんこともない。」
「…え?」
「俺の機嫌が取りたいんだろう?」


その言葉と同時に、バッ、と、胸元をはだけさせるように服を引っ張られた。


「ち、ちょっ、」
「…………」


リヴァイさんは私の首筋に舌を這わせ、口づけた。
と、思った直後、


「いたっ!?」
「…………」


鋭い痛みが走った。


「リ、リヴァイ、さん…?」
「…………」


私の言葉にも微動だにしないリヴァイさんにどうしようかと思っている時、


トントン


「リヴァーイ、いるー?」


ノックと共に部屋のドアが開いた。
思わずそっちを見てしまった私は、ドアから入ってきた人物、ハンジさんとぺトラを、思いっきり視界に入れてしまった。


「ち、ちょっ、リヴァイさん!」
「…………」
「あ、あー!出直す!うん!出直すからっ!!ごゆっくり!!」


ハンジさんは来た勢いそのままにバタン!とドアを閉めて出ていった。




「………………あー、っと、ぺトラ、これにはね、」
「知ってます。」
「深いワケが、って、えっ!?」
「知ってます、兵長とフィーナの関係のことですよね?」
「あ、あぁ…、うん、そう、なんだけ、ど…。」
「さすがにあぁいう場面は初めて見たけど…、うちの班で知らないのはグンタくらいですよ。」
「え!?オルオは!?」
「オルオには私から言ってあります。そういうの全く気づかなそうな性格な上、フィーナと仲が良いから兵長に嫌な思いさせそうだと思って。同じ班なのに少しでも不信に思うところがあるって、嫌じゃないですか。…もっともオルオは全く信じなかったけど…。でもさすがに今日のことで少しは信じたんじゃないですか?エルドも何か言ってたみたいだし。」
「…な、なんで、」
「はい?」
「なんで、気づいたの?」
「あぁ…。んー…、元々ゲルガーさんたち先輩兵士の発言からそんな気はしてたんですけど、決定打は最近で…。グンタがフィーナにコーヒーの淹れ方を教えてもらった、って言ってきた時、かな?」
「コーヒー?」
「はい。『兵長好みのコーヒーの淹れ方』って。その時にアレ?って思ってグンタに教えてもらった時のこと詳しく聞いて、」
「うん。」
「…グンタの話を聞いて、あぁ、やっぱりか、って今までのこと全部納得いった、というか腑に落ちたと言うか…。」
「…ぺトラって、」
「はい?」
「てっきりリヴァイのこと、好きなんだと思ってた…。」
「あー…、たぶん、フィーナも、そう思ってたんだと思います。…もしかしたら今も。『だから』私に対して壁があったのかな、って。」
「…」
「でも違うんです。なんて言うか…、そりゃあ最初は『憧れ』とか『好き』って気持ちはありましたけど…。でも同じ班員になって兵長の人となりを知ることができてそれらの浮ついた不純な気持ちが純粋な『上官への尊敬』に変わったんです。『尊敬』は『尊敬』であって、そこから恋愛対象には、ならないですよ。兵長の人柄を知っても、…ううん、兵長の人柄を知ったからこそ、より民衆の『絶対的ヒーロー』と思ったというか…。そんな人と恋愛なんて、考えられない。」
「絶対的ヒーロー、か…。」
「…でもフィーナは違うんですよね。」
「うん?」
「以前、話をした時に思ったんですけど…。フィーナは民衆が抱く『絶対的ヒーロー』の前に1人の人間として、兵長を尊敬してるんです。民衆が抱いている『人類最強の兵士』としてではなく、『リヴァイと言う1人の男の人』として、尊敬してるんです。」
「………」
「アレを聞いたら、やっぱり兵長は『絶対的ヒーロー』だな、って思いました。」
「…え?」
「選ぶ女もそこらへんにいる女では妥協しない、ってことです。」
「…そっか…。リヴァイも良い班員に恵まれたねー!」
「ハンジ分隊長の班ほどじゃないですよー。」
「そう?」
「はい。ハンジ分隊長に最後の最後までつきあうモブリットさんを見ると、私じゃとてもとても。」
「………それってどういう意味?」
「さぁ?」




