Attack On Titan


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ラブソングをキミに


絶望への前奏曲 8


「………おい、」
「はい?」
「もっとどうにかなんねぇのか?」


本人曰く、人生初のマッサージをされている最中のリヴァイさんが軽く頭を起こして言ってきた。


「どうにか、って…?」
「どう考えても擽られてるだけにしか感じない。」


チラッ、と私を見ながら言うリヴァイさん。


「…気持ちよくないですか?」
「どこらへんがだ?お前擽ってるだけだろ?」
「そん、な、ことないです。ちゃんとマッサージしてますよ?」


擽るって言うのはこうです、と、リヴァイさんの脇腹をこちょこちょと擽った。


「……………」
「違いわかりません?」


無言で突っ伏すリヴァイさんに、少しだけ身を乗り出して聞いた。


「………じゃあ、マッサージ続けますよ?」


反応のないリヴァイさんに断りを入れ、再びリヴァイさんの腰あたりを指圧し始めた時。


「大体、お前は『押す力』が弱すぎる。」


うつ伏せに寝ていたリヴァイさんは、ぐるん、と、仰向けになった。


「…普通ですよ?」
「いいや、弱い。」
「でも、ゲルガーさんやミケさんは気持ち良い、って、」
「アイツ等と一緒にするな。そもそもお前、手つきが悪いんじゃねぇか?」


そう言いながら、私の手首を掴んできた。
……マッサージ初めてって言う人から手つきが悪いって言われたくない……。
少しだけムッ、とした時、


トントン


ノック音が響いた。


「入れ。」
「失礼しま、っ!?」


ドアを開けたのはエルドさんで、開けてこちらを見た瞬間、ダン!と壁に体をぶつけていた。


「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫!大丈夫だから!」
「なんの用だ?」
「は、はいっ!この書類、団長から兵長にと、」
「あ、じゃあ私が、…リヴァイさん、手を離し、」
「いいからっ!!そこにいていいからっ!!ここっ!ここに書類置いて行くんでっ!!し、失礼しましたっ!!!」


ここ、と言ってテーブルに書類を置いたエルドさんは、1度もこちらを向くことなく、あっという間に部屋から出ていった。


「…な、なんだったんです、か、ね?」
「アイツもからかい甲斐があるからな。」
「え?」
「わからないか?お前は今俺に何してる?」
「…マッサージしてます、が?」


私のその言葉にリヴァイさんは少しだけ、目を細めた。


「だが端から見たら、熱で倒れた俺の上に跨がりせっせと腰動かして奉仕してるようにしか、みえねぇかもな?」


かもな?と言いながら、右手で私の左足のつけね辺りと、左手で右のお尻辺りを掴んだリヴァイさん。
…………。


「あぁ、漸く事の次第がわかったか?」
「………」
「そう睨むな。」


俺は病人だぞ、と言いながらも、どこか楽しそうな声色のリヴァイさん。


「…エルドさん、勘違いしたんじゃ、」
「放っておけ。第一、」
「!」


言いながらリヴァイさんは私をベッドの中に引き込んだ。


「『そういう仲』だとバレてんだ。取り繕う必要もない。」


そう言ってリヴァイさんは、ベッドの中で私を抱きしめて来た。


「い、いくら、バレてるから、って、そういうのはですね、」
「後暗いことなど何もねぇだろ?」
「…まぁ…、そう、です、けど、」
「じゃあいいじゃねぇか。」


そう言いながら、リヴァイさんは熱を出す以前そうしていたように、私を抱きしめながら寝ようとしていた(リヴァイさんが発熱してからはさすがに一緒に寝るのは何だから看病しながらベッドに寄りかかって寝ようかと思っていたら、それだけはダメ、と譲ってもらえずソファで寝るように言われそうしていた)


「リ、ヴァイさん、は、」
「あ?」
「…そういうの、嫌じゃないんです、か?」
「……嫌とは何に対してだ?」
「だから、……こう、おかしな目で、見られると言うか、」


私の言葉に、あぁ、と短く頷いた。


「お前は他人を安易に信用しない割に、他人からの評価は気にするんだな。」


ハッ、と鼻で笑った声がした。
………安易に信用しないわけじゃないけど、評価を気にしていないわけでも、ない、から、どう返すべきか、返答に詰まった。


「お前の上辺しか知らんような奴らの評価など気にするな。」
「……でも、」
「なんだ?」
「…他人の目は、気になり、ます。」
「だからそれを、」
「『人類最強』って、」
「あ?」
「…そう、言われる人といれるような人間じゃないってのは、自分が1番、知ってます。でも、…だから、人から、あまりおかしな目で見られないように、って、」
「……………」