「ちょっ、リヴァイさん!いい加減にしてくださいっ!!ハンジさんたち、帰っちゃったじゃないですかっ!!」


少し弱くなったとは言え、相変わらず首から痛みが伝わってくる。


「…………お前、俺の機嫌を取りたいんじゃなかったのか?」


少し痛みが和らいだと思ったら、ゆっくりと顔をあげたリヴァイさん。


「それ、は、まぁ…。」
「ならば何故ハンジのことを気にする?」
「そ、れと、これとは、」
「同じだ。」


リヴァイさんは無表情に言う。
…その表情からは、機嫌が悪いのか持ち直そうとしているのか、確証を持てなかった…。


「…………」


どうしようかと思った時、リヴァイさんがジーッ、と、私を見てきた。


「な、なん、です、か…?」
「……いや、風呂に入ってくる。」
「は、い…?」


そう言って、ジャケットを脱ぎスタスタと部屋に備え付けの簡易シャワールームに行ったリヴァイさん。
なんだろうかと思って、リヴァイさんが見ていた辺りを鏡で確認した。


「なっ!?」


鏡に近寄り自分を見ると、さっき痛みを感じたところにはくっきり歯型がつけられていて、付近の襟には少しの血が着いていた。
……………何これ、噛まれた、って、こと…?
あの痛み、キスマークくらいにしか考えてなかったのに…(それにしてもあの痛みはおかしかったけど)
…しかもこの位置だと、スカーフ巻いても動くと微妙に見えそうな気が…。
血が出るほどの噛み傷が、明日の朝までに治ってるなんて思えない…。


「自分の顔に見とれてたのか?」


あぁ、明日の訓練どうしようどうしようと鏡の前で考えていると、悠然とシャワーを浴び出てきたリヴァイさんに声をかけられた。


「なんだ?首がどうかしたか?」


歯型の残る首を抑えながらリヴァイさんを睨むように見ると、どこか可笑しそうな声でリヴァイさんは言ってきた。


「怪我でもしたなら俺が舐めてやるぞ。クソメガネも言ってたしな。『怪我なんて舐めときゃ治る』と。」
「……………結構ですっ!!」


あくまでシラを切る発言をするリヴァイさんにムッとしながら、チェストから着替えを出した。


「着替えるのか?」
「…えぇ!『怪我』をして首から出た血が服に着いたんで洗ってくるんですっ!」
「お前知らないのか?」
「何をです!?」
「服に着いた血はすぐに洗い落とさなければ、落ちないぞ。」


再び睨むようにリヴァイさんを見ると我関せずな顔で、濡れた髪をタオルで拭いていた。


「………血の痕がある服着てろって言うんですかっ!?」
「捨てればいいだけの話だ。」
「捨てれば、って、誰のせいだと思ってるんです!そもそもリヴァイさんが、」
「良かっただろ?」
「…何がです?」
「その服1枚で俺が機嫌を直してやったんだ。安いもんだろ?」


タオルを被り、濡れた髪の隙間から覗くように私を見遣るリヴァイさん。


「……なんで、」
「あ?」
「そもそも、なんで機嫌、悪かったんですか?」
「………さぁな。」


たった一言で返したリヴァイさんに、また少しムッとした。


「明日、」
「なんだ?」
「…訓練の時、この痕見えたらどうするんですか…。」
「見せてやればいいじゃねぇか。お前にそんな痕が着いてても今更誰も何も思わねぇだろ。」
「…………」
「ほら、」
「え?」
「言っただろう。俺が舐めてやる、と。」


そう言いながら手を差し出してきたリヴァイさん。
…………このままこの手を取ることはなんだかすっごく釈然としないけど、せっかく持ち直した(らしい)機嫌を、自ら斜めにしてしまうのも躊躇いがある私は、1つ小さなため息を吐いてから、その手を取った。

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