ぺトラのリヴァイさんに対する思いを聞いてから、より強くそう思うようになった。
ぺトラの想いが恋愛でのそれなのか、それとも上官に対してのそれなのか、ほんとのところは本人にしかわからない。
でも、誰もが憧れる「人類最強」にはやっぱり、それ相応の、…それこそぺトラのような人がいた方がいいんだろう、って…。
…私なんかよりも、ずっと…。


「それでか?」
「え?」
「お前が髪型を変えた理由だ。」
「いたっ!?」


ピン!と、私の額を指で弾いたリヴァイさん。


「どういう心境の変化で髪を伸ばし始めたのかと思っていたら、ぺトラのような頭にしやがって。」


………………や、うん、ほんとにその通りだから反論出来ない。
美人で社交的で、兵士としても腕が立って…。
そんな人になれるわけがない私の付け焼刃とでも言うかのように、自分でもなんとなく伸ばした髪は、いつからかそうだと思うほど、「女性として憧れている」ぺトラを意識したような髪型になっていた(もっとも傷痕を隠すため、分け目は逆だけど…)
それに対し、リヴァイさんははっきりと「バカバカしい」と言った。


「お前のことだ。社交性や兵士としての技量が劣るならば、せめて見てくれだけでもとか思ったんじゃねぇか?」
「…そ、いう、わけ、じゃ、」
「なんだ、違うのか?」


………違わないから、すごく言葉に詰まります…。


「お前はお前だからいいんだ。ぺトラのようになる必要などない。」
「…でも、」
「第一お前、ぺトラの本性知らんだろう。」
「…………本性?」
「アイツ、よくオルオをぶん殴ってるぞ。」
「………ぶん殴る?え?ぺトラがですか?なんで?」
「さぁな。だがこの前はオルオがスカーフ巻いてるのが気持ち悪ぃとかそんな理由だったぞ。」
「…あぁ、最近オルオもスカーフ巻いてますよね…。」


毎日ではないけど、最近のオルオはなんて言うか…、気のせいかもしれないけど…、リヴァイさんのようなスカーフの巻き方をするようになった…気がする(もし本当にリヴァイさんの巻き方をしているんだとしても微妙にあの巻き方が出来てない)
リヴァイさんが言うことが本当だとして、ぺトラが言った気持ち悪い、とか。
そういうのじゃなくて、ただ純粋に、オルオどうしちゃったんだろう、とは思った。
……………私はもしかして、オルオと同じこと、してるのかもしれない……。


「み、」
「あ?」
「短い、方、が、いい、です、か?」


決してそんなつもり(オルオのようなことをしているつもり)はないのだけど、そんなような気がして、急に、今のこの髪型がちょっと、まずいような気になってきた…。


「俺より短くなけりゃなんでもいいぞ。」


……………この人は、どうして本当にこうなんだろうか……。
あなたより短いって、坊主ってことですか?
さすがにそんな短くした方がいいですか、って意味で聞いてないですよ。
あぁ、もう本当に、と思った時、リヴァイさんが私の頭に顔をくっつけてきた。


「お前の髪は良い匂いがする。」
「え?」
「これがこのままなら、短かろうが、長かろうが、俺はどっちでもいいがな。」


すー、っと、私の髪の匂いを嗅ぐかのように、リヴァイさんが息を吸い込んだのがわかった。


「フィーナよ。」
「はい?」
「お前、他人の評価を気にする暇があるなら、俺の評価を気にしてろ。」
「…え?」
「どこの誰とも知らん奴がお前を評価する言葉より、俺の言葉を信用しろ。」


そう言ってリヴァイさんは私の頭にキスを落とした。
…それがどこか擽ったく、どこか…胸を締め付けた気がした。


「オルオは、」
「なんだ?」
「リヴァイさんの真似、してるんですよ、たぶん。」
「………あ゛?」
「そう思いません?こう…、仕草とか?なんとなく意識してるのかぁ?ってところあるし、あのスカーフも、ちょっと巻き方苦戦してるみたいだけど、」
「……………ぜんっぜん似てねぇだろ。」
「嫌ですか?」
「嫌かどうかの問題じゃなく、似てねぇだろ。」


その思いを隠すかのように、小さなことで笑っていた。

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bkm

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